いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘンリー・ミンツバーグ著,池村千秋訳「ミンツバーグの組織論:7つの類型と力学、そしてその先へ」(ダイヤモンド社)

私は少し前に、氷河期世代に採用を絞ったために、人口のボリュームゾーンが多いにもかかわらず企業の中では人員が乏しい企業が間もなく迎える、あるいは既に迎えてしまっている企業存続の危機に際し、氷河期世代を雇用することで企業存続が図れることを描い…

新田龍著「ワタミの失敗:「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)

本書の書評を書くにあたって、一つだけ記しておかねばならないことがある。 私は渡邉美樹氏から𝕏(旧Twitter)上でブロックされている。ゆえに、本書の書評が渡邉美樹氏本人に届く可能性は低い。 ブロックされている件で、心当たりはたくさんある。わたしは…

岸田緑渓・早坂信・奥村直史著「英語の謎:歴史でわかるコトバの疑問」(角川ソフィア文庫)

"Do you have a pen?" これを各国語に訳してみるとどうなるか? ドイツ語 Haben Sie einen Stift? フランス語 Avez-vous un stylo ? イタリア語 Avete una penna? スペイン語 ¿Tienes un bolígrafo? ポルトガル語 Tem uma caneta? ほとんどの言語は、動詞→名…

エリック・A・ポズナー&E・グレン・ワイル著,安田洋祐&遠藤真美訳「ラディカル・マーケット:脱・私有財産の世紀」(東洋経済新報社)

何とも衝撃的なタイトルである。私有財産の全否定をサブタイトルに挙げているのだから失敗に終わったマルクスの焼き直しではないかと最初は感じる。 しかし、本書の主題はマルクスの復活ではなく、現在の不公正をいかにして是正するかという話なのだ。民主主…

今尾恵介著「路面電車:未来型都市交通への提言」(ちくま新書)

令和5(2023)年8月26日、宇都宮のLRTが開業した。国内75年ぶりの新規路面電車開業である。 開業までには一部の人達による根深い反対運動があったが、実際に開業してみたらそれらの反対運動が全て間違いであったことが証明された。 反対派は「大通りにLRTを通…

リンダ・グラットン著「私たちの働き方を「再設計」する方法」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文)

2020年、全世界的に働き方が大きく変わった。それまでごく一部でしか実施されていなかったリモートワークが、COVID-19の流行に伴い、広範囲で展開される働き方となって全世界で当たり前に見られる光景となった。 そしてこれは、働き方に対する真逆の評価を生…

青木理&安田浩一著「この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体」(講談社+α新書)

古代ローマ帝国のユリウス・クラウディウス朝、そして、四皇帝の年を終えたあとのフラウィウス朝について、同時代の人が記した歴史書となると、タキトゥスの記した ANNALES(年代記)と HISTORIAE(同時代史)ということとなる。今から2000年近く前の書物で…

斎藤幸平著「人新世の「資本論」」(集英社新書)

井上純一氏は「逆資本論」において、本書を手厳しく批判している。 rtokunagi.hateblo.jp 本書が強く訴えているのは、脱成長、そして資本主義からの脱却である。地球環境の悪化と貧困の進展、そして格差の拡大を食い止めなければならないと訴え、その解とし…

板谷敏彦著「日本人のための第一次世界大戦史」(角川ソフィア文庫)

ナポレオン戦争から第一次世界大戦までのおよそ百年間、ヨーロッパは比較的平和だった。無論、クリミア戦争や普仏戦争などの戦争はあったし、日本国における世界史の教科書では戦争名しか記されていない戦争も見られた。そして忘れてはならないこととして、…

エリック・バーカー著,橘玲監,竹中てる実訳「残酷すぎる人間法則:9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する」(飛鳥新社)

本書の原著名は "Plays Well with Others"、日本語に訳すと「他人とうまくやる」であり、邦題は昨日の記事に記した前作「残酷すぎる成功法則」とのつながりを意識してのタイトルである。 rtokunagi.hateblo.jp 前作は人や組織が成功するための常識や思い込み…

