いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

楠木建著「室内生活:スローで過剰な読書論」(晶文社)

恐ろしい本である。 買ってから自宅に帰るまでの電車の中でずっとこの本を読み続けたことだけが恐ろしさの理由ではない。 著者のこれまでの書評をまとめた一冊だが、解説する書籍の一冊一冊そのものが魅力的であるだけでなく、楠木建氏の解説の素晴らしさ、…

ケリー・マクゴニガル著「スタンフォードの自分を変える教室」(大和書房)

反省とは何のためにするのか?普通は、何かしらの失敗があり、あるいは何かしらの問題があり、その失敗や問題を二度と起こさせないために反省するのではないか、そして、失敗を咎める側、問題を咎める側も、再発を防ぐために反省させるのではないか。 ところ…

ポール・オフィット著,ナカイ・サヤカ訳「反ワクチン運動の真実:死に至る選択」(地人書館)

2014年に刊行された "Deadly Choices : How the Anti-Vaccine Movement Threatens Us All" が地人書館より邦訳されて刊行されたのが2018年。それから1年を経て、人類は地獄を見た。 本書は反ワクチン運動がもたらす被害を示し、ワクチンを忌避することによっ…

ダレン・マクガーヴェイ著,山田文訳「ポバティー・サファリ:イギリス最下層の怒り」(集英社)

このような幼少期を過ごしてきた人は多いのではないだろうか? 本を読むのは仲間外れ 難しい言葉を使うと仲間外れ 勉強ができるのは仲間外れ 暴力から逃げたら仲間外れ そして、仲間外れのターゲットになったら待っているのは容赦ない暴力の日々。 仲間外れ…

エドウィン・A・アボット著,竹内薫訳「フラットランド:たくさんの次元のものがたり」(講談社選書メチエ)

本書は1884年に刊行されたエドウィン・A・アボットの小説である "Flatland: A Romance of Many Dimensions" の邦訳である。ここまではいい。問題は本日の記事のタイトルにあるレーベル名である「講談社文庫メチエ」、これは書き間違いではない。講談社文庫メ…

今尾恵介著「地図帳の深読み」(帝国書院)

一般的な概念における帝国主義という言葉は許されない言葉であるが、この意味での「帝国主義」は許される。すなわち、帝国書院の刊行する地図帳に目をやり、過去に刊行された帝国書院の地図帳を見てその時代に思いを馳せるという「帝国主義」は許される。 本…

リチャード・ボールドウィン著,高遠裕子訳「GLOBOTICS:グローバル化+ロボット化がもたらす大激変」(日本経済新聞出版)

現在、雇用において何が起こっているのか?賃金において何が起こっているのか?これから先の社会情勢の変動で、これから先、我々の暮らしに何が起こるのかを記している一冊であるが、その中でもっとも着目したのがこのページ。 自分がこれから先どのように生…

レイ・フィスマン&ミリアム・A・ゴールデン著,山形浩生&守岡桜訳「コラプション なぜ汚職は起こるのか」(慶應義塾大学出版会)

この本の章立てを並べただけでも興味が湧いてこないだろうか? 汚職とは何だろう? 汚職がいちばんひどいのはどこだろう? 汚職はどんな影響をもたらすの? だれが汚職をするのだろうか? 汚職の文化的基盤とは? 政治制度が汚職に与える影響は? 国はどうや…

カビール・セガール著,小坂恵理訳「貨幣の「新」世界史:ハンムラビ法典からビットコインまで」(早川書房)

貨幣はどのように誕生したのか? 一般的なイメージだと物々交換であるが、世界の歴史を振り返ってみるとそもそも物々交換が前提となっている市場(いちば)というものが稀少である。ゼロではないが珍しい存在なのだ。しかし、文字通りの貨幣、すなわちコイン…

林智裕著「「正しさ」の商人:情報災害を広める風評加害者は誰か」(徳間書店)

風評加害がどうして生まれ、どのように伝播していくのかまとめている書籍である。 その上で、以下に載せた本書の目次を見ていただきたい。 風評加害が問題であると考えない人はいない。しかし、自分が風評加害者であると認識している人もいない。 本書は風評…

