德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

大和和紀著「源氏物語 あさきゆめみし 完全版 4」(講談社)

あさきゆめみし完全版第4巻は 第十四帖 澪標(みおつくし) 第十五帖 蓬生(よもぎう) 第十六帖 関屋(せきや) 第十七帖 絵合(えあわせ) 第十八帖 松風(まつかぜ) 第十九帖 薄雲(うすぐも) が範囲である。なお、第十九帖 薄雲(うすぐも)は途中まで…

大和和紀著「源氏物語 あさきゆめみし 完全版 3」(講談社)

あさきゆめみし完全版第3巻は、 第十帖 賢木(さかき) 第十一帖 花散里(はなちるさと) 第十二帖 須磨(すま) 第十三帖 明石(あかし) 第十四帖 澪標(みおつくし) が範囲である。 光源氏はプレイボーイとしての描写が際立っているが、この人は恋愛だけ…

大和和紀著「源氏物語 あさきゆめみし 完全版 2」(講談社)

完全版第2巻は、源氏物語の 第七帖 紅葉賀(もみじが) 第八帖 花宴(はなのえん) 第九帖 葵(あおい) が範囲である。 具体的に言うと、光源氏のもとで暮らすこととなった幼き紫の上が、光源氏の最愛の女性になるまでの頃である。もっとも、現在の倫理観で…

大和和紀著「源氏物語 あさきゆめみし 完全版 1」(講談社)

大河ドラマ「光る君へ」で源氏物語が話題となっていることもあり、源氏物語に対する興味が集まったこともあって、本作「あさきゆめみし」に対する関心も高まってきている。異論もあるだろうが、2024年1月現在、もっともわかりやすい源氏物語の現代語訳である…

相澤理著「大人の学参・まるわかり日本史」(文春新書)

本書の角書きである「大人の学参」。これは虚構ではない。実際に大学受験で出題された問題を解説する形式で日本国の歴史を解説しているのが本書である。 たとえばこのような問題である。 次の(1)~(3)の文章を読んで、下記の設問A・Bに答えなさい。 (1)1235…

成美堂出版編集部著編「見て楽しむ平安時代の絵事典」(成美堂出版)

驚愕の一冊である。 今年の大河ドラマが紫式部を主人公とすることもあり、平安時代に対する視線がこれまでになく高まってきている。その需要に応えるように様々な出版社が様々な形で平安時代を解説する書籍を刊行しているが、本書はその中でも白眉である。平…

クリス・ティマーマンス&クリス・ロアーク&ロドリゴ・アブダラ著,太田陽介&小林啓倫訳「The Big Zero:成長、イノベーション、競争優位をもたらすゼロベースのアプローチ」(東洋経済新報社)

本書はゼロベースからスタートするコスト問題を幅広く扱っているが、その思考はコスト問題にのみ適用できるものではない。私のSEとしての経験で言うと、既存の仕組みの手直しではなく、ゼロから新しい仕組みを作るほうが結果としてそれまでよりも優れた仕組…

土田宏成著「災害の日本近代史:大凶作、風水害、噴火、関東大震災と国際関係」(中公新書)

戦前日本の自然災害というと大正12(1923)年9月1日の関東大震災を真っ先に思い浮かべることが多いが、当然ながら、関東大震災よりも前にも様々な自然災害が存在したし、その自然災害は日本だけでなく世界各地で存在していた。 日本が自然災害に襲われるだけで…

ヘイミシュ・マクレイ著,遠藤真美訳「2050年の世界:見えない未来の考え方」(日本経済新聞出版)

本書は、現時点のまま世界が進むとして、2050年はどのような世界になっているのかをまとめた書籍である。 結論から言うと、想像するほどの絶望ではない。しかし、少なくとも日本国だけで考えると、失われた30年をなかったことにし、かつての栄光を取り戻せる…

エマニュエル・サエズ&ガブリエル・ズックマン著,山田美明訳「つくられた格差:不公平税制が生んだ所得の不平等」(光文社)

著者であるエマニュエル・サエズとガブリエル・ズックマンの両名はともにカリフォルニア大学バークレー校の経済学者である。二人の著者は、超富裕層がどのように租税を回避しているのか、その行動の意味するもの、そして潜在的な解決策を詳細に分析しており…

