宮武外骨を「反骨のジャーナリスト」と多くの人は評する。ただ、その反骨の度合いは尋常ではない。明治から戦後にかけて言論の自由にチャレンジし続けた結果、逮捕されること3回、発行停止処分を受けること43回、自らがかかわった雑誌のうち実に17誌が廃刊に追い込まれるという、この国の言論の自由におけるメルクマールでもある人物である。
本書は、その宮武外骨の人生と、宮武外骨がかかわってきた出版を振り返り、紹介する書籍である。表紙も著者自身が宮武外骨に扮した格好の写真であり、本書に掲載されている宮武外骨の実際の写真と比較しても、著者が宮武外骨に完全に再現していることが見てとれる。
宮武外骨の批判は容赦ない。何しろ明治天皇や大日本帝国憲法ですら批判の筆先を向けている。筆先を向けたために逮捕され、塀の中で3年8ヶ月を過ごしている。
釈放されても全く反省する意欲はなく、その当時の悪徳商法で名を馳せていた人物を容赦なく実名で糾弾したのであるが、その糾弾の方法も徹底している。その人物を揶揄するためだけにユスリと太文字で印刷できる特別な活字をわざわざ用意し、雑誌の文中に何度も登場させているほか、その人物の肖像画を用いた晒し首や標本、自刃のイラストを載せている。本書では実際に紙面に掲載されたイラストを引用している。
さらに、宮武外骨自身が衆議院議員選挙に立候補して、自分が当選するなど考えない代わりにその当時の選挙違反を続々と糾弾するという一大キャンペーンを展開したほか、性的な記事や挿絵も掲載してその時代の言論の限界に挑戦した。
なお、それらに対して批判しようものなら、宮武外骨から誌面を通じた容赦ない罵倒が待っている。それは本書が引用したこのページからもわかるであろう。
常に何かに対して怒っているという姿勢であるため、宮武外骨は肖像画イラストとして自分の頭が破裂したイラストを用いている。癇癪玉が破裂したという体裁だ。
そのため、どんなに小さなイラストでも宮武外骨がどこにいるのかわかるようになっている。頭が破裂しているのが宮武外骨だ。
ちなみに、宮武外骨は当時の印刷技術の限界にチャレンジし続けてきた人物でもある。明治時代の印刷技術では掲載困難であった写真を自らの発行する雑誌に掲載したのは一大センセーションとなった。別の意味で。
宮武外骨とは何とも掴み所のない人間である。
その人間を、著者は本書において見事に描写している。