いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

加藤聖文著「満鉄全史:『国策会社』の全貌」(講談社学術文庫)

南満州鉄道株式会社、通称「満鉄」。日露戦争に勝利してから2年後の明治40(1907)年に創立し、昭和20(1945)までのおよそ40年間に亘って存在してきた、理論上は民間企業、実質的には日本の大陸政策を牽引した国家機関である。 本書は、満鉄がどのようにして「…

下斗米伸夫著「ソビエト連邦史 1917-1991」(講談社学術文庫)

ソビエト連邦は世界史の事実である。しかし、人類史における貢献は何一つとして存在しない。強いて挙げるとすれば、ビデオゲームのテトリスを生みだしたことだけである。あれだけの命を奪っておきながら、人類にもたらしたのは画面の上から落ちてきた四つの…

フランシス・フクヤマ著,山田文訳「IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治」(朝日新聞出版)

フランシス・フクヤマと言えば、1992年の大ベストセラー『歴史の終わり』が思い浮かぶ。しかし、世界はその通りになったわけではない。そのことについての批判の声、疑念の声が投げかけられていることは著者自身が認めている。 本書は著者が記した、疑念と批…

本郷恵子著「買い物の日本史」(角川ソフィア文庫)

買い物をしない人はいない、というのは現代人の概念であって、買い物と無縁だという人は歴史上珍しくない。 日本の歴史で捉えると、買い物をできる場所自体が常設であるというのは平城京や平安京といった首都をはじめとする大都市に限られた話であり、通常は…

岩尾俊兵著「世界は経営でできている」(講談社現代新書)

大学一年時に教職課程に必要となる単位の一覧を見たとき、二年次以降に履修可能となる必須科目として「教育経営学」があり、はて、理事長として私立学校を設立し運営するようになるのに必要な知識を身につけさせるのかと考えた。いまいち漠然とした考えのま…

林智裕著『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』(徳間書店)

2023年、𝕏(旧Twitter)に新しい機能が登場した。コミュニティノートである。玉石混淆ではあるが、コミュニティノートにおける玉の割合は想像以上に高い。 なぜか? 根拠に基づき、事実を指摘するからである。コミュニティノートが取り上げている根拠が間違…

ジョーン・C・ウィリアムズ著,山田美明&井上大剛訳「アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々:世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体」(集英社)

アメリカ大統領選挙でトランプ旋風がまた吹き荒れている。 8年前、誰もトランプ候補が当選するとは思っていなかった。しかし、アメリカの有権者の選択はドナルド・トランプを大統領に据えるという選択であった。 このとき、一瞬にして注目を集めることとなっ…

尾原和啓著「モチベーション革命:稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)

「最近の若い者は」という嘆きはピラミッドの壁画に残されているほどの人類普遍のフレーズである。 現在で言うとさしずめ、Z世代に対する歳上世代からの観点である。何を考えているのかわからないと嘆く人も多いが、理解せずに自分達の世代の概念を押しつけ…

ジョセフ・E・スティグリッツ&ブルース・C・グリーンウォルド著,藪下史郎監訳,岩本千晴訳「スティグリッツのラーニング・ソサイエティ:生産性を上昇させる社会」(東洋経済新報社)

ジョセフ・ユージン・スティグリッツ博士は2001年にノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学教授である。そのスティグリッツ博士がコロンビア大学の同僚であるルース・コーマン・ノーバート・グリーンウォルド博士とともに上梓されたのが本書である。 本書…

今野真二著「日本語と漢字:正書法がないことばの歴史」(岩波新書)

かつて、日本語に文字は無かった。 そこに中国大陸から漢字が伝来し、漢字が東アジア一帯におけるリンガフランカであったために、日本中に広まった。 表意文字という概念が伝わったならば文字に意味を持たせる文字体系を構築したであろう。 表音文字という概…

石川九楊著「ひらがなの世界:文字が生む美意識」(岩波新書)

