德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧

宮崎市定著「科挙:中国の試験地獄」(中公新書)

中国が人員採用制度として科挙を制度化していたことを世界史で習った人は多いであろう。そして、具体的に科挙がどのような制度であったのかをおぼろげながらも知識のある人は多いであろう。 本書はそうしたおぼろげな知識を明瞭化する一冊である。 本書に記…

鎌倉佐保,木村茂光,高木徳郎編「荘園研究の論点と展望:中世史を学ぶ人のために」(吉川弘文館)

平安時代以降の日本国の経済に欠かせない存在である荘園。この荘園についての研究は進んでいるのだが、いかんせん、何とも掴み所のないのが荘園というものだ。荘園が存在していたことは誰もが知っているが、荘園がどのようなものであるかを捉えることのでき…

髙宮利行著「西洋書物史への扉」(岩波新書)

書物はかつて高級品であった。西洋中世では空前の規模の図書館を構えている修道院とされるところでも書架に100冊の書籍を置いているかどうかであった。書籍一冊の値段が家屋一軒の値段に相当し、書物は全て写本であったために一冊を作り上げること自体がそも…

レイ・ダリオ著,斎藤聖美訳「世界秩序の変化に対処するための原則:なぜ国家は興亡するのか」(日経BP)

オランダ、イギリス、アメリカ、そして中国…… 過去500年間の地球の覇権を握ってきた国家はどのようにして興隆し、そのようにして衰退したか。その様相は各国で異なるが、大まかな流れはだいたい共通している。そう、本書の著者であるレイ・ダリオ氏は述べて…

大名力著「英語の発音と綴り:なぜwalkがウォークで、workがワークなのか」(中公新書)

それまで西洋系諸語のうち学んできた言語が英語だけであるという人が、大学に入ってはじめてドイツ語を学ぶと、あるいは、はじめてラテン語を学ぶと、最初にスペルと発音との関係で驚く。 「そのまま読んでいいの!」と。 I have a note. を「イ・ハヴェ・ア…

佐伯有清著「最後の遣唐使」(講談社学術文庫)

結果的に最後の遣唐使となった第19回遣唐使(承和5(838)-承和6(839))で帰国した391名のうち、376名が大幅に位階を上げた。 内訳は、9階:12名8階:39名7階:59名6階:129名5階:134名4階:2名3階:1名 なお、計651名での出航計画である。 遣唐使が冒険行であ…

上野英信著「地の底の笑い話」(岩波新書)

本書は「岩波新書クラシックス限定復刊」と銘打って再刊された書籍の一冊であり、昭和42(1967)年に刊行された書籍の復刊である。 本書のタイトルにある「地の底」とは炭鉱のことであり、石炭を求めて坑道を行き交う炭鉱労働者達のアネクドートと、その生活の…

志村史夫著「古代日本の超技術・改訂新版」(講談社ブルーバックス)

歴史ある木造建築は釘を全く使わないで建設されたイメージがあるが、法隆寺は釘を使っている。 ただし、普通の釘ではない。 飛鳥時代に鋳造されてから1300年以上経ってもサビ一つ生じていない釘で、解体修理で引き抜くときに釘はゆがむが、ゆがみを直せばま…

入山章栄著「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)

ある時、ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈の雪山で、猛吹雪に見舞われ遭難した。彼らは吹雪の中でなす術なく、テントの中で死の恐怖におののいていた。そのとき偶然にも、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。彼らは地図を見て落ち着きをも取り戻…

マーク・ランドルフ著,月谷真紀訳「不可能を可能にせよ!:NETFLIX 成功の流儀」(サンマーク出版)

1998年4月14日、世界初のWebサイトによるDVDレンタル事業が登場。ただし、業務開始初日にもっとも閲覧されたページは「ダウン中。すぐに立ち上がります」と書き記されたサーバーエラーのページである。これがNETFLIXの営業初日の光景。この頃はまだ、動画配…

清水俊史著「ブッダという男:初期仏典を読みとく」(ちくま新書)

