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細川重男著「鎌倉幕府抗争史」(光文社新書)

鎌倉幕府抗争史~御家人間抗争の二十七年~ (光文社新書)

とあるテレビ番組にて、源頼朝が亡くなってからの鎌倉幕府を「広域暴力団関東源組」と評した人がいた。さすがにこの言葉はどうかと感じたが、本書を読むと、その論評は必ずしも間違ってはいないと感じる。

純粋に捉えると物騒な言葉となるが、冷静に考えると、一人のトップのもとに集まった人達からなる集団があり、そのトップがいなくなったあと組織はどうなるかという視点で鎌倉幕府草創期の混迷を眺めると、新たな権力が構築されていく過程の教科書通りの流れなのだ。反社と合法権力とを同一視するなという叱りを受けそうなのだが、権力の草創という視点だけで捉えると、強烈なカリスマによって維持されていた集団からカリスマが消えたあとで迎える流れの基本をなぞっているのだ。

強烈なカリスマの正統な後継者、鎌倉幕府で言うと、二代将軍源頼家や三代将軍源実朝ですら非業の死を遂げている。特に源頼家に至っては病に倒れたという事情があるにせよ、強引に将軍位から降ろされ、強引に隠遁させられている。

トップである将軍ですらこのようなラストなのだから、幕府の重要人物たる梶原一族や比企一族、さらにはこのあとで幕府の最高権力者の地位を世襲することに成功する北条家の初代とも言える北条時政ですら、権力抗争の中で地位を失っている。そこに情け容赦などない。

情け容赦などない代わりに、混迷に次ぐ混迷の末に権力が構築され、100年を越える安定が確立される。江戸幕府や藤原摂関政治に比べれば短いが、一世紀を数えるというのは十分に安定した権力と言える。

その安定に至るまでの混迷を、本書は余すことなく書き記している。