イスラム教は偶像崇拝を禁止しており、敬虔なムスリムは絵画ですら偶像崇拝として否定することもある。 イスラム教の経典であるクルアーン(コーラン)はアラビア語であることが求められ、日本語をはじめとする他の言語への翻訳も存在はするが、ムスリムとし…

池上彰著「考える力がつく本:本、新聞、ネットの読み方、情報整理の「超」入門」(プレジデント社)

週刊誌などにおける「消息筋によると」「関係者によると」という表現における消息筋や関係者とは、書いている本人のことである。(本書第1章より) 何とも痛烈な一言であるが、本書は情報収集や整理の方法を学ぶための入門書であり、冒頭のエピソードもその…

クリスチャン・ウォルマー著,北川玲訳「鉄道の歴史:鉄道誕生から磁気浮上式鉄道まで」(創元社)

シベリア鉄道の旅客を伸ばすために顧客サービスを高めようとして三食つきの席を用意したのになかなか客足が伸びず、原因を調べたら食事提供時間がモスクワ時間で統一されていたせいで、日本海の近くでは朝食が午後二時、夕食が夜中の三時というスケジュール…

ジョン・メイナード・ケインズ著,山形浩生訳「新訳 平和の経済的帰結」(東洋経済新報社)

山形浩生氏の翻訳による本書刊行は今年(2024)年であるが、原著刊行は1919年である。 1919年、すなわち第一次大戦終結直後に著された、ケインズの怒りの書籍である。 第一次世界大戦は連合国の勝利に終わり、敗戦国、特にドイツに対する処遇が苛烈を極めたこ…

エミール・ルートヴィヒ著,北澤真木訳「ナポレオン:英雄の野望と苦悩」(講談社学術文庫)

エミール・ルートヴィヒは数多くの伝記小説を書き記してきた作家である。ゲーテ、クレオパトラ、ビスマルク、リンカーン、そして、ナポレオン。 ナポレオンとは奇妙な人物である。フランス革命に始まる一連の流れとして世界史の教科書に絶対に登場する人物で…

村中直人著『「叱れば人は育つ」は幻想』(PHP新書)

叱ることについての本質を突き詰めていくと、相手を正すことではなく、自分が正しいと満足することに行き着く。感情ままに相手をどれだけ非難しても、怒号を浴びせても、自分は正義であ留為全ての言動も行動も許されると考える。正義では無いと考える相手に…

鶴原徹也編「自由の限界:世界の知性21人が問う国家と民主主義」(中公新書ラクレ)

副題にあるように、本書は21名のインタビューをまとめた新書である。だが、私は22人目の言葉どうしても重くのしかかる。紙書籍版では312ページ目からの原田要氏の言葉が。 原田要氏は第二次大戦時に零戦の操縦士であった方であり、本書のあとがきには編者の…

加藤幹郎著「映画館と観客の文化史」(中公新書)

映画とは、作る人がいて、映す人がいて、観る人がいる。これらが揃ってはじめて成立する作品である。誕生してから一世紀半近い歴史を有する映画について、個々の映像作品について論評する書籍は多々あるが、映画を映す施設である映画館や、映画館に足を運ん…

高田貫太著「海の向こうから見た倭国」(講談社現代新書)

日本も、朝鮮半島も、古代史において大きな問題が存在する。文献史料が存在しないのだ。現存する日本の文献史料の最古は古事記と日本書紀で何れも8世紀初頭の成立であり、朝鮮半島にいたっては三国史記となるがこちらは12世紀に入ってようやく登場する。日本…

小城武彦著「衰退の法則:日本企業を蝕むサイレントキラーの正体」(東洋経済新報社)

本書は日本企業をターゲットとした、企業衰退のパターンをまとめた一冊である。 しかし、そのパターンは日本にだけしか適用できないわけでも、企業だけにしか適用できないわけでもない。およそ組織と呼ばれる存在の全てに適用できるパターンである。 従業員…

エドマンド・S・フェルプス著,小坂恵理訳「なぜ近代は繁栄したのか:草の根が生みだすイノベーション」(みすず書房)

