いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

マイケル・ルイス著,中山宥訳「最悪の予感:パンデミックとの戦い」(ハヤカワ文庫)

2019年、アメリカは世界健康安全保障指数で1位となった。 2020年、COVID-19が全世界で猛威を振るいはじめた。 2021年、マイケル・ルイスによる本書刊行。著者は本書においてアメリカをCOVID-19対策における最大の敗戦国と書き記した。 いったい何があったの…

奥窪優木著「転売ヤー:闇の経済学」(新潮新書)

転売を問題と思っている人はたくさんいる。しかし、転売をしようとする人、いわゆる転売ヤーが減ることはあっても消えることはない。どんな時代であろうと、どんな環境とであろうと、転売は必ず存在する。なにしろナチの強制収容所の中ですら転売が存在して…

橘木俊詔著「フランス経済学史教養講義:資本主義と社会主義の葛藤」(明石書店)

ピケティの21世紀の資本が一大ブームとなってからもう10年以上が経過している。ピケティの投じた一石は世界中で懸念となっていた格差問題に対する明瞭な解を与える一石になり、一時はウォール街を占拠する運動まで巻き起こしたほどだ。また、資本とイデオロ…

藤井忠俊著「国防婦人会:日の丸とカッポウ着」(岩波新書 黄版 298)

「××に騙されて」 戦争を知らない世代の上に、生まれたときにはもう戦争をしていたという世代がいて、さらにその上に戦争へと賛成してきた世代が存在する。令和の現在からすると100歳を超えているであろう世代であり、その世代の多くの人はもう鬼籍に入って…

倉山満著「嘘だらけの日本古代史」(扶桑社)

本書の著者である倉山満氏の著作は以前にも紹介した。 rtokunagi.hateblo.jp 刊行の時系列でいうと、本書が先であり、日本中世史のほうが後である。実際、上記の日本中世史の著作を読むにあたっては本書を先に読むべきかもしれない。 さて、本書は平安時代の…

栗本賀世子著「源氏物語の舞台装置:平安朝文学と後宮」(吉川弘文館)

紫式部は源氏物語を記すとき、読者は内裏の構造を知っていることを前提として記したはずである。源氏物語のスタートは桐壺であるが、当時の人は桐壺と聞いただけで桐壺が内裏にどこにあるのか、そこに住まう女性がどのような人であるか容易に想像できたし、…

市大樹著「すべての道は平城京(みやこ)へ:古代国家の〈支配の道〉」(吉川弘文館 歴史文化ライブラリー 321)

現在の新幹線をはじめとする鉄道網、あるいは高速道路網を思い浮かべていただきたい。だいたいどこにどのように走っているか想像していただけるはずである。 このルート、実は今から1300年前にはもう大部分が存在していた。無論、例外はある。群馬県から新潟…

マウンティングポリス著「人生が整うマウンティング大全」(技術評論社)

「マウントをとる」とはあまり上品な言動ではないが、人間の本質として、自らを賛美する言葉を口にして他者より優越に立とうとするものがある。 本書に挙げられている例だと 「申し訳ありません。その日はあいにくのニューヨーク出張でして、同窓会に参加す…

ニコラス・ヤンニ著,楠木建監訳,道本美穂訳「LEADER AS HEALER:最強のリーダーは人を癒すヒーラーである」(かんき出版)

本書は新しい時代のリーダーシップとはどうあるべきかという姿を具体的に叙述し、これからの時代にリーダーとなる人に向けての行動指針をまとめた書籍である。 ただ、本書のトーンとしては、これまでにない新しい形のリーダー像の投影となっているが、歴史を…

関幸彦著「刀伊の入寇:平安時代、最大の対外危機」(中公新書)

令和6(2024)年12月1日放送の大河ドラマ「光る君へ」第46話はちょっとしたセンセーショナルな内容だった。第1話の物騒なシーンはあったものの、これまでの多くの場面では存在しなかった戦闘シーンが存在していたからである。大河ドラマに戦闘シーンが存在しな…