エリック・バーカー著,橘玲監訳,竹中てる実訳「残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する」(飛鳥新社)

理論と現実が食い違っているとき、間違っているのは理論のほうである。 誰もが当たり前と、常識だと思っていることが結果を伴っていない場合、疑うべきは当たり前であるという概念、常識という理論である。 本書は、人が、そして組織が成功するために常識と…

志村史夫著「古代世界の超技術〈改訂新版〉:あっと驚く「巨石文明」の智慧」(講談社ブルーバックス)

昨日紹介したこちらの本の姉妹編である。 t.co 現在に生きる我々は、エジプトのピラミッドを、ギリシャのアクロポリスを、ローマのコロッセオを、イギリスのストーンヘンジを、メキシコのピラミッドを、ペルーのナスカの地上絵を、中国の兵馬俑を、観光する…

志村史夫著「古代日本の超技術〈新装改訂版〉:あっと驚く「古の匠」の智慧」(講談社ブルーバックス)

日本各地に点在する古墳。これらは一体何のために作られたのか? 人口に膾炙されるところでは、皇族をはじめとする有力者の埋葬地である。その目的も当然あったろう。 しかし、本書が着目すべきポイントはそこではない。 古墳があることで周囲に何が起こって…

ティモシー・スナイダー著,池田年穂訳「暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」(慶應義塾大学出版会)

本書は、圧政を繰り広げる支配者に対して諍うことを主眼とする書籍であり、以下が本書の目次である。 忖度による服従はするな 組織や制度を守れ 一党独裁国家に気をつけよ シンボルに責任を持て 職業倫理を忘れるな 準軍事組織には警戒せよ 武器を携行するに…

宮嵜麻子著「ローマ帝国の誕生」(講談社現代新書)

平安時代400年のうち最後の100年間は、帝位を退いて上皇や法皇となった皇族が絶対権力者となり、国家を掌中に収める「院政」であった。 この院政であるが、世界史レベルで考えると実はわかりづらい存在である。帝位を退いた皇帝や、王位を退いた国王が権力を…

野口実著「増補改訂 中世東国武士団の研究」(戎光祥研究叢書19)

現在放送中の大河ドラマ、光る君へ。基本的には朝廷を舞台とする雅やかな世界を描いているドラマであるが、本記事執筆時点で既に、後の時代の萌芽、すなわち、武士の姿が見えてくる。源氏物語の時代としてイメージされる世界に武人の姿を見いだすのは困難で…

川添愛著「言語学バーリ・トゥード Round 2:言語版SASUKEに挑む」(東京大学出版会)

昨日紹介したこちらの書籍の続編である。 rtokunagi.hateblo.jp 20世紀中盤まで、言語学とは人間の話す言語について研究する学問であった。 現在、言語学にはコンピュータもその対象領域に含まれている。 どういうことか? 人間の言語をコンピュータに取り込…

川添愛著「言語学バーリ・トゥード Round 1:AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか」(東京大学出版会)

本書は間違いなく東京大学出版会の刊行する言語学に対する書籍である。もともとが東京大学で配布されている雑誌『UP』に掲載されているエッセイをまとめた書籍である。著者が言語学者であり、タイトルからして言語学に関する本なのだから、普通に考えれば書…

ポール・ミルグロム&ジョン・ロバーツ著,奥野正寛&伊藤秀史&今井晴雄&西村理&八木甫訳「組織の経済学」(NTT出版)

チームスポーツには一つの宿命がある。レギュラー争いという宿命である。どんなに実績を残した選手であろうと、どんなに実力を期待されている選手であろうと、試合出場を確約できるわけではない。 そのため、一度レギュラーの座を掴んだ選手は、レギュラーの…

倉田保雄著「エッフェル塔ものがたり」(岩波新書 黄版228)