2006年、一人の経済学者がノーベル経済学賞を受賞した。 その経済学者の名は、エドマンド・ストロザー・フェルプス。インフレ率と失業率の関係についての理論的な分析や自然失業率の概念の発展に貢献し、賃金と価格の期待効果に関する研究が評価されてのボー…

篠川賢著「国造:大和政権と地方豪族」(中公新書)

大和朝廷が日本列島を統一して国家を成立させるにあたって、奇妙な光景が存在している。 記紀の記載に伝承として一応は存在するのだが、統一に向かう過程での本格的な戦乱となると、東北地方と九州南部しか記録に残っていない。たとえば高句麗、百済、新羅と…

橘木俊詔著「老老格差」(青土社)

人間誰しも生きていれば老いた身となる。 老いた後に迎える運命はそれまで積み重ねてきた人生の帰結である。 良かれ悪しかれ各社社会である現在の日本に於いて、高齢者が直面しているのもまた格差問題であり、現役世代がこれから迎えることとなるのもまた格…

トマ・ピケティ原作,クレール・アレ&バンジャマン・アダム著,広野和美訳「マンガで読む資本とイデオロギー」(みすず書房)

全世界で話題になった「資本とイデオロギー」のコミカライズである。 rtokunagi.hateblo.jp コミカライズとは言うが、現在の日本の書店のコミック売り場のコーナーで売っているようなコミックではなく、昭和時代の終わり頃に小学生であった人が読んだであろ…

磐下徹&十川陽一&黒須友里江&手嶋大侑&小塩慶著,有富純也編「日本の古代とは何か:最新研究でわかった奈良時代と平安時代の実像」(光文社新書)

奈良時代と平安時代とでは何が違うか? 首都が違うと言えばそれまでだが、それよりももっと大きな違いがある。 奈良時代は理想と現実とで理想を優先させた時代であり、平安時代は現実を優先させた時代である。 より広い面で捉えるならば、大化の改新や壬申の…

シドニー・フィンケルシュタイン著,酒井泰介訳,橋口寛監訳「名経営者が、なぜ失敗するのか?」(日経BP)

私は平安時代叢書第十二集「次に来るもの」を書き記すに当たり、作品の冒頭に本書を挙げた。 以下にその内容を転記する。 ダートマス大学のシドニー・フィンケルシュタイン教授は、著書「名経営者がなぜ失敗するのか」の中で、失敗する経営者のパターンとし…

ロテム・コーネル著,滝川義人訳「白から黄色へ:ヨーロッパ人の人種思想から見た「日本人」の発見 ―1300年~1735年」(明石書店)

日本人は黄色人種とされる。とは言え、黄色人種という言われ方をするのは知識として知ってはいるものの、実感として捉えているわけではない。極論すれば、そう呼ばれていることを知っているというだけで、自分で自分のことを黄色い肌と考えているわけではな…

伊藤亜紗著「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(光文社新書)

東京工業大学のある大岡山。多くの人は東急線に乗って大岡山駅に降り立ち、それから目的地を目指すはずである。そして、目の見える人はこのように感じる。坂道を歩いているな、と。 ところが、本書46ページは面白い反応が載っている。 大岡山はやっぱり「山…

山際康之著「プロ野球選手の戦争史:122名の戦場記録」(ちくま新書)

先の大戦では、数多くのプロ野球選手が徴兵されて戦地に赴き、戦場で命を落とした選手もいた。 ここまでは多くの人の人口に膾炙するところである。 問題はここから先。 十把一絡げでは無いのだ。 本書では、戦前の野球関係者、プロ野球だけでなく大学野球や…

スチュアート・クレイナー&デス・ディアラブ著,東方雅美訳「Thinkers 50 リーダーシップ」(プレジデント社)

リーダーシップとは古代から存在していた概念である一方、かつては、軍隊や政治の世界などのように少数の人々に限られたものあった。 現在はリーダーシップそのものが一般に広がり、私たちの日々の生活に深く関係するものとなっている。その影響で、リーダー…