德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

アダム・グラント著,楠木建監訳「ORIGINALS~誰もが「人と違うこと」ができる時代」(三笠書房)

独創性。それは天賦の才能ではなく、誰もが発揮できる能力である。 それなのに一部の人しか独創性を発揮しないように見えるのは、そもそも発揮していないからである。独創性を発揮するのに必要なことを本書は科学的根拠に基づいて解説する。本書の記述に従え…

ペリー・メーリング著,山形浩生訳「21世紀のロンバード街:最後のディーラーとしての中央銀行」(東洋経済新報社)

本書は金融市場と中央銀行の役割について深く掘り下げた一冊である。 著者は、中央銀行が「最後の貸し手」としての役割を果たすことが常識となっていることを明確に説明していると同時に、近年の金融危機においては、中央銀行がその役割を超えて Dealer of l…

ジェーン・グリーソン・ホワイト著,川添節子訳「バランスシートで読みとく世界経済史:ヴェニスの商人はいかにして資本主義を発明したのか?」(日経BP)

複式簿記。一見すると難しいように感じ、実際に手を付けてみると思っているよりは難しくないと感じ、さらに深くのめり込んでいくとやはり難しいと、しかし、公明正大な結果を示すために便利な代物であると実感する。本書は、富を測定・記録するためのシンプ…

ジェシー・ノーマン著,村井章子訳「アダム・スミス:共感の経済学」(早川書房)

アダム・スミスと言えば「神の見えざる手」のイメージがあまりにも強烈であるが、実際には市場原理主義者でもなければ、利己主義の肯定者でもない。それを示しているのが本書である。 本書は大きく三つのパートからなる。一つ目は人間アダム・スミスの生涯、…

ジョセフ・ヒース&アンドルー・ポター著,栗原百代訳「反逆の神話:「反体制」はカネになる」〔新版〕(早川書房)

2009年8月末、日本は取り返しの付かない失敗をしてしまった。3年8ヶ月の太平洋戦争に匹敵する3年4ヶ月の悪夢、民主党恐慌時代である。 何でこんなものが誕生したのかを突き詰めると、他人のやることなすことに難癖を付けるだけで自分で考えることのできない…

ビジャイ・ゴビンダラジャン&クリス・トリンブル著,酒井泰介訳「ストラテジック・イノベーション:戦略的イノベーターに捧げる10の提言」(翔泳社)

本書は、既存の事業のDNAを活かしながら、新たなビジネスモデルを探し、爆発的な成長へと導く10のルールを提供している一冊である。 以下がその10のルールである。 すべての偉大なイノベーションの物語において、優れたアイデアは序章にすぎない。急成長のた…

ポール・A・オフィット著,関谷冬華訳「禍いの科学 正義が愚行に変わるとき」(日経ナショナル ジオグラフィック)

本書は、新たな科学の発想や発明が致命的な禍いをもたらすことがあるというテーマを探求している一冊である。 十分に検証されることなく、それこそ科学の名に値しないまま世に出てしまったものは無論、科学としては輝かしい着想や発明であったにもかかわらず…

アンドリュー・パーカー著,渡辺政隆&今西康子訳「眼の誕生:カンブリア紀大進化の謎を解く」(草思社)

当たり前すぎて気づかないが、生命の進化を考えたとき、光を感知するという概念はあまりにも画期的だ。触覚、味覚、嗅覚、聴覚、これらの情報はあまりにも遅すぎる。光というこの世で最も早い存在を察知することができれば捕食や逃走で優位に立つ。 本書は、…

町田祐一著「近代日本の就職難物語:「高等遊民」になるけれど」(吉川弘文館)

「選ばなければ働く場所なんていくらでもある」 何とも残酷な言葉である。就職氷河期は理解できるであろう、どれだけ受けても面接で落とされ、履歴書が返送される日々。返送されればまだマシで採用しないことを告げる知らせすら送られてこない日々。どこでも…

小野正敏,五味文彦,萩原三雄編「遺跡に読む中世史(考古学と中世史研究)」(高志書院)

本書は、考古学と中世史研究の交差点に位置する一冊である。遺跡から読み解くことができる中世の歴史についての洞察を提供し、発掘された建物遺構の解釈や出土文字史料の見方、金山遺跡における「場」と「景観」など、多岐にわたるトピックを扱っており、た…