山本孝文著「文房具の考古学:東アジアの文字文化史」(吉川弘文館)

文房具店は多くの街に見られる店舗である。文房具専門店でなくともスーパーマーケットやコンビニエンスストアで文房具を買うことはできる。 では、歴史を遡るとどうなるか? 古今東西、文字が誕生したときというのは、周囲に手に入る素材を用いて文字を書き…

仁藤敦史著「加耶/任那:古代朝鮮に倭の拠点はあったか」(中公新書)

加耶、あるいは任那、日本の歴史を学ぶと必ず出てくる地名であるが、いまいちピンと来ない人も多いであろう。実際、新羅や百済、高句麗といった朝鮮半島の国々と違い、そもそも国家としての歴史を有していない。 余程詳しい教科書でない限り、加耶や任那のこ…

倉田喜弘著「明治大正の民衆娯楽」(岩波新書 黄版 114)

最近はテレビを観る人が少ないという言葉が広まっているが、そもそも、テレビもラジオも無い時代は100年前まで当たり前だった。関東大震災の後にラジオが登場したが、ラジオ番組の質も量も現在と比べかなり少なかった。そもそも戦後になるまでNHKだけがラジ…

長部三郎著「伝わる英語表現法」(岩波新書)

本書について何かを記す前に告白しなければならないことがある。 私はまともに英語を使えない。𝕏(旧Twitter)等で英語の投稿をすることはあるが、ほとんどは機械翻訳の結果である。職場でもたまに英語を使わねばならないことがあるが、そのときでも英語に堪…

山口博著「日本人の給与明細:古典で読み解く物価事情」(角川ソフィア文庫)

江戸時代の越後屋の勤務状況が、 12歳から22歳になるまで無給 休暇は年に2回 10年間勤め上げると給与を貰えるようになるが1年ごとの契約更新があり終身雇用ではない 30歳まで働けた者が10人に1人である 以上を踏まえると、「越後屋、お主も悪のよう」が別の…

福間良明著「「勤労青年」の教養文化史」(岩波新書 新赤版 1832)

昭和20(1945)年を期に、それまで信じていたことが一瞬にして崩壊した。 玉音放送を聞いた大人は自らを見つめ直した。 生まれたときから国が戦争をしていた子供は自らを作り始めた。 今をいかにして生きるかという現実と並行して、教養への需要が生まれた。 …

近藤正高著「タモリと戦後ニッポン」(講談社現代新書)

本書について何を書こうか、そう考えた私の思いをぶち破ったのは、Amazonに投稿されたこちらのレビューである。 www.amazon.co.jp このレビューを読み終えた今となっては、もはやこれ以上何かを語っても負けであると悟り降伏するしかない。私にできるのはこ…

牧英正著「人身売買」(岩波新書 青版 801)

人手は欲しいがコストは掛けたくないというのもまた、人間の本性である。 本来あるべき形は、労働基準法に基づいて正当な賃金を支払うことである。しかし、世の中にはそのような概念を適用させずに奴隷扱いする人がいる。 本書は、我が国の歴史においてそう…

塩沢美代子&島田とみ子著「ひとり暮しの戦後史:戦中世代の婦人たち」(岩波新書 青版924)

昭和50(1975)年の本だが、現在と変わらぬ問題がそこにはあった。と同意に、本書には記されていない大問題が、現在には存在するのだと痛感させられる一冊である。 それは、正規・非正規の格差問題。 トマ・ピケティが21世紀の資本として格差の拡大を著したの…

中島和歌子著「陰陽師の平安時代:貴族たちの不安解消と招福」(吉川弘文館)

現在放送中の大河ドラマ光る君へでユースケ・サンタマリア氏が演じる安倍晴明は第32話で命を落としている。これは何も番組が打ち出したオリジナルストーリーではなく、史実でも安倍晴明は寛弘二(1005)年に亡くなっている。 さて、安倍晴明と言えば陰陽師、陰…

