いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

山之内克子著「ハプスブルクの文化革命」(講談社選書メチエ)

「なんでも、生演奏を聴けるレストランだそうで」「ええ」「うちもやっているんですが、あなたのお店みたいに上手くいかなくて……」「うちは作曲者の方が直接演奏してくれますから、その違いでしょうか?」「そうですか」「モーツアルトさんってかたなんです…

井上幸治著「平安貴族の仕事と昇進:どこまで出世できるのか」(吉川弘文館)

「今日までのあらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史である」とはマルクスとエンゲルスが共産党宣言に記した言葉であるが、それを平安時代に置き換えるとどうなるか? 逆転する。 階級闘争の歴史という視点で捉えると、平安時代より奈良時代のほうが上だ。生ま…

鶴間和幸著「始皇帝の愛読書:帝王を支えた書物の変遷」(山川出版社)

始皇帝の悪事の一つ、焚書坑儒。本書にも始皇帝の焚書の様子は秦始皇帝本紀や李斯列伝からの転記として載っている。それらの様子は本書を読んでいただきたいが、その前に大前提がある。 本を焼くということは、始皇帝の時代に焼けるだけの本が既に存在し、書…

井上純一著「逆資本論」(星海社コミックス)

現代の日本国の置かれている状況をどうにかしなければならない、日本国の財政問題をどうにかしなければならない、地球規模の環境問題をどうにかしなければならないと考えない人はいない。本書もその視点から現在の問題を分析し、また、数多の書籍からの引用…

重見泰著「大極殿の誕生:古代天皇の象徴に迫る」(吉川弘文館)

大極殿とはそもそも何か? 辞書っぽい説明をすると「古代の日本における朝廷の正殿で、天皇の即位や外国使節との謁見など国家の重要な儀式が行われた場所」となる。 資料を遡ると、乙巳の変、いわゆる大化の改新の場面で大極殿の語が登場するが、それは日本…

フィリップ・コトラー著「『公共の利益』のための思想と実践」(ミネルヴァ書房)

企業というものは金儲けのための組織である、というわけではない。金儲けをしなければ、金儲けという言い方に棘があるとしたら、ビジネスとして成立させなければ、企業はその存在意義を失う。しかし、自分達のビジネスが成立するならば他社にどれだけ損害を…

筒井清忠著「戦前日本のポピュリズム」(中公新書)

戦前戦中の男子小学生に「将来何になりたいか」と質問したら「軍人」と答えていたという話があるけど、それはそう言わなければならない雰囲気になってからの話で、それ以前はどうだったかというと、親が子を叱るときに「今に軍人にしてやるぞ」という脅し文…

安田次郎著「尋尊」(吉川弘文館)

尋尊という僧侶のことを知っている人は少ないかも知れないが、応仁の乱をライルタイムで記録してくれていた僧侶の記録とあれば興味持つ人は多いのではないだろうか。 応仁の乱に苦しんでいる渦中の描写はこの一文を転記するだけでも充分であろう。 久我通嗣…

ベンジャミン・カーター・ヘット著/寺西のぶ子訳「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか:民主主義が死ぬ日」(亜紀書房)

1920年代時点では、ワイマール憲法もワイマール共和国の国制も、至上の存在であった。それらは他国が規範とすべき存在である、はずだった。それがナチスを生みだした。憲法に瑕疵があったのか、国制に欠陥があったのか、現代に生きる我々だからこそ、その双…

アダム・グラント著、楠木建監訳「THINK AGAIN:発想を変える、思い込みを手放す」(三笠書房)

今日のJリーグの試合を観たあと、この本のことを思い浮かべた。より正確に言えば、元浦和レッズ選手の槙野智章氏のTweetを見て、アダム・グラント氏の THINK AGAIN を思い出した。 自分達のホームの電光掲示板に粋なメッセージを!川崎フロンターレありがと…

チャールズ・ベルリッツ著「ベルリッツの世界言葉百科」(新潮社)

本書は言語を軸にまとめたトリビア集の本である。たとえばこんなエピソード。 第二次大戦中、ナチスドイツの手に落ちたヨーロッパを解放するために、アメリカ軍は秘密訓練を開始した。訓練参加者は、秘密訓練の内容は無論、訓練に参加していることも秘密であ…

ショシャナ・ズボフ著「監視資本主義:人類の未来を賭けた闘い」(東洋経済新報社)

ズボフ氏はこれから人類が迎えてしまうかも知れない監視資本主義に対する警鐘を著している。しかし、私は異を唱えたい。既に迎えている。 ズボフ氏は人類がこれから迎えることになる監視資本主義に対する警鐘を著しているが、私はその意見に異を唱えたい。監…

リンダ・グラットン著「リデザイン・ワーク:新しい働き方」(東洋経済新報社)

COVID-19を期に働き方は大きく変わったが、それより前から燻っていた問題が露顕化していたともいえる。出勤し、職場に勤務開始時刻から勤務終了時刻まで滞在し、上司や部下や同僚と常に顔を合わせる。それが当たり前であった。 勤務中は集中できるとは言い切…

吉田徹著「感情の政治学」(講談社選書メチエ)

リチャード・セイラー氏の行動経済学は多くの人の知るところであろう。その上でこう考えていただきたい。セイラー氏の著書で言うところのエコンをこれまでの政治学はあまりにも巨大に考えていたのではないか、と。 もっとも、これは新しい考えでは無いのかも…

速水融著「歴史人口学で見た日本 増補版」 (文春新書)

平安時代を歴史小説で全て書くという野望をはじめてから15年目になる。その間、何度となく直面してきたのが、今から1000年前は現在の人口構成ではないという、当たり前であるが、同時に見落としがちになってしまう事実である。 たとえば、なぜ行政区分として…