瀧浪貞子著「桓武天皇:決断する君主」(岩波新書 新赤版1983)

奈良時代の天然痘大流行のピークを迎えた天平9(737)年、後の桓武天皇こと山部皇子は、後に光仁天皇となる白壁王を父と、後に高野姓を受けることとなる和新笠を母として生まれた。この時点で、山部皇子が後に皇位に就くとは誰も想像していない。何しろ皇族で…

タイラー・コーエン著,池村千秋&飯田泰之訳「BIG BUSINESS(ビッグビジネス):巨大企業はなぜ嫌われるのか」(NTT出版)

大企業とは、そこの正社員になることが羨望されると同時に、不平不満を集める存在である。その構図は現代にはじまることではなく、中世の荘園も現在の企業に相当するし、古代社会の貴族も現在の企業に相当する。 もっとも、本書はそうした歴史的叙述に関する…

ヨリス・ライエンダイク著,田口俊樹&高山真由美訳「こうして世界は誤解する:ジャーナリズムの現場で私が考えたこと」(英治出版)

本書は、ヨリス・ライエンダイク氏が中東特派員としての経験をベースに、メディアと真実について深く掘り下げた一冊であり、原著刊行は2006年、邦訳版刊行は2011年であるから、現在からすると一昔前の書籍ということになる。しかし、2024年の現在から見ても…

井上義和&牧野智和編「ファシリテーションとは何か:コミュニケーション幻想を超えて」(ナカニシヤ出版)

ファシリテーション(Facilitation)。本来の意味は、「容易にすること、簡易化、促進」。 ビジネスや教育の現場では、会議や研修、セミナーなどのグループ活動を円滑に遂行するために働きかける技法を指し、特に会議やミーティングなどの場面で、参加者同士の…

矢吹晋著「文化大革命」(講談社現代新書)

文化大革命とは何であったか? それは、本書の「結びに代えて」のこの一文に集約できる。 「反革命分子のために銃弾を一発用いたので、家族は一発分の代金0.05元を支払うべし」 難癖を付けて銃殺しておいて、この仕打ちだ。 本書「文化大革命」は、6月4日の…

安野眞幸著「日本中世市場論:制度の歴史分析」(名古屋大学出版会)

三権分立は小学校の社会科で習う。現代日本の三権分立は立法が行政の上に乗る形で立法府と行政府が強く結びついている一方で、司法権が残る二権と少し距離を置いた構造になっている。これは議院内閣制を選んだ民主主義国でごく当たり前の構造であり、日本国…

エイドリアン・レイン著,高橋洋訳「暴力の解剖学:神経犯罪学への招待」(紀伊國屋書店)

人はなぜ暴力に走るのか? 本書「暴力の解剖学」は、上記の命題に対し、「暴力的な人だから」とか「殴られるようなことをしたから」といった単純な答えなど示していない。人間の攻撃性の泥沼を探る、魅惑的で論争の的となる探求書である。何しろ、生物学、環…

グレゴワール・シャマユー著,平田周&吉澤英樹&中山俊訳「人間狩り:狩猟権力の歴史と哲学」(明石書店)

何とも物騒な書名の本である。ゆえに、本書を手に取った人はこのように感じるであろう。「言葉の比喩か」と。 だが、本書のタイトルは比喩的表現では無い。人類がその歴史において繰り返してきた、そして、現在進行形で繰り返している「人間狩り」の歴史を淡…

アイリス・マリオン・ヤング著,岡野八代&池田直子訳「正義への責任」(岩波現代文庫)

本書はアイリス・マリオン・ヤング氏の遺稿とも言うべき一冊である。2006年に世を去った政治理論家ヤング氏は病の中で本書の原稿を執筆し、死後5年を経た2011年に本著の原著が刊行され、2014年に邦訳版の本書が刊行された。 さて、本書のタイトルにも含まれ…

藤野裕子著「民衆暴力:一揆・暴動・虐殺の日本近代」(中公新書)

