通常、こういった名言集というのは、読者を奮起させて前向きにさせる言葉を選んだものである。
しかし、本書にそのような前向きさは無い。古今東西の著名人が向かい合った、病気や事故、友人や知人の不幸、失恋、挫折、そして孤独。こうした心身共に痛ましくなるときの言葉をまとめた、絶望の淵にあることを訴える言葉の集大成である。
だからこそ、かえって心に染み渡る。
涙とともにパンを食べたことのない者には、人生の本当の味はわからない。ベッドの上で泣きあかしたことのない者には、人生の本当の安らぎはわからない。(ゲーテ p.108)
災害の大きかっただけにこんどの大地震は、我々作家の心にも大きな動揺を与えた。我々ははげしい愛や、憎しみや、憐みや、不安を経験した。(芥川龍之介 p.177)
できることなら私は運命と戦って勝ちたい。だが、この世の中で、自分が最もみじめな存在なのではないか、と感じてしまうことが何度もある。あきらめるしかないのだろうか。あきらめとはなんて悲しい隠れ家だろう。しかも、それだけが今の私に残されている隠れ家なんだ。(ベートーヴェン p.288-289)
人間なんてものは、いろんな気持ちをかくして生きてるよ。腹断ち割って、ハラワタさらけ出されたら赤面して、顔上げて、表歩けなくなるようなもの抱えて、暮らしてるよ。自分で自分の気持にフタして知らん顔して、なし崩しにごまかして生きてるよ。(向田邦子 p.350)
こうした絶望に直面した著名人達の心情の吐露が本書に溢れている。
だからこそ、読者の現在の心情を肯定してくれる。
苦しいのは自分だけじゃないと認めさせてくれ、上手く言葉にできないでいる苦しみを言語化してくれる。