ポール・ポースト著,山形浩生訳「戦争の経済学」(バジリコ)

戦争は良くない。戦争は無くすべきだ。その考えは理解できるし、あるべき姿であるとも考える。しかし、再度勃発してしまったアルメニアとアゼルバイジャンとの戦いを見ても、そして、現在進行形で繰り広げられているロシアのウクライナ侵略を見ても、戦争は…

ジョージ・オーウェル著,土屋宏之&上野勇訳「ウィガン波止場への道」(ちくま学芸文庫)

昨日アップした「貧乏人の経済学*1」に関連して本書のこのフレーズを思い浮かべた人もいるであろう。 「何よりも困ったことに、お金を持っていない人ほど、体にいい食べ物にお金を使いたがらない。…(中略)…。失業しているときには味気ない健康食品など食べ…

アビジット・V・バナジー&エスター・デュフロ著,山形浩生訳「貧乏人の経済学:もういちど貧困問題を根っこから考える」(みすず書房)

貧しい暮らしをしている人がいる。貧しい暮らしから救い出そうとする人がいる。その人は貧しさの理由を探そうとし、その結果、稼いだカネの多くを主食の購入に充てていることが貧しさの理由であることを突き詰める。そこでこのように考える。「主食を買うた…

京樂真帆子著「牛車で行こう!:平安貴族と乗り物文化」(吉川弘文館)

牛車。それは平安貴族が用いていた乗用車。ただし、現在の乗用車のように高速道路に乗って遠くまで出かけるのに用いることは無く、主として平安京内の移動に用いていた。 狭い地域で競うように発達したこともあってデザインや素材にこだわるようになったと同…

竹内正浩著「ふしぎな鉄道路線:「戦争」と「地形」で解きほぐす」(NHK出版新書)

明治14(1881)年のこと。 「東京から青森まで鉄道を敷く」「無理です。予算が無いんですよ!」「国家予算に頼らず民間企業が敷くなら問題なかろう」「それなら……」株式会社日本鉄道設立岩倉具視をはじめ出資者は華族だけで648名を数える。「出資金だけでは鉄…

マシュー・ディクソン,ニック・トーマン,リック・デリシ著,安藤貴子訳「おもてなし幻想:デジタル時代の顧客満足と収益の関係」(実業之日本社)

ビジネスを成功させるために欠かせないのはロイヤルカスタマーの獲得と維持である。ドラッカーはマネジメントを顧客の創造とイノベーションにあると説いたが、その顧客の創造と類していると言えよう。 そして、ロイヤルカスタマーの獲得についておもてなしに…

ジャレド・ダイヤモンド著,倉骨彰訳「銃・病原菌・鉄 上下巻」(草思社)

21世紀の最初の10年間でもっとも売れたのが本書である。 なぜユーラシア大陸下文明が発達して他の地域に文明を伝播させることとなったのか、他の地域からユーラシア大陸に伝播することにならなかったのか、その答えとして本書の著者は、 貯蔵に耐えうる高炭…

ジャレド・ダイアモンド著,楡井浩一訳「文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの 上下巻」(草思社)

世界的ベストセラー「銃・病原菌・鉄」の作者であるジャレド・ダイアモンド博士の次回作であり、ダイアモンド博士は本書において、人類の過去の文明がどのような環境変化にどう対応し、その結果どうなったのか、またどのような要因で消え去ったのかの事例を…

ジャレド・ダイアモンド著,倉骨彰訳「昨日までの世界:文明の源流と人類の未来 上下巻」(日本経済新聞出版)

本書「昨日までの世界」は2012年に "The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?" のタイトルで刊行された書籍の邦訳版である。 「銃・病原菌・鉄」、「文明崩壊」、そして、昨日の記事に取り上げた「危機と人類」の作者であ…

ジャレド・ダイアモンド著,小川敏子&川上純子訳「危機と人類 上下巻」(日本経済新聞出版)

「銃・病原菌・鉄」 「文明崩壊」 「昨日までの世界」 これらの本を上梓されたジャレド・ダイアモンド博士が、人類史上に現れた危機のうち7つを選び出し、それぞれの事例で国家的危機に直面しながらも次への劇的変化を生み出したかをまとめた書籍であり、本…

