いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ベンジャミン・パウエル編集,藪下史郎監訳,佐藤綾野&鈴木久美&中田勇人訳「移民の経済学」(東洋経済新報社)

この本の主張をざっとまとめると、「移民問題を感情で語るな。データはまとめたからこれで議論しろ」というところになる。 その上で、本書に示されているデータをまとめると、「移民を受け入れるべき」になる。 大前提として存在するのは、移民を受け入れる…

デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス著、橘明美&臼井美子訳「経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策」(草思社)

「経済政策で人は死ぬか?」とは何ともセンセーショナルなタイトルであるが、結論は単純明快である。 死ぬ。 比喩的な意味では無い。文字通り多くの人が死を迎える。 本書は2014年に刊行された一冊であるが、2020年からのCOVID-19を思い返していただければ、…

ジョン・H・アーノルド著、図師宣忠&赤江雄一訳「中世史とは何か」(岩波書店)

ゲームやアニメ、映画、小説など、西洋中世を思わせる世界観で繰り広げられるコンテンツというのは多々存在する。これは何も現在のヨーロッパならびにその植民地を起源とする国々で起こっている現象というわけではなく、我が日本国も例外ではない。そのあた…

レジー・フィサメィ著,大田黒奉之訳「崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男」(東洋経済新報社)

レジー・フィサメィの名を知らなくとも、ここに掲載する二枚の写真は多くの人が知るであろう写真である。 レジー・フィサメィ氏はまさにこの写真を生みだした人物である。 経緯を記すと、2003年のE3で任天堂は記者の期待に応えるプレゼンテーションができな…

グレゴワール・シャマユー著,信友建志訳「統治不能社会:権威主義的ネオリベラル主義の系譜学」(明石書店)

ネオリベラルとサブタイトルにあるが、本書は世間一般で言うところのネオリベラリズムに関する書物ではない。現代のリベラリズムの根源とその意味合いについて探求した一冊であり、著者は本書において「民主主義に本質的に敵対する」形態と定義する「権威主…

田崎健太著「横浜フリューゲルスはなぜ消滅しなければならなかったのか」(カンゼン)

現在時刻、日本時間の2024年5月26日午前0時55分。あと5分で、ACL2023-24決勝第2戦がはじまる。 今回の決勝進出を決めたのは、UAEの強豪でACL制覇経験のあるアルアイン、そして、初の決勝進出となる横浜F・マリノスである。第1戦は横浜国際総合競技場で開催さ…

大野裕之著「チャップリンとヒトラー:メディアとイメージの世界大戦」(岩波書店)

20世紀で最も愛された人物、チャップリン。 20世紀で最も憎まれた人物、ヒトラー。 この二人が同い年であること、裕福ではない暮らしから身を立てた人物であること、そして時代を手にした人物であることは世界史の教科書にも出てくる話である。そして、多く…

フェリックス・マーティン著,遠藤真美訳「21世紀の貨幣論」(東洋経済新報社)

誰が言い出したか、古(いにしえ)の人類は貨幣など持っておらず物々交換で経済を回していた、と。人口に膾炙されるところでは、貨幣を生み出す前の人類は物々交換を前提とし、魚を、肉を、野菜を、あるいは木製の日用品や土器を、さらには服や布地を持ち寄…

オフェイロン著,橋本槇矩訳「アイルランド:歴史と風土」(岩波文庫 赤231-1)

岩波文庫はときおり復刻重版する。私が本書を手に取ったのも、"THE IRISH"(Sean O'Faolain)の邦訳版復刻重版であり、元々の邦訳版は1997年に刊行されている。 現在に生きる我々は、アイルランドをイギリスの西にある島国であると考える。もう少し詳しい人は…

坂野潤治著「〈階級〉の日本近代史:政治的平等と社会的不平等」(講談社選書メチエ)

戦前の日本はなぜ戦争へと突き進んでしまったのか。 この問いに対し、このように考える人達がいる。「平和を愛するリベラルな人達の抵抗も空しく、戦争を求める保守的な人達がこの国を戦争へと向かわせてしまった」と、自らがリベラルであると自負する人達の…

