いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧

頭木弘樹,NHK〈ラジオ深夜便〉制作班,根田知世己,川野一宇著「絶望名言」(飛鳥新社)

通常、こういった名言集というのは、読者を奮起させて前向きにさせる言葉を選んだものである。 しかし、本書にそのような前向きさは無い。古今東西の著名人が向かい合った、病気や事故、友人や知人の不幸、失恋、挫折、そして孤独。こうした心身共に痛ましく…

尾脇秀和著「氏名の誕生:江戸時代の名前はなぜ消えたのか」(ちくま新書)

この世に名を持たぬ人はいない。現代日本に住むほとんどの人は、姓と苗字が同じ意味を持ち、苗字が先に来て、次に名が来る。名を変えることはほとんどなく、どうしても名を変えたければ家庭裁判所に申し出て許可を得なければならない。日本国の名の構造にお…

トニー・サルダナ著, 小林啓倫訳「なぜ、DXは失敗するのか?:「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデル」(東洋経済新報社)

デジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスシーンにおいて登場するようになったのはいつ頃であろうか? 当方これでもITエンジニアであるのでニュースにおいてDXが取り上げられるようになった頃にはもうDXに関する業務に携わってきたが、世間一般の基準…

尾花山和哉・株式会社ホクソエム編「データ分析失敗事例集:失敗から学び、成功を手にする」(共立出版)

昨日の第50回衆議院議員総選挙で自公連立政権で過半数割れという想像以上の与党惨敗が起こった。現役の法相と農水相が比例復活もならずに議席を失ったのみならず、公明党代表まで議席を失ったというのだから穏やかではない。一方、野党第一党となった立憲民…

ルース・ベネディクト著,阿部大樹訳「レイシズム」(講談社学術文庫)

本書の原著刊行は1940年、すなわち、ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発し、ファシズムが世界を席巻していた頃である。ファシズムの繰り広げているレイシズムの過ちをまとめることで、ルース・ベネディクトは第二次大戦での連合国の論理的支柱を作るべくこの…

あさひゆり著「コロナ禍でもナース続けられますか」(竹書房)

本書は現役の看護師である著者が、COVID-19の渦中で看護師をつとめたときの経験を書き記した一冊である。単純に記すとこうなる。 しかし、本書に描かれているのは人間の醜さ、汚らしさ、みっともなさのリアルである。 医療従事者であるというだけで、差別者…

橋場弦著「賄賂と民主政:古代ギリシアの美徳と犯罪」(講談社学術文庫)

令和6(2024)年10月27日投開票の衆議院議員総選挙に際し、多くの政党が企業・団体献金の禁止を訴えている一方、各政党、あるいは候補者の集めた寄付金を見てみると、企業・団体献金の禁止を訴える者が多ければ多いほど、個人献金が多いことが見てとれる。個人…

マイケル・サンデル著,鬼澤忍訳「実力も運のうち:能力主義は正義か?」(ハヤカワ文庫NF)

源平合戦こと治承・寿永の乱の勝者は、源頼朝である。 天下を掴んでいた平家は都落ちをし、一度は天下を掴んだかのように見えた木曾義仲は戦場に散り、戦乱に加わらなかった奥州藤原氏は源平合戦終結後に滅亡した。最後に源頼朝が生き残り、鎌倉幕府が成立し…

清水剛著「感染症と経営:戦前日本企業は「死の影」といかに向き合ったか」(中央経済社)

人類と感染症との戦いにおいて、人類最大の敵となるのは、細菌でも、ウィルスでもなく、感染症を甘く見て舐めくさっているやつである。 本書刊行の2021年4月は、前年より広まっていたCOVID-19の渦中であり、かつ、ワクチンがようやくスタートしたばかりの頃…

五味文彦著「武士論:古代中世史から見直す」(講談社選書メチエ)

私は平安時代叢書の中で、平安時代初期の38年間に亘る東北地方遠征終結後の朝廷の軍勢を武士のスタートであると記した。坂上田村麻呂の副官を務めた文屋綿麻呂による東北地方制圧による本州統一が弘仁二(811)年12月13日であり、その帰路に解散した軍勢が各地…