近江俊秀著「日本の古代道路:道路は社会をどう変えたのか」(角川選書)

まずはこちらの地図を見ていただきたい。 律令制における令制国の区分けである。現在の感覚からするとおかしな区分けとするしかない。現在の県名で言うと茨城県と三重県が、青森県と滋賀県が同じ区分けである一方で、茨城県と栃木県が、岐阜県と愛知県が、広…

ケヴィン・アロッカ著,小林啓倫訳「YouTubeの時代:動画は世界をどう変えるか」(NHK出版)

21世紀が20世紀と連続した時代であるのは間違いないのだが、誰もが映像を発信できるようになる時代が来るとは20世紀には考えられなかったことを痛感させられる。しかも、現在進行形で新しい作品が生まれている。 本書によると、YouTubeには1分間に400時間者…

八條忠基著「有職装束大全」(平凡社)

本来ならば適切な形容詞ではないのだが、この本の形容詞は「ヤベェ本」である。 ヤベェ本を買ったぞ…昔の偉い人たち(ザックリ表現)の服の構造や成り立ち、色合いや文様の意味、アクセサリーの種類とかが分かりやすくまとめられてる。ネット知識でフワッと把…

野口実編「承久の乱の構造と展開:転換する朝廷と幕府の権力」(戎光祥出版)

私は、鎌倉幕府の成立を建久三(一一九二)年の源頼朝の征夷大将軍就任に置いている。しかし、それで平安時代の終わりとしているわけではない。平安時代の終わりは承久の乱にあると考えている。鎌倉幕府が成立しても従来の院政を軸とする京都での政権は存続…

ティム・オライリー著,山形浩生訳「WTF経済 ―絶望または驚異の未来と我々の選択」(オライリージャパン)

「WTF」とは英語のスラングで、本来はあまりいい単語の頭文字ではない。もっとも、意訳すると「何じゃこりゃ」という驚きや困惑を表現する言葉であり、本書の作者も新しい技術がもたらす驚き(WTF)を悪い驚きではなく良い驚きに変えていこうというメッセー…

橘木俊詔著 「「地元チーム」がある幸福:スポーツと地方分権」 (集英社新書)

2023年9月1日土曜日、バスケットボール男子日本代表がパリ五輪出場を決めた。今回のバスケットボールW杯は地上波で華々しく中継され、劇的な逆転勝利の連続に日本中が酔いしれ、試合後の朝のニュースでもバスケットボールの試合の様子が繰り返し放映された。…

イングランド銀行&ルパル・パテル&ジャック・ミーニング著,村井章子訳「イングランド銀行公式 経済がよくわかる10章」(すばる舎)

前もって記しておく。本日の記事の著者名は書き間違いではない。本当にイングランド銀行が著した著作の邦訳である。実際にはイングランド銀行のエコノミストであるルパル・パテル氏とジャック・ミーニング氏が著した著作であるが、イングランド銀行を著者名…

原田正純著「水俣病」(岩波新書)

https://twitter.com/ ALPS処理水の海洋放出への反対運動の影響で、ここに来てにわかに水俣病が脚光を浴びるようになってきた。厳密に言うと、水俣病での問題で取り上げられることの多い有機水銀の生体濃縮と絡めた反発をみせるようになった。もっとも、これ…

本庄総子著「疫病の古代史:天災、人災、そして」(吉川弘文館)

令和元(2019)年まで、大型感染症は歴史の話であった。我々の祖先が体験したことであるという知識はあったが、自分達が体験することという意識は無かった。令和2(2020)年からその概念が崩れた。大型感染症の中で生活せざるを得なくなり、感染のメカニズムも、…

鈴木淳著「関東大震災:消防・医療・ボランティアから検証する」(講談社学術文庫)

今から100年前の今日、大正12(1923)年9月1日土曜日、午前11時58分44秒。時刻はちょうど正午を迎えようとする時刻。週休二日などなく土曜日も働いたり学校に行ったりするのが当たり前であるが、それでも土曜日は午前中だけの勤務であったり午前中のみで授業が…