竹下隆一郎著「SDGsがひらくビジネス新時代」(ちくま新書)

本書を読んだのは一年半前。当時の書評を当時のTwitterより転記する。 この一冊を読み終えた現在、真っ先に思い浮かんだのが森鴎外の山椒大夫。説話の山椒大夫と違って山椒大夫が処刑されることなく、適切な賃金を払うことを命じられたことでそれまでより富…

ピーター・バーク著「知識の社会史」(新曜社)

知識をいかにして身につけるかに苦慮する人は多いであろうが、知識を身につけることが許される社会を創り上げて維持することはさらなる苦慮である。知識が一部の人の独占物であり、知識の伝達が許容されない社会は過去の話ではない。現在も善意の名の下で、…

ジョナサン・ハイト著「社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学」(紀伊國屋書店)

自分のことを保守だと考えている人、中道だと考えている人、リベラルだと考えている人が、保守、中道、リベラルをどう考えているかの分析結果がある。自分をリベラルと自負する心理学者のジョナサン・ハイト氏の著作からの引用である。 戦争と平和とどちらが…

マイケル・リンド著「新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る」 (東洋経済新報社)

現在社会の問題の根源を本書は、左右での争いではなく、社会的な上下が生み出す対立であると説いている。そう言えばマルクスは人間の社会の歴史を階級闘争の歴史であると説いたが、同時に段階発展論を展開することで最終的な帰結を示すともした。楽観的な考…

ヘザー・ブーシェイ,J・ブラッドフォード・デロング,マーシャル・スタインバウム共編「ピケティ以後:経済学と不平等のためのアジェンダ」

そしてこの本である。 ピケティブームから5年後、この本が出た。アンサーソングならぬ、アンサー論文というところか。この本を読んではじめて、ピケティの21世紀の資本に対する考えがまとまると言えよう。 その本を読んだときの思いを当時のTwitterから ヘザ…

トマ・ピケティ著「格差と再分配~20世紀フランスの資本~」

21世紀の資本刊行の2年後、この本が翻訳された。 原著は2001年であるから厳密にはこちらの本が先なのだが、日本語で読むとなるとこちらが後になる。 このときの感想を当時のTwitterから。 トマ・ピケティ著「格差と再分配~20世紀フランスの資本~」(早川書…

トマ・ピケティ「21世紀の資本」

今更ピケティについてであるが、これは当時の雰囲気を体験してもらうためにも、当時のTwitterの書き込みを転載する。 トマ・ピケティ「21世紀の資本」読了。感想としては、・重商主義政策以後の先進国の富の寡占についての考察は素晴らしい。・寡占からの脱…

有本真紀「卒業式の歴史学」(講談社選書メチエ)

有本真紀「卒業式の歴史学」(講談社選書メチエ,2013) 明治時代前半の小学校の卒業式は残酷である。 明治時代前半、小学校の卒業式は学年の終わりにあり、卒業式は進級試験とセットになっていた。進級試験を終えるとそのまま卒業式に突入するのである。今で…

マルク・レヴィンソン「例外時代~高度成長はいかに特殊であったのか~」(みすず書房)

スウェーデンの映画監督であるイングマール・ベルイマンは脱税容疑を掛けられたことがある。ベルイマン監督は脱税などしていないと主張したが、税務当局は税金未納の証拠を公表した。その結果、ベルイマン監督はたしかに所得税を払っていないことが明らかに…

中野剛志著「どうする財源:貨幣論で読み解く税と財政の仕組み(祥伝社新書)」

貨幣の誕生についての伝説がある。曰く、人類は当初、物々交換でやりとりをしていた。それが時代とともに、金などの信用おける財貨や穀物を仲介する交換をするようになり、多くの人が価値を見いだす物体、すなわち貨幣を生み出したという伝説である。 人口に…

エドワード・ブルック=ヒッチング著「世界をまどわせた地図:伝説と誤解が生んだ冒険の物語」

男「キミのために特別なプレゼントを用意したよ」女「嬉しい。なんだろう」男「ほら、キミの島だ。マゼラン海峡にあるんだよ」女「まあ、素敵♡」 という経緯で、地図作りをしている画家が実在しない島を地図に描き、実在しない島を探す探検家が数多く現れた…

橘木俊詔著「日本の構造:50の統計データで読む国のかたち(講談社現代新書)」

不安定な職に就くしか無い。職に就けたとしても給与が低く勤務条件が厳しい。そもそも職に就けるかどうかが怪しい。これらのどこにも自己責任という言葉の入る余地がない。 どのような理由が就業を左右するのか。この国の就業を左右するのは、学力でも、学歴…

リチャード・セイラー著「セイラー教授の行動経済学入門」 

直感に反することを書く。 箱の中に100個のボールが入っています。そのうちの1つは赤、残る99個は白です。目隠しをして箱の中からボールを1つだけ取り出して、また箱の中にしまいます。 多くの人はこう思うであろう。 100回やれば1回はうまくいく。 結論から…

田島奈都子著「戦前期日本のポスター:広告宣伝と美術の間で揺れた50年」

モチベーションアップ株式会社という会社がある。 こういったポスターを作って売っている会社である。 モチベーションアップ株式会社のポスター例 このポスターは、目にしただけでやる気を無くし、モチベーションアップどころかモチベーションダウンに誘うだ…

石原孝哉&市川仁&宇野毅著・編集「食文化からイギリスを知るための55章」

イギリスの料理は不味いという評価がある。あるいは悪評がある。実際にはそうとは言い切れないのだが、そのような扱いを受けるようになった経緯というものは存在する。 イギリスはナポレオン戦争でも勝利を収め、産業革命で先陣を走り、二度の大戦でも戦勝国…