ヨハン・ノルベリ著,山形浩生訳「資本主義が人類最高の発明である:グローバル化と自由市場が私たちを救う理由」(ニューズピックス)

資本主義を資本家の私利私欲の産物と見做していては、より良い暮らしの成就はありえない。それは何も近現代に限った話ではない。本書は近現代の資本主義の発展がもたらした生活水準の向上を主眼に置いて論評する一冊であるが、本書で取り上げている内容は他…

中村聡一著「教養としてのギリシャ・ローマ:名門コロンビア大学で学んだリベラルアーツの真髄」(東洋経済新報社)

本書を読む前の自分には驕りがあった。文学部史学科西洋史専攻で西洋古代史ゼミに所属していた自分にとって既知の再確認となるであろうという驕りである。 今の自分にそのような概念は無い。驕りに満ちていた自分への恥の感情だけである。 たしかに本書に記…

八條忠基著「「勘違い」だらけの日本文化史」(淡交社)

リードを辿ると首輪の付いた犬。現在ではよくある光景であるが、リードの先が犬ではなく猫である。1000年前では珍しくなかった。 台所で何かを調理する平安貴族。男子厨房に入らずなどという言葉と大違いの光景である。1000年前では珍しくなかった。 日本サ…

三舟隆之&馬場基編「古代寺院の食を再現する:西大寺では何を食べていたのか」(吉川弘文館)

大学だとそのほとんどが、高校の段階でも多くの人が、文系と理系に分かれる。そして、文系に進むほとんどの人が数学や物理や化学と無縁となり、理系に進む多くの人が歴史や地理と無縁となる。 果たしてそれで正しいのかと言われれば、結論から言うと正しくな…

マイク・ブラウン著,梶山あゆみ訳「冥王星を殺したのは私です」(飛鳥新社)

人類が地球に誕生する前から冥王星は太陽の周りを回る天体であり続けていたし、今も冥王星は太陽の周りを回り続けている。その天体を惑星と扱うか準惑星と扱うかは太陽系第三惑星の決めごとでしかなく、冥王星にとってはどうでもいいことである。 本書は、そ…

ユルゲン・コッカ著,山井敏章訳「資本主義の歴史:起源・拡大・現在」(人文書院)

資本主義が始まったのはいつか? 産業革命か? 重商政策の頃か? ルネサンスか? 本書の著者はそれよりも前から資本主義が存在していたことを書き記す。イスラム教勃興期、古代ローマ帝国、そして紀元前の中国も資本主義の経済であったとしている。 無論、資…

中川右介著「1968年」(朝日新書)

1968年、昭和で記すと昭和43年。この一年を日本国の歴史で捉えると文化的に大きな変革を迎えた一年であった。その一年を当時は8歳であった著者がまとめている著作である。 ただ、本書に対する評判はあまりにも高いものとは言えない。特に、この一年を10代後…

細川重男著「鎌倉幕府抗争史」(光文社新書)

とあるテレビ番組にて、源頼朝が亡くなってからの鎌倉幕府を「広域暴力団関東源組」と評した人がいた。さすがにこの言葉はどうかと感じたが、本書を読むと、その論評は必ずしも間違ってはいないと感じる。 純粋に捉えると物騒な言葉となるが、冷静に考えると…

アンドリュー・スチュワート著,小林啓倫訳「情報セキュリティの敗北史:脆弱性はどこから来たのか」(白揚社)

いつもどこかで情報セキュリティの問題が発生している。問題が発生するたびに問題を解決するために人員を割き、時間を割いて対応する。中には情報セキュリティ問題への対処を専門とするエンジニアもいるが、多くの場合、問題に対する対応は他に本業を持つエ…

足達英一郎,村上芽,橋爪麻紀子著「投資家と企業のためのESG読本」(日経BP)

ESG。Environment, Society and Governance(環境・社会・ガバナンス)。「企業の社会的責任 (Corporate Social Responsibility: CSR)」という言葉を知っている人は多いであろうが、ESGはその上位概念とも言えよう。ただし、企業に対する一般的評価というよ…

