いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ハンナ・アレント著,ジェローム・コーン編,中山元訳「責任と判断」(ちくま学芸文庫)

社会が全体主義と化して人が人を殺すのを厭わなくなるとき、そこには全体主義特有の社会の空気が存在する。ナチスが、ファシズムが、共産主義が人を殺してきたとき、人を殺して良いと考える空気が全体主義の社会を覆い、多くの人の命を奪い去ることを厭わな…

キャシー・オニール著,久保尚子訳「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠」(インターシフト)

私事であるが、私はITエンジニアとして給与を稼いでいる身である。そして、日常においては否応なくAIにもビッグデータにも接しなければならないという立場になっている。といっても、操るというわけではなく、手のひらに載せられているという感じか。どうい…

山本紀夫著「ジャガイモのきた道: 文明・飢饉・戦争」(岩波新書)

本書にも掲載されているが、アイルランドのダブリンにはジャガイモ大飢饉の記念碑が存在する。アイルランド人にとっては絶対に忘れることのできない惨劇の記録であり、飢饉に苦しむ人を描き出している像を目にするだけで、ジャガイモ大飢饉がいかなる惨劇で…

デビッド・ロブソン著,土方奈美訳「The Intelligence Trap:なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか」(日本経済新聞出版)

頭がいい人ほどバカな間違いをする。 一見するとあり得ない言葉である。多くの人は高いIQや学歴を持つほど正しい判断ができると信じている。「あの専門家が言うのだから」「有名大学を出ているのだから」といったバイアスで、間違ってはいないと考えることが…

マシュー・ハインドマン著,山形浩生訳「デジタルエコノミーの罠」(NTT出版)

従来であれば莫大な時間、莫大な予算、莫大な人員を必要としてきたことを、インターネットの普及は短期間で、廉価で、極論すると自分一人でできるまでにした。そこには本来であれば「平等で民主的な空間」ができあがる、はずであった。 本書を著したマシュー…

磯田道史著,備前やすのり画,河田惠昭監修「マンガでわかる災害の日本史」(池田書店)

どんなにマンガを目の敵(かたき)にする人であろうと、我が子がマンガを読んでいたらそれだけで発狂するような人であろうと、このマンガは絶対に文句を言わない、そういうマンガである。 何しろ日本がこれまでどのような災害に遭ってきたのか、日本に生きる…

魚柄仁之助著「国民食の履歴書:カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが」(青弓社)

カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが。好き嫌いは別として、この中の一つとして日本人であれば知らない人はいない。同時に、江戸時代の人が食べていたところを想像できる食事や調味料もない。 本書は日本のカレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃ…

詫摩佳代著「人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差」(中公新書)

人類が感染症と向かい合うとき、一つの現実が突きつけられる。 感染症に国境は無いという現実である。 国境を接している隣国や海を挟んだ近隣の国で感染症が観られた場合、それはかなりの可能性で自国でも感染症が起こることを意味する。また、自国で感染症…

兵藤裕己編注「説経節 俊徳丸・小栗判官 他三篇」(岩波文庫)

来日した12歳の少女を性的な店で働かせていたとして逮捕されたというニュースが流れてきた。この事件に対する怒りは多くの人が表明していることであり、私もまた、この犯人に、また、この店の利用者に対する怒りを表したい。表したいが、この犯人とこの店の…

ローレンス・レビー著,井口耕二訳「PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」(文響社)

今年の秋、そして冬と、日本のアニメーション産業の一つの現実が露見した。 放送延期を余儀なくされている作品が多々発生しているのだ。 本来であれば今年の秋もしくは冬に放送予定であったのに来年の放送予定となった作品もあれば、半年間、すなわち26週間…

フリードリヒ・ハイエク著,村井章子訳「貨幣発行自由化論 改訂版:競争通貨の理論と実行に関する分析 」(日経BP)

リンク先の書籍そのものは2020年の刊行である。 しかし、ハイエクの記したこちらの書籍は今から半世紀以上前の書籍であり、もっと言えば私の生まれる前の論文である。 その本が脚光を浴びたのはビットコインをはじめとする暗号通貨が話題になったからである…

