いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

山口博著「日本人の給与明細:古典で読み解く物価事情」(角川ソフィア文庫)

江戸時代の越後屋の勤務状況が、 12歳から22歳になるまで無給 休暇は年に2回 10年間勤め上げると給与を貰えるようになるが1年ごとの契約更新があり終身雇用ではない 30歳まで働けた者が10人に1人である 以上を踏まえると、「越後屋、お主も悪のよう」が別の…

福間良明著「「勤労青年」の教養文化史」(岩波新書 新赤版 1832)

昭和20(1945)年を期に、それまで信じていたことが一瞬にして崩壊した。 玉音放送を聞いた大人は自らを見つめ直した。 生まれたときから国が戦争をしていた子供は自らを作り始めた。 今をいかにして生きるかという現実と並行して、教養への需要が生まれた。 …

近藤正高著「タモリと戦後ニッポン」(講談社現代新書)

本書について何を書こうか、そう考えた私の思いをぶち破ったのは、Amazonに投稿されたこちらのレビューである。 www.amazon.co.jp このレビューを読み終えた今となっては、もはやこれ以上何かを語っても負けであると悟り降伏するしかない。私にできるのはこ…

牧英正著「人身売買」(岩波新書 青版 801)

人手は欲しいがコストは掛けたくないというのもまた、人間の本性である。 本来あるべき形は、労働基準法に基づいて正当な賃金を支払うことである。しかし、世の中にはそのような概念を適用させずに奴隷扱いする人がいる。 本書は、我が国の歴史においてそう…

塩沢美代子&島田とみ子著「ひとり暮しの戦後史:戦中世代の婦人たち」(岩波新書 青版924)

昭和50(1975)年の本だが、現在と変わらぬ問題がそこにはあった。と同意に、本書には記されていない大問題が、現在には存在するのだと痛感させられる一冊である。 それは、正規・非正規の格差問題。 トマ・ピケティが21世紀の資本として格差の拡大を著したの…

中島和歌子著「陰陽師の平安時代:貴族たちの不安解消と招福」(吉川弘文館)

現在放送中の大河ドラマ光る君へでユースケ・サンタマリア氏が演じる安倍晴明は第32話で命を落としている。これは何も番組が打ち出したオリジナルストーリーではなく、史実でも安倍晴明は寛弘二(1005)年に亡くなっている。 さて、安倍晴明と言えば陰陽師、陰…

佐藤卓己著「流言のメディア史」(岩波新書)

以前から兆候は見えていた。東京都知事選挙で現職の小池知事が再選されたところまでは事前予測の通りであっても、立憲民主党をはじめとする野党各党が推した蓮舫候補が三位になることは予想できなかった。 その後のアメリカ大統領選挙でトランプ候補が大統領…

竹内康浩&朴舜起著「謎ときサリンジャー:「自殺」したのは誰なのか」(新潮選書)

サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」(A Perfect Day for Bananafish)のラストで、シーモア・グラスは拳銃で自らのこめかみを撃ち抜く。いわゆる「グラス家」シリーズの一作目のラストであり、「ライ麦畑でつかまえて」(The Catcher in the R…

宮坂昌之著「新型コロナワクチン:本当の「真実」」(講談社現代新書)

このタイトルで上梓されたのは、宮坂氏の、そして講談社の慧眼とするしかない。タイトル的に反ワクチンの人でも手に取ってしまうだろうから、本書によって反ワクチンが減ってワクチン摂取者は増えることも期待できる。 無論、本書の内容は反ワクチンの人が期…

里見脩著「言論統制というビジネス:新聞社史から消された「戦争」」(新潮選書)

マスメディアが「マスゴミ」と呼ばれるようになったのはいつからだろうか? 読者や視聴者から報道が信じられないという声が挙がる一方、メディアのほうからはネット言論に対する批判的な論調が挙がっている。中にはネット言論の規制を訴える論調まで存在する…

