いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

脇田成著「日本経済論15講」(新世社)

「どこかで読んだ本と同じようなフレーズやたとえ話が連発しているな」と感じ、その本を探し出し、「そうそう、筑摩選書の『賃上げはなぜ必要か』に書いてあった」からの、「同じ著者だった……」までがルーティーン。それが本書である。 真面目な感想を書くと…

マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング著「リバタリアンが社会実験してみた町の話:自由至上主義者のユートピアは実現できたのか」

「何者にも縛られない自由な暮らしをしたい」 この考えは多くの人を魅了するし、実際に抑圧されている社会に生きる人は自由を求めて立ち上がることもある。たとえば1989年に東ヨーロッパで吹き荒れた旋風はその例に挙げることができよう。 さらにこの考えを…

モートン・ハンセン著,楠木建監訳「GREAT@WORK 効率を超える力」(三笠書房)

こう考えたことはないだろうか?「テストに自分が解ける問題だけが出題されれば満点が取れるのに」、と。そんなことありえないし、許されないと考えるのは学生まで。社会人はそれが許されるだけでなく、それこそが成功の秘訣である。 人類で最初に南極点に到…

橘木俊詔著「ポピュリズムと経済:グローバリズム、格差、民主主義をめぐる世界的問題」(ナカニシヤ出版)

ミもフタもない言い方になるが、自分はポピュリズムと関係ないと考えている人が、もっともポピュリズムに染まりやすい。 自分は、平安時代を歴史小説で全部書くというコンセプトのもと、平安時代叢書と題する歴史小説を書いている。これは現在進行形である。…

網野善彦,阿部謹也共著「対談 中世の再発見」(平凡社)

日本国内で日本中世史を学ぶ場合、網野善彦氏の研究を避けることはできない。 日本国内で西洋中世史を学ぶ場合、阿部謹也氏の研究を避けることはできない。 本書はこの両者の対談からなる共著である。日本史と西洋中世史の専門家である二人の歴史家が、 ・市…

ニーアル・ファーガソン著「スクエア・アンド・タワー(上・下)」(東洋経済新報社)

本書は、社会において権力を掴むに当たって必然となる人と人とのつながりを ○ タテに伸びる階層制組織(タワー) ○ ヨコに広がる草の根のネットワーク(スクエア) との関連で捉え、世界史を、特に大航海時代以後の世界史を本作で記している。 本書で取り上…

マシュー・サイド著「失敗の科学:失敗から学習する組織、学習できない組織」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

有名な喩話がある。 第二次大戦中のアメリカ軍の話。 航空戦でダメージを受け不時着した飛行機について統計をまとめ、司令官は一つの命令を出した。「不時着した飛行機は皆同じ箇所にダメージを受けている。ダメージを受けた箇所を頑丈にせよ」 エンジニアは…

横山和輝著「日本史で学ぶ経済学」(東洋経済新報社)

たとえば平安時代末期より日本国に流入してきた宋銭と、現在の仮想通貨との関係。 たとえば楽市楽座をはじめとする織田信長が整備した経済政策と、経営におけるプラットフォームビジネスとの関係。 こうしたつながりは偶然ではなく、日本列島に住む人間なら…

××××著「校門の時計だけが知っている:私の「校門圧死事件」」(草思社)

平成2(1990)年7月6日、兵庫県立神戸高塚高等学校の教師であった××××が生徒を殺害した。殺害に用いたのは学校の校門の門扉、被害者は門扉と門柱殿間に挟まれて命を落とした。門扉は230kgあり、被害に遭った生徒は学校の校門を通って校舎に向かう途中で教師に…

エドウィン・ブラック著「IBMとホロコースト:ナチスと手を結んだ大企業」(柏書房)

ヒトラーが、ナチスが、なぜあのような残虐なことをしたのか? この問いの答えを求めようとした人、そして答えを導き出した人は数多くいるだろう。 一方で、忘れてはならない視点がある。 どうしてあのような残虐なことができてしまったのか? ついこの間ま…