マット・リトル著,鈴木ファストアーベント理恵訳「SLOW LANE:カメの流儀で人生を勝ち取る方法」(東洋館出版社)

そして、本書を読んだ私は一つの現実に直面した。自分はカメになれなかったウサギだったのだ。それも、かつてはウサギであった何かでだったと。 同期の誰よりも成績を残した。同期の誰よりも出世した。同期の誰よりも責任を背負い、そして、倒れた。 復帰し…

ヴェルナー・ゾンバルト著,金森誠也訳「ブルジョワ:近代経済人の精神史」(講談社学術文庫)

ヴェルナー・ゾンバルトはマックス・ヴェーバーが自身の後継者として指名したことでも有名な経済学者であり、「近代資本主義」でゲルマン人企業家の中に「ファウスト」的精神を見出し、「ユダヤ人と経済生活」でユダヤ人をメフィストフェレスに擬えるなど、…

エンリコ・モレッティ著,池村千秋訳「年収は「住むところ」で決まる:雇用とイノベーションの都市経済学」(プレジデント社)

ミもフタもないタイトルの本であるが、その通りである。 給料が高く、周囲から羨望を集め、多くの若者が将来就きたいと考える職業は特定の地域に集中している。その地域に職業が集中することでその地域に人が集まり、その地域に住む人をターゲットとしたビジ…

ウィリアム・B・アーヴァイン著,月沢李歌子訳「ストイック・チャレンジ:逆境を「最高の喜び」に変える心の技法」(NHK出版)

紀元前3世紀、古代ギリシャで一つの哲学派閥が誕生した。ストア派(Στωικισμός)である。自らが被る苦難などの運命をいかに克服するかを説き、道徳的かつ知的に完全な人間は判断の誤りから生まれる破壊的な衝動などに苛まされないとするその哲学思想は、現在の…

マイケル・マローン著,土方奈美訳「インテル:世界で最も重要な会社の産業史」(文藝春秋)

「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」、あるいは「コンピュータの処理能力は指数関数的に向上していく」という、いわゆる「ムーアの法則」を知る人は多いであろうが、いまいちピンと来ない人も多いであろう。だが、かつてインテルのCEOを務めていたク…

ロバート・シラー著,山形浩生訳「ナラティブ経済学:経済予測の全く新しい考え方」(東洋経済新報社)

経済学は社会科学である。何を今更と思うかも知れないが、経済分析の多くは自然科学の手法を用い、人の行動を理論上の行動として計算することで分析する。そのため経済の世界では時折このような声が挙がることがある。「理論上あり得ないことが起こっている…

グレゴリー・クラーク著,久保恵美子訳「格差の世界経済史」(日経BP)

ガチャという言葉はあまり好きではないが、豊かな社会階級に生まれた人間は、そうでない人間よりも豊かになる、すなわち生まれのガチャが本書のテーマである。「機会の平等」を建国の理念にしたアメリカも、アメリカとは対極にあるスウェーデンも、中世イン…

アンソニー・B・アトキンソン著,山形浩生&森本正史訳「21世紀の不平等」(東洋経済新報社)

「21世紀の資本」や「資本とイデオロギー」のトマ・ピケティ氏の師匠にあたる人物が、アンソニー・B・アトキンソン氏である。本書はアトキンソン氏の長年の不平等研究の集大成とも言える一冊であり、不平等に関する研究から現代社会の根本を問い直し、思想の…

セシリア・ワトソン著,萩澤大輝&倉林秀男訳「セミコロン:かくも控えめであまりにもやっかいな句読点」(左右社)

次の文を読んでいただきたい。 We find the defendant, Salvatore Merra, guilty of murder in the first degree, and the defendant, Salvatore Rannelli, guilty of murder in the first degree and recommend life imprisonment at hard labor. 被告人サ…

マイク・サヴィジ著,舩山むつみ訳「7つの階級:英国階級調査報告」(東洋経済新報社)

イギリスが階級社会であるというのは多くの人が見聞きしてきたことであろう。 そして、イギリスの階級社会は 上流階級 中流階級 労働者階級 の3つに分かれており、イギリスの階級社会を分析する人は中流階級と労働者階級の間を明確に線引きすることに着目し…