今井雅晴著「仏都鎌倉の一五〇年」(吉川弘文館歴史文化ライブラリー 510)

鎌倉時代はこれまでに無い新しい仏教の登場した時代でもあった。厳密に言えば平安時代の終わりに既に新しい仏教の萌芽が見え、法然が浄土宗を、親鸞が浄土真宗を、日蓮が日蓮宗を、栄西が臨済宗を、道元が曹洞宗を、一編が時宗を作りだした。 ここまでは鎌倉…

藪本勝治著「吾妻鏡:鎌倉幕府「正史」の虚実」(中公新書)

平安時代叢書でこれまでにも何度か記してきたし、今後も何度も記すことになるが、吾妻鏡は鎌倉幕府の正史であると同時に、北条家にとって都合良く脚色された歴史書でもある。 先日のこちらの書籍でも述べたが、吾妻鏡を追いかけると源平合戦以降の鎌倉幕府の…

ティモシー・スナイダー著,池田年穂訳「アメリカの病:パンデミックが暴く自由と連帯の危機」(慶應義塾大学出版会)

当ブログでは何度か、ティモシー・スナイダー氏の著作を挙げている。 rtokunagi.hateblo.jp rtokunagi.hateblo.jp rtokunagi.hateblo.jp 中央ヨーロッパや東ヨーロッパの歴史研究に取り組み、特にホロコースト研究で高い実績を残している著者は、2019年、50…

今井むつみ著「学力喪失:認知科学による回復への道筋」(岩波新書)

まずは以下の問題を解いていただきたい。 250g入りのお菓子を30%増量すると、お菓子の量は何gか? 休憩無しで山に登ってから降りるのに5時間10分掛かった。山を登るのに2時間50分掛かったとしたら、山から降りるのは何時間何分か? 1/2と1/3ではどちらが大…

永井晋著「鎌倉幕府の転換点:『吾妻鏡』を読みなおす(読みなおす日本史)」(吉川弘文館)

10月1日、平安時代叢書第二十集「承久之乱」の公開が始まった。平安時代叢書の最終集である。もとより承久の乱までを平安時代叢書で描くと宣言していたので、承久の乱の描写で平安時代叢書は終わる予定である。 ameblo.jp さて、源平合戦からの歴史を叙述す…

今尾恵介著「地名崩壊」(角川新書)

私はさいたま市に住んでいる。しかし、さいたま市誕生から23年を迎えた現在に至ってもなお、この市名にはまだ納得できていない。さいたま市誕生後に引っ越してきた立場で言っていいことではないが、自分は浦和市に住んでいると思っているし、旧大宮市域につ…

赤瀬川原平著「外骨という人がいた!」(ちくま文庫)

宮武外骨を「反骨のジャーナリスト」と多くの人は評する。ただ、その反骨の度合いは尋常ではない。明治から戦後にかけて言論の自由にチャレンジし続けた結果、逮捕されること3回、発行停止処分を受けること43回、自らがかかわった雑誌のうち実に17誌が廃刊に…

三春充希著「武器としての世論調査:社会をとらえ、未来を変える」(ちくま新書)

2024年10月、石破茂自民党総裁、第102代内閣総理大臣に就任。 直後に実施された内閣支持率はおおむね50%前後と、先の岸田内閣支持率に比べれば高い数字であったが、これまでの新内閣発足時の支持率に比べれば低いものであった。 さて、こうした内閣支持率を…

網野善彦著「日本中世の民衆像:平民と職人」(岩波新書)

我が国の庶民についての一般的なイメージとしては、「弥生時代に稲作が伝来してから近年までのおよそ2000年間、日本人の多くは稲作農民であった」というものであろう。 しかし、このイメージは覆されつつある。 まず、稲作の伝来は弥生時代ではなく紀元前400…

ジッド著,國分俊宏訳「ソヴィエト旅行記」(光文社古典新訳文庫)

ソビエトのアネクドートにこういうものがある。 ソビエトに観光に来た人が、ソビエトに憧れを持ってソビエトに亡命したら、観光で見たのとはあまりにも違う暮らしぶりに落胆し、激怒し、文句を言ったが、このように言われて一蹴された。「君は今は観光客では…