ローレンス・フリードマン著「戦略の世界史:戦争・政治・ビジネス」(日本経済新聞出版社)

戦略とは単に戦争においていかに勝利をおさめるかといった視点だけでは無い。自らが、そして、自分たちがいかに生き残り、よりよい結果を手にできるかという視点である。それは人間だけのものでは無い。自然界に広く見られる視点である。 その上で実感するの…

アダム・スミス「道徳感情論」と「国富論」

アダム・スミスの著作と言えば多くの人は国富論(諸国民の富)を真っ先に思い浮かべるであろうが、国富論を読みにあたっては、アダム・スミスが国富論を著す前に世に送り出した道徳感情論をも念頭に置いておいたほうがいい。 アダム・スミスの道徳感情論は、…

「岩波講座 日本経済の歴史 1:中世 11世紀から16世紀後半」(岩波書店)

室町時代の領主が農家の手伝いを募集したときの記録がある。用意した報酬は、田植えが1人30文、草刈りが1人15文。なお、草刈りは夏の暑いさなかということもあって、拘束時間は田植えの半分である。ちなみに、この時代の一般庶民の日給は10文なので、3倍の給…

シルヴィア・ナサー著「大いなる探求」(新潮社)

30年以上前に滅亡したソビエトに対する誹謗中傷は多々ある一方、数少ないながらも評価する声はある。 その中でもよく耳にする評価の声として「少なくとも世界恐慌の影響は受けなかった」というのがある。1929年からの世界的大不況がどのようなものであるかを…

大江志乃夫著「徴兵制」(岩波新書)

徴兵制を突き詰めると、「軍人になりたいという人だけでは軍人が足りないから、軍人 になりたいとかなりたくないとか意思は無視して、強制的に軍人にさせること」である。そういえば「徴兵制ならぬ徴介護制」などという言説が飛び交うことがあるが、これも、…

牧英正著「人身売買」(岩波新書)

この本について書いたことがTwitterのセーフワードサーチで引っかかったことをネタにしたが、この本は断じてボケネタのための本ではない。この国にかつて存在した、そして、おそらくは現在でも存在している現実を記した本である。 人身売買を許容する人など…

フィリップ・コトラー、ジョン・A・キャスリオーネ著「コトラーの『予測不能時代』のマネジメント」(東洋経済新報社)

はたして5年前に、COVID-19を予想し、ウクライナ侵略を予想した人がいたであろうか? しかし、今に生きる全ての人は、この現実と向かい合い、立ち向かわなければならない。 では、どうやって? 本書はまず、今日のビジネス世界がどのように変化しつつあるの…

ジョン・マクミラン著「新版 市場を創る:バザールからネット取引まで」(慶應大学出版会)

自分がもし、2002年の原著刊行時に本作を読んでいたなら、現代経済についての問題と解説について記した本として捉えたであろう。2021年の現在に、新版翻訳となった本書を読んだいま、経済を学ぶと同時に、20世紀の経済史を学ぶ本でもあると感じる。 原書刊行…

安田武著「昭和青春読書私史」(岩波新書)

何を言っているかわからないと思うが、読めば読むほど本を読みたくなる本である。 本書は著者がどのように文学作品と出会い、書店で買い、そして読み続けたかを著した一冊である。そうした感想は多くの人が自己の体験として思い浮かべることができるだろう。…

井上マサキ,西村まさゆき共著「たのしい路線図」(グラフィック社)

路線図を眺めて楽しむ。著者はそのように記しているが、それだけの一冊では無い。いま自分はどこにいるのか、目的地まではどう行けばいいのかを突き詰めた作品である。 普通に考えれば、地形そのままに記した地図が正しい地図と感じる。しかし、行動するにあ…

マシュー・ディクソン,ニック・トーマン,リック・デリシ共著「おもてなし幻想:デジタル時代の顧客満足と収益の関係」(実業之日本社)