一言で言うと、本書が刊行できたことで、この国の言論の自由はまだ死んでいないと言える一冊である。本書あとがきのアカデミックハラスメント部分が話題になってしまったが、その他の部分に於いても、こうであって欲しいと願っていた一人の人間としてのブッ…

ジャレド・ダイアモンド,ポール・クルーグマン,リンダ・グラットン,マックス・テグマーク,スティーブン・ピンカー,スコット・ギャロウェイ著,大野和基編「コロナ後の世界」(文春新書)

奥付に従えば本書刊行は2020年7月である。世界中でCOVID-19の猛威に恐れ戦(おのの)いていた頃であり、この時点ではまだワクチンが存在しておらず、マスクがどこにも売っておらずに、出勤前にドラッグストアの前に行列を作る高齢者達を横に、前日に洗って干…

谷釜尋徳著「スポーツの日本史:遊戯・芸能・武術」(吉川弘文館歴史文化ライブラリー 580)

スポーツと言って何を思い浮かべるか? サッカーや野球のように屋外で大人数で行う運動競技か? 相撲のように一対一で行う運動競技か? 日本の歴史におけるスポーツの流れとなると、現在のオリンピックに取り上げられるような競技ではなく、相撲や、あるいは…

伊藤達也,小田宏信,加藤幸治編「経済地理学への招待」(ミネルヴァ書房)

刊行年こそ令和2(2020)年だが、内容は前年までにまとめられた、地理に視点を置いた経済分析の著書であり、タイトルの通り経済地理学の入門書である。 そして、気づきたくなかった現実を突きつけられる。現在を述べる全ての社会科学書は後世において同時代史…

大村大次郎著「税金を払わずに生きてく逃税術(改訂新版)」(悟空出版)

先に記しておく。 本書の内容は全く法に触れていない。法に触れるとすれば法のほうが改正されて、これまでの法律では認められていたことが今後は認められなくなるというケースであるが、日本国憲法の法の不遡及の原則に従い、少なくとも今のところは許されて…

今尾恵介著「地図で読む戦争の時代:描かれた日本、描かれなかった日本」[増補新版](白水社)

21世紀の現在、日本の書店では簡単に地図が手に入る。かつてはそうではなかった。現在でもそうではない国が存在する。 なぜか? 多くの場合、地図を作成するのはその国の陸軍であり、海図を作成するのはその国の海軍である。国土を守ることが大前提であり、…

今尾恵介著「ふらり珍地名の旅」(ちくま文庫)

「昼飯」「前後」「未明」「海外」「浮気」「青鬼」…… 本日の記事のタイトルと紹介している書籍名から想像つくかもしれないが、それらの情報無しに上記の単語を見たときに何のことか理解するのは難しいであろう。 答えから先を記すと、昼飯(ひるい)は岐阜…

鴇田文三郎著「チーズのきた道」(講談社学術文庫)

COVID-19の初年度に牛乳が余ったことから、牛乳を煮詰めて作る蘇(そ)が流行したことは覚えている人は多いであろう。ただし、蘇(そ)は日本の食文化に連綿と受け継がれてきた食品であるとは言えない。知識として知っている人はいたものの常食とする人は、…

五十嵐律人&多田玲子著「現役弁護士作家がネコと解説 にゃんこ刑法」(講談社)

本書は現役の弁護士である五十嵐律人氏と、ベストセラー『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』のイラストを担当したことでも著名な多田玲子氏の共著である、刑法の解説書である。 弁護士の著した刑法の解説書と聞くと難しそうだと身構えてしまいそうであ…

村上憲郎著「クオンタム思考:テクノロジーとビジネスの未来に先回りする新しい思考法」(日経BP)

量子コンピュータ。 この単語を耳にしたことのない人はいないであろう。 では、量子コンピュータが実現したら世界はどうなる? 本書は量子コンピュータとその思考法について解説している一冊である。それも、科学的な知識を必要としない一般の読者にも理解で…

ヒロユキ著「アニメ化4作品のマンガ家が腕時計にハマった結果5000万円の借金をつくった話」(ワニブックスPLUS新書)