佐藤卓己著「流言のメディア史」(岩波新書)

以前から兆候は見えていた。東京都知事選挙で現職の小池知事が再選されたところまでは事前予測の通りであっても、立憲民主党をはじめとする野党各党が推した蓮舫候補が三位になることは予想できなかった。 その後のアメリカ大統領選挙でトランプ候補が大統領…

竹内康浩&朴舜起著「謎ときサリンジャー:「自殺」したのは誰なのか」(新潮選書)

サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」(A Perfect Day for Bananafish)のラストで、シーモア・グラスは拳銃で自らのこめかみを撃ち抜く。いわゆる「グラス家」シリーズの一作目のラストであり、「ライ麦畑でつかまえて」(The Catcher in the R…

宮坂昌之著「新型コロナワクチン:本当の「真実」」(講談社現代新書)

このタイトルで上梓されたのは、宮坂氏の、そして講談社の慧眼とするしかない。タイトル的に反ワクチンの人でも手に取ってしまうだろうから、本書によって反ワクチンが減ってワクチン摂取者は増えることも期待できる。 無論、本書の内容は反ワクチンの人が期…

里見脩著「言論統制というビジネス:新聞社史から消された「戦争」」(新潮選書)

マスメディアが「マスゴミ」と呼ばれるようになったのはいつからだろうか? 読者や視聴者から報道が信じられないという声が挙がる一方、メディアのほうからはネット言論に対する批判的な論調が挙がっている。中にはネット言論の規制を訴える論調まで存在する…

福島右門著「京都の桜」(光村推古書院)

書籍は紙が良いか、それとも電子書籍が良いかの論争は終わることがないが、その上で私の考えを述べさせていただくと、絵画や写真などの多い書籍は電子書籍のほうが優れている。 しかし、本日紹介するのは紙の書籍である。紙の書籍を紹介する理由は単純明快で…

浅野和生著「ヨーロッパの中世美術:大聖堂から写本まで」(中公新書)

紙の書籍を買うか電子書籍を買うかの論争は答えの出ない論争であるが、本書の場合は明確な回答が出ている。 電子書籍である。 本書に掲載されている美しいカラー写真は電子書籍版であるからこそ詳細に味わうことができる。 中世ヨーロッパは暗黒の時代と評さ…

戸部田誠(てれびのスキマ)著「フェイクドキュメンタリーの時代:テレビの愉快犯たち」(小学館新書)

昨日投開票された兵庫県知事選挙で斎藤元彦氏が再選した。 テレビや新聞といった既存メディアでは斎藤元彦氏に対するマイナスイメージの報道が繰り広げられた一方、ネットでは斎藤元彦氏に対する客観的な報道が広がっていた。その結果が斎藤元彦氏の当選であ…

ターシャ・ユーリック著,中竹竜二監訳,樋口武志訳「insight:いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力」(英治出版)

「本当の自分を理解して欲しい」なんてフレーズはよくあるフレーズであるが、そもそも、本人自身が本当の自分を理解していないというのもまたよくある話だ。 自分がどのような人間であるかを見つめると、多くは現実よりも優れた自分であると自己認識してしま…

西谷正浩著「中世は核家族だったのか:民衆の暮らしと生き方」(吉川弘文館)

日本の非都市部に住む庶民の一般的な家族構成に目を向けると、古代と中世とで大きな違いが出てくる。極論すると、縄文時代から存続していた竪穴式住居での大家族から、現在の我々の家族構成として一般的に思い浮かぶ姿へと変化する。 単純に考えると、結婚し…

ダグラス・マレー著,町田敦夫訳,中野剛志解説「西洋の自死:移民・アイデンティティ・イスラム」(東洋経済新報社)

危険な本である。 本書はヨーロッパの移民問題を問題として明瞭に示した書籍であり、移民が移民先で起こしている社会問題を文字に起こしている。このことを危惧すると差別主義者と糾弾される社会であるにもかかわらず、文字にしている。 誰もが感じているこ…