堀江宏樹著「偉人はそこまで言ってない。:歴史的名言の意外なウラ側」(PHP文庫)

「日本の夜明けぜよ」は著名人の言葉である。ただし、坂本龍馬の言葉ではなく、林家木久扇師匠の言葉である。 「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉はマリー・アントワネットの言葉ではない。彼女が生まれる前に既に存在していた言葉で…

デヴィッド・グレーバー&デヴィッド・ウェングロウ著,酒井隆史訳「万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~」(光文社)

ジャレド・ダイヤモンドの一連の著作や、全世界で話題となったユヴァル・ノア・ハラリの著作を読んだ方は、本書に目を通すことで、前二者の描き記した情景が打ち砕かれることとなるであろう。すなわち、農耕が社会階層やその他の社会悪をもたらす以前、人類…

五島邦治著「平安京の生と死:祓い、告げ、祭り」(吉川弘文館・歴史文化ライブラリー)

今年の大河ドラマ「光る君へ」は第一話から主人公の母が藤原道兼に殺害されるというショッキングな出来事からスタートしたことで話題となった。平安時代中期、源氏物語に代表される煌びやかな宮中絵巻の世界を予想していた視聴者は、その期待が完全に裏切ら…

村瀬信一著「名言・失言の近現代史 下」(吉川弘文館)

本書は本年3月に刊行された上巻と連続した続編である。 rtokunagi.hateblo.jp 上巻は大日本帝国憲法下の日本国の政治における名言・失言についてまとめた一冊であるのに対し、本書は日本国憲法下の日本国が舞台である。 戦後日本の政治は自民党が牛耳ってい…

京谷一樹著「藤原氏の1300年:超名門一族で読み解く日本史」(朝日新書)

現在放送されている大河ドラマ「光る君へ」。 このドラマに登場する人物は三種類しかない。皇族か、藤原氏か、その他の三種類である。藤原以外の貴族を名も無き一般庶民とひとまとめにして「その他」とするのは問題ではないかと思う人もいるだろうが、問題な…

カシア・セントクレア著,木村高子訳「色の秘めたる歴史:75色の物語」(パイ インターナショナル)

全ての色にはイメージが伴う。ただし、そのイメージは一様ではない。ピンクが女性で青が男性だというのは現在でこそ広く見られるようになったイメージであるが、少し前に遡るだけで真逆のイメージが成立していた時代があったことがわかる。すなわち、ピンク…

山之内克子著「ハプスブルクの文化革命」(講談社選書メチエ)

本書のタイトルはハプスブルク家であるが、スペインではなく、オーストリア帝国の首都であるウィーンが舞台であり、主として取り上げているのはマリア・テレジアとヨーゼフ2世の時代である。 このように書いてもピンとこない人もいるであろうが、以下のよう…

トーマス・シェリング著,村井章子訳「ミクロ動機とマクロ行動」(勁草書房 )

本書は元々、1970年代に著者が発表してきたゲーム理論に関するエッセイをまとめた書籍であり、著者のノーベル経済学賞受賞に伴って新装版として刊行された書物を日本語に訳した書籍である。 本書の内容をまとめると、個人の行動特性と社会的集合体の特性との…

筒井清忠著「戦前日本のポピュリズム:日米戦争への道」(中公新書)

戦前戦中の男子小学生に「将来何になりたいか」と質問したら「軍人」と答えていたという話があるけど、それはそう言わなければならない雰囲気になってからの話で、それ以前はどうだったかというと、親が子を叱るときに「今に軍人にしてやるぞ」という脅し文…

池上俊一著「魔女狩りのヨーロッパ史」(岩波新書)

今から50年以上前、連合赤軍によるリンチ殺人事件が繰り広げられてた。山中の山小屋で合計12名もの仲間を、1人、また1人と殴り殺していった凄惨な事件である。殴り殺された理由の中に正当な理由は無い。 rtokunagi.amebaownd.com 今から60年近く前、文化大革…

清水洋著「アントレプレナーシップ」(有斐閣)