川本重雄著「住まいの日本史」(吉川弘文館)

本書冒頭にもあるように、日本の住まいとは兼好法師が徒然草で書き記した「家の造りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にもすまゐ、あつきころわろき住居(すまい)はたえがたきことなり」である、はずであった。 ところが、本書巻末でフランスの地理学…

髙井ホアン著「戦前不敬発言大全:落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反天皇制・反皇室・反ヒロヒト的言説(戦前ホンネ発言大全)」(パブリブ)

以前紹介した「戦前反戦発言大全」。実は第二巻であり、第一巻は別途刊行されている。 rtokunagi.hateblo.jp 本日紹介するのはその第一巻である。 昭和21(1946)年の今日に公布され、昭和22(1947)年5月3日に施行された日本国憲法は、国民に日本国の主権がある…

スティーブン・デスーザ&ダイアナ・レナー著,上原裕美子訳「「無知」の技法:不確実な世界を生き抜くための思考変革」(日本実業出版社)

今年の9月19日(金)から、病院や薬局での受付での保険証確認手順の一つとして、マイナンバー機能を搭載したスマートフォンでの保険証確認が加わった。これまでマイナンバーカードを置いて、暗証番号を入力するか顔認証をするかを選択するという手順に変わり、…

小田中直樹著「感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか:世界史のなかの病原体」(日経BP)

本書は2020年7月に刊行され、COVID-19が世界中で猛威を振るい、緊急事態宣言が出され、まだワクチンが開発されていない時期に急いでまとめられたものである。 著者の小田中直樹氏は社会経済史を専門とする歴史学者であり、医療従事者ではない。しかし、歴史…

髙井ホアン著「戦前反戦発言大全:落書き・ビラ・投書・怪文書で見る反軍・反帝・反資本主義的言説(戦前ホンネ発言大全)」(パブリブ)

誰が言ったか、ネットの書き込みは便所の落書きと称されることがある。 本書は戦前・戦中の特別高等警察(通称「特高警察」「特高」)の記録である「特高月報(特高外事月報)」を中心に、「社会運動の記録」や各種憲兵隊記録、「思想旬報」といった資料に掲…

的場りょう著「限界独身女子(26)ごはん」(KADOKAWA MFコミックスフラッパーシリーズ)

このマンガの主人公である柊美夜子(ひいらぎ・みやこ)さんを大げさに感じたならば、あなたは幸せな人と言える。 限界まで追い詰められて破綻した人間はリアルにこうなるのだ。 私も実際に体験した。 ameblo.jp この作品の第1話の柊さんのように、何かを食…

清水善仁著「公害の記憶をどう伝えるか:「公害アーカイブス」の視点」(吉川弘文館)

昭和時代の日本を震撼させた公害病の一つについて、賛否両論の意見が存在する。 確かになぁ、、、と思った。@水俣 pic.twitter.com/CXDX6CjTRt — あじのり。 (@potaku_ajinori_) 2025年1月6日 たしかにあの公害病について地名を用いると、その土地に対する…

橘木俊詔著「教育格差の経済学:何が子どもの将来を決めるのか」(NHK出版新書)

公立小学校や公立中学校に通っていた人ならば実感できるであろうことがある。 格差を目の当たりにするのだ。 これは単なる学力の違いにとどまらず、社会的な問題としても大きな影響を及ぼしている。中学受験を経験したり、小学校から私立学校に通っていた人…

村井章介著「定本 中世倭人伝」(講談社学術文庫)

元寇の嵐が過ぎ去り、元による日本侵略の計画が消えた頃、元やその属国であった高麗の間に新たな脅威が現れていた。 倭寇である。 朝鮮半島沿岸部や中国大陸沿岸部を襲う海賊集団は、日本から来た海賊とされ「倭寇」と呼ばれた。しかし、彼らが話す言葉は日…

田口ゆう原作,吉田美紀子著「認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実」(バンブーコミックス エッセイセレクション)