福島右門著「京都の桜」(光村推古書院)

書籍は紙が良いか、それとも電子書籍が良いかの論争は終わることがないが、その上で私の考えを述べさせていただくと、絵画や写真などの多い書籍は電子書籍のほうが優れている。 しかし、本日紹介するのは紙の書籍である。紙の書籍を紹介する理由は単純明快で…

浅野和生著「ヨーロッパの中世美術:大聖堂から写本まで」(中公新書)

紙の書籍を買うか電子書籍を買うかの論争は答えの出ない論争であるが、本書の場合は明確な回答が出ている。 電子書籍である。 本書に掲載されている美しいカラー写真は電子書籍版であるからこそ詳細に味わうことができる。 中世ヨーロッパは暗黒の時代と評さ…

戸部田誠(てれびのスキマ)著「フェイクドキュメンタリーの時代:テレビの愉快犯たち」(小学館新書)

昨日投開票された兵庫県知事選挙で斎藤元彦氏が再選した。 テレビや新聞といった既存メディアでは斎藤元彦氏に対するマイナスイメージの報道が繰り広げられた一方、ネットでは斎藤元彦氏に対する客観的な報道が広がっていた。その結果が斎藤元彦氏の当選であ…

ターシャ・ユーリック著,中竹竜二監訳,樋口武志訳「insight:いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」(英治出版)

「本当の自分を理解して欲しい」なんてフレーズはよくあるフレーズであるが、そもそも、本人自身が本当の自分を理解していないというのもまたよくある話だ。 自分がどのような人間であるかを見つめると、多くは現実よりも優れた自分であると自己認識してしま…

西谷正浩著「中世は核家族だったのか:民衆の暮らしと生き方」(吉川弘文館)

日本の非都市部に住む庶民の一般的な家族構成に目を向けると、古代と中世とで大きな違いが出てくる。極論すると、縄文時代から存続していた竪穴式住居での大家族から、現在の我々の家族構成として一般的に思い浮かぶ姿へと変化する。 単純に考えると、結婚し…

ダグラス・マレー著,町田敦夫訳,中野剛志解説「西洋の自死:移民・アイデンティティ・イスラム」(東洋経済新報社)

危険な本である。 本書はヨーロッパの移民問題を問題として明瞭に示した書籍であり、移民が移民先で起こしている社会問題を文字に起こしている。このことを危惧すると差別主義者と糾弾される社会であるにもかかわらず、文字にしている。 誰もが感じているこ…

ジョエル・コトキン著,寺下滝郎訳,中野剛志解説「新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告」(東洋経済新報社)

公立の小学校や中学校に通っていた人は、FacebookやLinkedinで同級生の名を検索してもらいたい。特に、高い偏差値の高校に進学した同級生がどのように暮らしているのかを調べてもらいたい。そこでわかりやすい格差を感じるはずである。公立の小学校や中学校…

沢田勲著「匈奴:古代遊牧国家の興亡〔新訂版〕」(東方書店)

昨日は契丹国(=遼)を解説する書籍を紹介したが、本日は、契丹以上に日本と関係性の薄い、それでいてユーラシア大陸の歴史において契丹以上に強い影響をもたらした国家、匈奴についての解説書である。 rtokunagi.hateblo.jp 日本人が、あるいは日本史が匈…

島田正郎著「契丹国:遊牧の民キタイの王朝〔新装版〕 」(東方書店)

英語で中国のことをチャイナ(China)という。同じスペルでドイツ語ではヒナ、フランス語ではシネという。中国大陸初の統一王朝である秦に由来する。一方、ロシア語では中国のことをキタイ(Китай)という。歴代の中国大陸の統一王朝のどこを探してもこの語の語…

倉山満著「嘘だらけの日本中世史」(扶桑社)

著者自身による本書の内容は「大学で『日本史』という講義を受け持つことになった研究者であれば知っておかなければならない日本史」である。近現代史を専攻しているので中世史は知らないというのは通用しないというのが、本書p.9~p.10に記した著者自身の前…