アントレプレナーシップ。日本語では「創業者精神」と訳される概念は、現代のビジネスにおいて必要不可欠な概念であることに異論のある人はいないであろう。しかし、このように考える人は少ないのではないであろうか? アントレプレナーシップは古代から変わ…

本田毅彦著「大英帝国の大事典作り」(講談社選書メチエ)

ブリタニカ百科事典、オックスフォード英語辞典(OED)、イギリス国民伝記辞典(DNB)というイギリスを代表する三つの事典がどのようにしてできあがったのかを記した一冊である。 と同時にメディアに対する社会の視線の移り変わりを示した一冊である。 現在の我…

フランクリン・アレン&グレン・ヤーゴ著,空閑裕美子訳「金融は人類に何をもたらしたか:古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで」(東洋経済新報社)

想像していただきたい。金融の無い社会を。 金貸しが無くなるのだから借金の取り立てもなくなるというのは早計に過ぎる。金を借りることができなくなると、自分の資産で買えるモノやサービスしか買えなくなる。家も、クルマも買えなくなる。 さらにこれは個…

リチャード・セイラ―著,遠藤真美訳「行動経済学の逆襲 上・下」(ハヤカワ文庫)

そのスキー場の経営難の理由は誰の目にも明かだった。 値段設定がおかしい。安すぎるのだ。 とても素晴らしいスキー場なのにどうしてこんな値段でやっていけるのだろうかと誰もが思っていたが、その答えは「やっていけないので倒産寸前である」というもので…

スティーヴン・レヴィット&オースタン・グールズビー&チャド・サイヴァーソン著,安田洋祐&高遠裕子訳「レヴィット ミクロ経済学 発展編」(東洋経済新報社)

以前、消防車を停めてうどんを食べていたことに対するクレームが話題になったときに「文句言うなら火事が起きても火を消されなくなるぞ」なんて冗談めいた話が出ていたが、本訴はその冗談に対する残酷な史実を示している。 本書は昨日公開した基礎編の続編で…

スティーヴン・レヴィット&オースタン・グールズビー&チャド・サイヴァーソン著,安田洋祐&高遠裕子訳「レヴィット ミクロ経済学 基礎編」(東洋経済新報社)

もし、ミクロ経済学を学びたいなら、あるいはビジネスパーソンとして必要なビジネスに関する知識を身につけたいなら、本書から取りかかることをお勧めする。 本書を一言で記すと、「ミクロ経済学の分野への包括的なガイドブック」である。だが、かのスティー…

吉村武彦・吉川真司・川尻秋生編「古代荘園:奈良時代以前からの歴史を探る」(岩波書店)

平安時代を語るのに荘園は欠かせない。鎌倉時代も、南北朝時代も、室町、戦国、安土桃山時代も荘園は欠かせない。 一方、奈良時代以前の歴史を語るのに荘園という概念は存在しない。 つまり、一般的な荘園についての概念とは、平安時代に誕生し、平安時代400…

大森淳郎著,NHK放送文化研究所編「ラジオと戦争:放送人たちの「報国」」(NHK出版)

読んでいて気持ち悪くなる本というのはたまに存在する。残念ながら本書はそうした本のうちの一冊である。 著者が悪いのではない。日本が戦争へと向かうにあたってラジオというメディアが率先して日本国内全体を全体主義へと向かわせていたのに、そのことにつ…

フィリップ・コトラー著,恩蔵直人&大川修二訳「コトラーのマーケティング・コンセプト」(東洋経済新報社)

不特定多数に向けての広告は多くの人にとって迷惑でしかないが、既にその製品の購入者、さらには愛好者である場合はむしろ好感を持って迎え入れられる。 迷惑にしか感じない街頭演説や選挙カーが存続しているのも支持者にとっては心地よいものとなる。 広告…

アンダース・エリクソン&ロバート・プール共著,土方奈美訳「超一流になるのは才能か努力か?」(文藝春秋社)

本書は、チェスのチャンピオン、バイオリンの名手、スターアスリート、記憶力の達人といった様々な分野のエキスパートの研究に30年を捧げてきた著者達の研究成果をまとめた一冊である。 たとえば、意図的な練習というコンセプトを強調している。何気ない練習…