去年の三月に父を見送った。 不思議と悲しみは無かった。それよりも、ようやく地獄の日々が終わったという認識のほうが強かった。 その兆しが見えたのは父が亡くなる七年前、最後の二年間はもはや父ではなく、かつて父であった何かとなってしまっていた。具…

木全美千男著「社員の給料・労働条件の値切り方ご指導いたします: 会社に有利に労働条件を変更するマル秘テクニック」(日本法令)

結論から言う。読む価値は全く無い。 何しろ作者はこいつ ↓ である。 今から10年前、平成27(2015)年の年末に話題になっていたブログ「すご腕社労士の首切りブログ」でお馴染みの有限会社モンジュアソシエイトの木全美千男(きまた・みちお)であるが、当該ブ…

中島茂著「会社と株主の世界史:ビジネス判断力を磨く「超・会社法」講義」(日本経済新聞出版)

本書第8章にも引用されているが、松下幸之助氏は生前、株主についてこのように語っている。 株主というものは、株式会社に出資することによって、国家の産業に参画するという一つの大きな使命があると思う。出資した会社から配当を受ける一方で、会社の経営…

猪木武徳著「戦後世界経済史:自由と平等の視点から」(中公新書)

高市内閣が成立したことに対し、早々に高市内閣に対する批判の声がメディアで取り上げられるようになった一方、発足直後の内閣支持率は60%を突破し、読売新聞の調査では71%に達している。 www.yomiuri.co.jp そこには憲政史上初の女性首相ということもある…

マクローリン・レヴィ著,山形浩生訳,中野毅監修「創価学会:現代日本の模倣国家」(講談社選書メチエ)

過去26年間、公明党は自民と手を組み続けていた。それは2009年の総選挙で自民党が敗れたときも例外ではない。細川内閣の頃のように非自民非共産会派の連合体という枠組みに加わることはなく、1999年からは一貫して自民党とともにあった。 その歴史が昨日、正…

本郷恵子著「天皇家の存続と継承:中世の転換から現代へ」(吉川弘文館)

現在の日本の皇位継承は、日本国憲法の規定に基づいて昭和22(1947)年に改定された皇室典範に基づいている。皇室典範の制定は明治22(1889)年のことであり、厳密に言うと、日本国憲法施行のときにいったん大日本帝国憲法に基づく旧皇室典範を廃止した上で、日…

ミラン・クンデラ著,阿部賢一訳「誘拐された西欧、あるいは中欧の悲劇」(集英社新書)

第二次大戦終結から1989年まで、ヨーロッパは東と西しかなかった。 福祉をイメージさせる北欧や、気質をイメージさせる南欧という概念はあったが、鉄のカーテンを境界線として、カーテンの東の東欧と、カーテンの西の西欧しかなかった。 これを当事者が受け…

益田朋幸著「光の美術 モザイク」(岩波新書)

絵画の技法は多々ある。紙に描く、布地に描く、板に描く、壁に描く。絵の具で描く、墨で描く、マーカーで描く、ペンキで描く。こうして描かれた絵画の多くは、時間経過とともに劣化していき、人為的に、あるいは自然の摂理によって風化する運命を持っている…

樋口健太郎&栗山圭子編「平安時代天皇列伝」(戎光祥出版)

2008年から平安時代叢書を書きはじめ、今年で17年目になる。 その間、数多くの天皇が登場した。 自ら政務を執った天皇がいた。 自ら政務を執ることを狙った天皇がいた。 幼少ゆえに政務を執ることのできぬまま時間が経過し、元服を迎えたかどうかのタイミン…

槇野修著,山折哲雄監修「『源氏物語』の京都を歩く」(PHP新書)

源氏物語は、今から1000年前に記された、今から1100年前を舞台とする小説である。 お前は何を言っているのかと思うかも知れないが、紫式部は紫式部の生きている時代の100年ほど前を舞台として小説を書き記したのである。 ただ、第一帖「桐壺」にて高麗、小説…