漫画家のヒロユキ氏はこれまで、「ドージンワーク」「マンガ家さんとアシスタントさんと」「アホガール」「カノジョも彼女」と4作品をアニメ化させた、言わば成功した漫画家である。ちなみに、何かと世間を騒がせることの多い西村博之氏のこと「ひろゆき」氏…

ジャン=ノエル・カプフェレ&ヴァンサン・バスティアン著,長沢伸也訳「ラグジュアリー戦略:真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか」(東洋経済新報社)

ラグジュアリーブランド。これをビジネスとして捉えるとどうなるか? まず、そもそも所持していることがステータスである。 そして、多くの人がその商品やサービスに価値があることを認め、商品がサービスの内容に満足する。特に、平準との差異化によるない…

吹浦忠正著「国旗の考現学」(エムディエヌコーポレーション)

現時点で唯一、役者が自分を演じて大河ドラマに登場していることを著者自身が著書で言及しているのが、本書の著者である吹浦忠正氏である。 本書は上記の「はじめに」の記述のインパクトが強すぎて本書の本文についての言及が乏しくなってしまっているが、本…

セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ著,酒井泰介訳「誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性」(光文社未来ライブラリー)

書評を記すより、この本に載っていたエピソードを列挙してみるほうが本書の何よりの説明になるであろう。 [第1章] スポーツ選手として成功するのに、幼少期の苦労はむしろマイナス。 スポーツ選手として成功するのは、キラキラネームより普通の名前。 […

桃崎有一郎著「平治の乱の謎を解く:頼朝が暴いた「完全犯罪」」(文春新書)

平治の乱は何ともとらえどころのない事件である。 平安時代叢書で平治の乱を書くにあたって、私はとにかく歴史的出来事を時系列に則って書き記すことに徹した。そうすることでいつ平治の乱が起こり、平治の乱がどのように推移し、平治の乱がどのような結末を…

繁田信一著「源氏物語を楽しむための王朝貴族入門」(吉川弘文館 歴史文化ライブラリー578)

来年の大河ドラマ「光る君へ」の影響で、源氏物語の時代に関する書籍が数多く書店に並ぶようになっている。本書もそうした書籍のうちの一つであるが、本書は源氏物語そのものの解説書ではなく、源氏物語の時代の皇族や貴族達の政務と日常を描いた書籍である…

フェルナンド・バエス著,八重樫克彦&八重樫由貴子訳「書物の破壊の世界史:シュメールの粘土板からデジタル時代まで」(紀伊國屋書店)

書物の破壊として思い浮かべるのは、書物の価値を認めない時代の権力者や民衆暴力による結果であろう。焚書のように意図的に知識を捨てさせる目的のこともあれば、書物の価値を知らない人が不要なモノと考えて書物を捨てることもある。小さなところでは家族…

グレン・ハバード&ティム・ケイン著,久保恵美子訳「なぜ大国は衰退するのか:古代ローマから現代まで」(日本経済新聞出版)

人類はその歴史に於いて様々な国家の興隆を体験した。 国家が興隆した理由は国の数だけ、興隆の数だけ存在する。 人類はその歴史に於いて様々な国家の衰退を体験した。 国家が衰退した理由はただ一つ、「変わらないこと」に集約される。 本書はグレン・ハバ…

フィリップ・アギヨン&セリーヌ・アントニン&サイモン・ブネル著,村井章子訳「創造的破壊の力:資本主義を改革する22世紀の国富論」(東洋経済新報社)

資本主義の未来と持続可能な成長について、経済成長に主眼を置いて分析している一冊である。特にCOVID-19の影響を受けた現代社会についても最新の研究成果によって分析していることは、今まさに体験したことが歴史と連綿と続いているのだと痛感する。 本書の…

繁田信一著「孫の孫が語る藤原道長:百年後から見た王朝時代」(吉川弘文館)

源氏物語の時代、藤原道長は現実であった。 平家物語の時代、藤原道長は理想になった。 厳密に言えば、藤原道長の孫の孫の代はまだ平家物語の時代を迎えてはいないが、時代の趨勢は明らかに武家社会へと変化してきており、平安貴族達は、特に藤原摂関家の面…