メアリー・L・グレイ&シッダールタ・スリ著,柴田裕之訳「ゴースト・ワーク」(晶文社)

「ゴーストワーク」。それは、API(Application Programming Interface)とインターネットを利用し、調達からスケジュール管理、出荷、開発まで行う仕事を指。利用者にはAIが対応していると思われる業務について、実際にはAIが対応しきれないタスクを人間が処…

ヴェルナー・ゾンバルト著,金森誠也訳「戦争と資本主義」(講談社学術文庫)

戦争と資本主義という書名であるが、死の商人について扱った書籍ではない。戦争が資本主義の発展にどのように影響を与えたかを詳細に説明している書籍である。 ゾンバルトは本書において、軍需による財政拡大が資本形成を促進し、常備軍の増強が農業、流通、…

ジョン・メイナード・ケインズ著,松川周二訳「デフレ不況をいかに克服するか:ケインズ1930年代評論集」(文藝春秋)

本書は1930年代のケインズが直面した経済的困難に対して、問題の本質を理論的に解明し、具体的で現実的な政策手段を提案した内容がまとめた一冊である、 ケインズは、新聞や雑誌への寄稿、あるいは講演という形で、より広範な市民に向けて、自身の考えを噛み…

秋元英一著「世界大恐慌:1929年に何がおこったか」(講談社学術文庫)

地獄の入り口の出来事の描写である。 1929年の暗黒の木曜日似始まる恐慌は株価を七分の一にまで減らし、アメリカ国内だけでも銀行倒産件数は6000を数え、1000万人以上の失業者を生みだしてしまった。本書はこの地獄の入り口を、難解な専門用語や数式を用いる…

ドン・タプスコット&アレックス・タプスコット著,高橋璃子訳「ブロックチェーン・レボリューション:ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか」(ダイヤモンド社)

本書はビットコインやフィンテックを支える技術として話題になっているブロックチェーンについて解説している本であり、どのような仕組みになっているか、どのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのかを詳しく説明している一冊である。ブロックチェー…

ケネス・S・ロゴフ著,村井章子訳「現金の呪い:紙幣をいつ廃止するか?」(日経BP)

本書は、ハーバード大学のケネス・S・ロゴフ教授が従来から主張している「レスキャッシュ」、すなわち、現金のない取引である「キャッシュレス」ではなく、現金の少ない社会を解説している書籍である。 振り返ると、現在はロゴフ教授の提唱するレスキャッシ…

フリードリヒ・ハイエク著,西山千明訳「隷属への道」

念頭に置いていただきたいのは、イギリスでの本書刊行年が1944年、すなわち、第二次大戦の渦中であるという点である。 第二次大戦の連合国はナチズムやファシズムと戦った。ナチズムの侵略とファシズムの圧政に対する自らは、自由と民主主義のもとにあると信…

ルトガー・ブレグマン著,野中香方子訳「隷属なき道:AIとの競争に勝つ ~ベーシックインカムと一日三時間労働~」(文藝春秋)

多くの人が気づくであろうが、本書のタイトルはハイエクの「隷属への道」の本歌取りである。 ただし、ハイエクが統制経済のもたらす国民生活水準の悪化の警鐘として隷属への道を記したのに対し、本書は人間がAIとロボットとの競争に負けつつある現代社会に対…

一ノ瀬俊也著「戦場に舞ったビラ:伝単で読み直す太平洋戦争」(講談社選書メチエ)

今まさに繰り広げられているロシアのウクライナ侵略。テレビや新聞では連日連夜ウクライナでの戦闘の様子や戦場と化したウクライナの様子、そして、侵略している側の国がどうなっているかの様子を伝えている。それは、そうした様子を伝える媒体の一つとなっ…

ダン・アッカーマン著,小林啓倫訳「テトリス・エフェクト:世界を惑わせたゲーム」(白揚社)

ロシア革命からソビエト崩壊までの過程において何か一つでも生み出したモノがあるだろうか? その答えは、「一つだけならある」。 テトリスだ。 75年間の共産主義の歴史で唯一生み出したテトリス。このテトリスは単純であるがやみつきになるゲームであるため…