平野敦士カール監修「世界&日本の販売戦略がイラストでわかる 最新マーケティング図鑑」(宝島社)

本書はマーケティングの基本から最新の戦略までをイラストを交えてわかりやすく解説した一冊であり、私事になるが、私が勤めている会社では本書をマーケティング学習のための教材として使用している。 複雑なマーケティング理論や戦略をイラストで視覚的に解…

櫻井弘著「バカの話は必ず長い」(宝島社新書)

タイトル通りの一冊である。ただし、本書の著者が本書で本書の主張を実践してはいない。 バカの話は必ず長い (宝島社新書) 作者:櫻井 弘 宝島社 Amazon

志村五郎著「数学をいかに教えるか」(ちくま学芸文庫)

小学校の算数の文章題でこういうものがある。 4人います。りんごを1人に3こずつくばると、りんごはいくつになるでしょう? これに対する答えは12個である。 一方、12個という答えを求める式は二種類ある。3×4 と 4×3 である。そのどちらも正解である……、のだ…

近藤絢子著「就職氷河期世代:データで読み解く所得・家族形成・格差」(中公新書)

私は団塊ジュニア世代の就職氷河期世代である。つまり、就職氷河期世代のうちの前半世代である。もっとも、両親は戦前生まれなので、文字通りの団塊ジュニア世代というわけではない。 本書は我々就職氷河期世代が直面した惨事、現在進行形で受けている仕打ち…

仁藤敦史著「藤原仲麻呂:古代王権を動かした異能の政治家」(中公新書)

奈良時代後期の政治家、藤原仲麻呂。またの名を恵美押勝。 唐に対する憧れを越えて唐にかぶれ、職名を唐風に変更するなど急速な改革を次々に繰り広げるものの、後ろ盾を失った末に権力を失い、反乱を起こして自滅した。このあたりが教科書における藤原仲麻呂…

ニック・マジューリ著,児島修訳「JUST KEEP BUYING:自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則」(ダイヤモンド社)

老後2000万円問題が騒がれるようになったかと思っていたら、これまで何度か繰り返されてきた「貯蓄から投資へ」が当たり前になっていた。今年から拡充されたNISAは多くの人に株をはじめとする投資を促し、日経平均株価もバブル前の最高値を更新して4万円台を…

榎村寛之著「女たちの平安後期:紫式部から源平までの200年」(中公新書)

本書は同著者の「謎の平安前期:桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」(中公新書)の続編であり、前作と同様、平安時代を解説するという点で平安時代叢書の次に優れた書籍である。 rtokunagi.hateblo.jp その平安時代叢書を書いている自分が言って…

マウロ・ギレン著,江口泰子訳「2030:世界の大変化を「水平思考」で展望する」(早川書房)

農業のあり方が変わってきている。たとえば、農作物製造工場が都市の内部に存在するとどうなるか? 都市への食糧輸送時に排出するCO2の排出量が激減するというのもあるし、今後の農業のあり方が、都市人口の集中と就業問題を解決する一つの答えになるかもし…

中東久雄著「おいしいとはどういうことか」(幻冬舎新書)

本書の著者である中東久雄氏は日本料理店の店主である。幼少期から家業の手伝いとして食に接し、高校卒業後に料理の道に進んで27年間に亘る修行生活を経て、1997年に自らの店を銀閣寺の近くに開き、その店は「京都でもっとも予約が取りづらい」という評判を…

ジョン・スチュアート・ミル著,関口正司訳「功利主義」(岩波文庫 白 116-11)

れいわ新選組が共産党より多くの票を集めたことが一部界隈では話題になっているが、この政党の是非はともかく、新選組ならぬ新撰組の誕生した文久三年、西暦で言うと1863年に目を向けると、ジョン・スチュアート・ミルがこの書籍を刊行している。厳密に言え…