クレーマーを相手にして、クレーマーの要求を全部叶えたとしても、商売においてメリットは全く無い。山城京一もそう言っている。 ドラッカーはマネジメントの神髄を顧客の創造に置いたが、マシュー・ディクソン,ニック・トーマン,リック・デリシ共著「おも…

ミランダ・フリッカー著「認識的不正義:権力は知ることの倫理にどのようにかかわるのか」(勁草書房)

黒人であることで警官から疑われる場合のように、聞き手の偏見のせいで話し手が過度に低い信用性しか受け取れない。明らかに許されないことであるが、現実に存在することでもある。 倫理を高めて許されざることを認識し、許されざることを糾弾するのは多くの…

カロリーヌ・フレスト著「『傷つきました』戦争」超過敏世代のデスロード」(中央公論新社)

オタクが保守と親和性が高いという。 これに対してリベラルを自負する方々から、どうしてオタクがリベラルではなく保守との親和性を高くしているのか理解できないという声があがっている。検閲を否定し言論の自由を守るのがリベラルなのに、検閲を繰り広げ言…

バラク・クシュナー著「ラーメンの歴史学」(明石書店)

タイトルを観たとき、最初は気軽に読めるガイドブックをイメージした。読み出すと、日本の食文化の歴史に関する深い考察、中国から受けた影響と受けなかった影響、そして、日本という国の食料事情の現実に叩きのめされる。 ラーメンとは実に奇妙な食べ物であ…

長束恭行著「東欧サッカークロニクル」(カンゼン)

2018年W杯決勝に進出したクロアチアをはじめとする東欧諸国に加え、アイスランド、フィンランド、そしてキプロスのサッカー事情を記した一冊。この本を読むと、サッカーという視点から眺めることでのヨーロッパの現状を目の当たりにする。 一言でヨーロッパ…

宇都宮徹壱著「ディナモ・フットボール」(みすず書房)

2023年5月6日のACL決勝第2戦の試合中、主審に対する不満の声が観客席の至る所から挙がっていた。その多くは、というよりも、一つの例外もなく、不満の声を挙げる観客のほうが正しい判断とするしかない内容であったが、そうしたジャッジもまたACLである。それ…

サイモン・クーパー著「サッカーの敵」(白水社)

今日(令和5(2023)年5月6日)、埼玉スタジアム2○○2には6万人近くの人が訪れる見込みである。サッカーを愛する人がアジア最強クラブの座を賭けて争うAFCチャンピオンズリーグ決勝第2戦、浦和レッズvsアルヒラルの試合に目を向け、声援を送り届ける。 そこに…

西谷修著「アメリカ:異形の制度空間」(講談社選書メチエ)

読み終えた今、この本をまだ読んでいない人にアドバイスすることがあるとすれば、1ページ目からではなく、「補論 <自由主義>の文明史的由来」から読むことをお勧めするということ。 アメリカ合衆国(著作中では二ヶ所を除いて「アメリカ合州国」と記載)と…

ヨハン・ノルベリ著「OPEN:『開く』ことができる人・組織・国家だけが生き残る」(ニューズピックス)

1939年の第二次世界大戦勃発直後、ナチスからの侵略に抵抗するためイギリス国内で多くの人が軍に入った。その中には植物学者のジョフリー・タンディ氏もいた。イギリス国防省は新たに入隊した人物の肩書きに仰天した。タンディ氏は cryptogrammist(暗号文研…

中川右介「世界を動かした「偽書」の歴史」(ベストセラーズ)

2023年5月3日、モスクワで奇妙な出来事が起こった。 何者かがクレムリンに爆撃を加えようとしたというのだ。 駐日ロシア大使館の発表によると 5月3日夜、キエフ政権はクレムリンのロシア連邦大統領官邸に無人機による攻撃を試みた。 2機の無人機はクレムリン…