本書は、万博の目玉として建設されたエッフェル塔がどのようにしてパリの、フランスの社会に溶け込み、歴史に於いてどのような役割を果たしてきたかをまとめた一冊である。 ただ、その程度のありきたりな文章では本書の魅力を伝えきれない。 本書の魅力は本…

加藤尚武著「ジョークの哲学」(講談社現代新書)

9月6日、小泉進次郎元環境相が自民党総裁選への出馬を正式表明した際の記者会見で、一つの話題が湧き上がった。フリージャーナリストの田中龍作氏から「小泉さんがこの先、首相になってG7に出席されたら、知的レベルの低さで恥をかくのではないかと、皆さん…

三沢典丈著,中川右介監修「アニメ大国の神様たち:時代を築いたアニメ人インタビューズ」(イースト・プレス)

本書は中日新聞で連載していた「アニメ大国の肖像」をまとめた書籍である。「アニメ大国の肖像」は日本国におけるアニメーション製作に携わってきた方々へのインタビューであり、そこにはアニメーション作品作成時のリアルが語られている。 以下が本書の目次…

ポール・クルーグマン著,山形浩生訳「ゾンビとの論争:経済学、政治、よりよい未来のための戦い」(早川書房)

本書は、2008年にノーベル経済学賞を受賞した経歴もある著者が、ニューヨーク・タイムズに連載していたコラムをまとめたものであり、その筆致は主にアメリカの保守派、当時の共和党政権に向けられている。政府も、連邦議会も、司法ですらも徹底的にこき下ろ…

浅羽通明著「「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか」(ちくま新書)

本書刊行は2016年である。その頃は安全保障関連の諸々の法律が成立するか否か、また、原発を再稼働させるか否かが重要な政治問題・社会問題とされていた。そして、それらの動きに対して反対の意見を見せていたのが「リベラル」と自称する人達であった。彼ら…

キム・スコット著,関美和訳「GREAT BOSS:シリコンバレー式ずけずけ言う力」(東洋経済新報社)

SDGs(持続可能な成長目標)が数年前より世情を賑わせており、ビジネスの世界ではPDCAサイクルやOODAがビズワードとして賑わせているが、本書の主軸を担っているのは、GSDサイクル、すなわち、Get Stuff Done(仕事を片付ける)である。 本書は "Radical Can…

網野善彦著「海と列島の中世」(講談社学術文庫)

日本は海に囲まれた島国である。何を今更と思うかも知れないが、高校までの歴史の教科書で習う日本の歴史において海を扱うページというのは、そこまで多くはない。中国大陸からのコメや金属の伝来、遣唐使の航海の困難さ、日宋貿易や勘合貿易、江戸時代の廻…

ITと新社会デザインフォーラム著「ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ」(日経BP)

本書について書き記す前に、二点、前提事項として記しておくべきことがある。 一点は、本書刊行が2013年、すなわち10年以上前であるということ。 もう一点は、ITと新社会デザインフォーラムがNTTデータと野村総合研究所という、日本のIT業界に身を置く人間で…

米倉誠一郎著「イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応」(東洋経済新報社)

江戸時代の日本人の識字率は高いものがあった。 江戸時代の日本では和算がさかんであった。 この二点は事実である。しかし、それと近代社会が求める数学的素養を誰もが身につけていたこととはつながらない。そのことは罰待つから維新期にかけての岩崎弥太郎…

伊藤正敏著「アジールと国家:中世日本の政治と宗教」(筑摩選書)

アジール。それは神聖にして統治権力が及ばない聖域。また、統治権力から一定の距離を置いた自治権を獲得している地域。 中世ヨーロッパでは教会が世俗権力から独立した聖域を形成し、都市が王侯の権力の及ばない自治権を獲得した自由を謳歌していた。 では…

本間正人著「経理から見た日本陸軍」(文春新書)

2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵略を始め、3月にはもう世界の多くの国でロシアに対して経済制裁をスタートさせた。 さて、この経済制裁であるが、ロシアのように資源もあり工業力もある国に対して実施する意味はあるのだろうか? 経済制裁を喰らっ…