1960年代から1970年代の学生運動に青春を過ごした人達が聞いたら激怒するであろうが、あのような学生運動に対して後の世代は抱く感想は、「ああは落ちぶれたくない」である。善と悪という概念で捉えてすらいない。上と下という概念であり、学生運動などは頭が…

高野光平著「発掘! 歴史に埋もれたテレビCM:見たことのない昭和30年代」(光文社新書)

日本のテレビアニメは手塚治虫氏の鉄腕アトムに始まる。それはそれで間違いないのだが、あくまでもテレビ番組としてのテレビアニメの開始であり、アニメーションそのものがテレビに登場していなかったわけでもない。何しろ鉄腕アトム放送開始時点でアニメー…

瀧音能之監修「巨大古墳の古代史:新説の真偽を読み解く」(宝島社新書)

大阪府堺市の住宅地図を眺めると、住宅地の中に当たり前のように古墳が描かれている。古墳を観に行くのが小学校の社会科見学となるような場所に住んでいる人にとっては古墳が特別なものに感じられるが、古墳が日常生活にある生活をしている人にとっては、学…

本村凌二監修「カラー版・世界の教養が身につくローマ史の愉しみ方」(宝島社新書)

私事であるが、私の大学での専攻は古代ローマであり、学部生としては文学部史学科西洋史専攻西洋古代史ゼミが私の出身である。ゆえにバイアスが掛かっていることはやむをえないと言えるが、その点を差し引いても、西洋文化圏で高等教育を受けてきた人と話を…

ピーター・N・スターンズ著,上杉忍訳「人権の世界史」(ミネルヴァ書房)

人権。この概念を持たない人はいない。 しかし、その概念の適用範囲は時代とともに変化する。かつては人権が存在するというカテゴリーであると認識されていなかった、それこそ嘲笑の材料であったカテゴリーが、現在では人権が存在するカテゴリーであると認識…

宇都宮ミゲル著「一球の記憶」(朝日新聞出版)

昭和から平成初期のプロ野球を彩った名選手達のインタビュー集である。 開幕から日本シリーズ終了までの間、ゴールデンタイムにテレビをつければどこかしらの試合中継が存在していた時代、プロ野球は娯楽の中心であった。 その時代のプロ野球を彩った37名の…

原田信男著「豆腐の文化史」(岩波新書)

2009年時点で働いていた人、および、2009年から4年間の間に新卒での就職活動をしていた人の中に、民主党政権を評価する人は極めて少ない。しかし、ごく一部ではあるが、あの地獄の時代を回顧する人がいる。 もっとも、誰もが同じ感情であるというのは、それ…

ジョオン・サースク著,三好洋子訳「消費社会の誕生:近世イギリスの新規プロジェクト」(ちくま学芸文庫)

本書は16~17世紀のイギリスを舞台に、当時の起業と社会の状況を分析した一冊である。この時代のイギリスでは、現代と同じく多くの起業家が現れ、新規プロジェクトを立ち上げてイノベーションを起こし、世の中を変えていった。大英帝国の萌芽の時期であり、…

榎村寛之著「謎の平安前期:桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」(中公新書)

今年の大河ドラマ「光る君へ」。源氏物語の作者である紫式部を軸に平安時代中期を描くドラマになるとのことである。なお、本記事執筆時点ではまだ第一話の放送もまだなのでドラマの内容について論評はしない。 その代わりに本書を薦める。 平安時代というも…

カロリーヌ・フレスト著,堀茂樹訳「「傷つきました」戦争:超過敏世代のデスロード」(中央公論新社)

社会の正しさ。それはどの時代であろうと追求するものである。ただし、どのようなものを正しいとし、どのようなものが誤りであるかをするのは社会により、そして時代によって異なる。 本書は現代社会の正しさについて深く掘り下げた一冊です。ただし、あくま…

P.F.ドラッカー著,DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー編集部編訳「P.F.ドラッカー 経営論」(ダイヤモンド社)

ドラッカーの著作の多くは日本語訳されダイヤモンド社から刊行されることが多い。しかし、中にはなかなか邦訳版が手に入らない著作が存在する。 それが、ドラッカーがハーバードビジネスレビューに投稿した論文である。 本書はそれらの論文のうち35編を邦訳…