いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-12-01から1ヶ月間の記事一覧

P.F.ドラッカー著「マネジメント:課題、責任、実践(上・中・下巻)」(ダイヤモンド社)

本年最後の読書記録の投稿は、ここであえてこの作品を挙げることとする。 ドラッカーで経営学を学ぶならば避けて通ることのできぬ作品であり、日本では上中下の三巻に分かれて刊行されているダイヤモンド社の翻訳版が最も手に入り安いであろう。 ドラッカー…

エドワード・ルトワック著,奥山真司訳「ルトワックの“クーデター入門”」(芙蓉書房出版)

2024年12月3日深夜、韓国に激震が走った。尹錫悦大統領による非常戒厳令である。結果がどうなったかは皆さん御存知の通りであるが、非常戒厳令の知らせを受けたとき、多くの人がルトワックの名著を思い浮かべ、かつて読んだ本を改めて読もうとし、この名著を…

河合雅司著「世界100年カレンダー:少子高齢化する地球でこれから起きること」(朝日新書)

少子化問題や高齢化社会を重要な社会問題であると考えない人はいない。しかし、それが全地球的な社会問題であると認識している人は少ない。日本人は日本の社会問題と考え、韓国人は韓国の社会問題と、中国人は中国の社会問題と考える。さらにはアジアだけ問…

関幸彦著「百人一首の歴史学」(吉川弘文館)

鎌倉幕府成立の頃の京都の情勢を知りたければ、藤原定家の日記に頼ることが多くなる。パワハラ気質なところと言葉使いが御世辞にも上品と言えないところを諦めれば、藤原定家の日記は後鳥羽上皇の時代の京都の情勢を知る最上級の歴史資料である。 しかし、そ…

桃崎有一郎著「平安王朝と源平武士:力と血統でつかみ取る適者生存」(ちくま新書)

今年の大河ドラマ、光る君へ。その最終回は紫式部ことまひろが武者となった双寿丸が東国で起こった戦乱に向かうのを見届けつつ、「道長様、嵐が来るわ……」とつぶやいて終わった。 ドラマで直接描かれてはいないが、藤原道長の時代はたしかに戦乱がなかったも…

竹下隆一郎著「SDGsがひらくビジネス新時代」(ちくま新書)

この一冊を読み終えたとき、真っ先に思い浮かんだのが森鴎外の山椒大夫。説話の山椒大夫と違って山椒大夫が処刑されることなく、適切な賃金を払うことを命じられたことでそれまでより富み栄えるようになったというストーリーのほうである。 京都という都市は…

横山和輝著「日本金融百年史」(ちくま新書)

金融のあり方自体は奈良時代も平安時代も現在も変わらないというのが私の従来からの考えだが、本書に記された日本国のこの100年間の金融のあり方を振り返ると、その思いはより強くなる。 無論、関東大震災という予期せぬ大災害があったし、現在と違って基軸…

伊藤俊一著「荘園:墾田永年私財法から応仁の乱まで」(中公新書)

2008年に平安時代叢書をスタートさせてからもう16年になる。荘園の誕生も、発展も、荘園に生きる人々も書いてきた自負もある。それなのに、本書を読むと荘園について良くわかってなかった自分がいるのを痛感している。 本書を読む前の荘園に対する私の理解は…

芝健介「ヒトラー:虚像の独裁者」(岩波新書)

人類史上最低の人間を挙げよと問われたなら、私はおそらく、アドルフ・ヒトラーを人類史上最低の人間として挙げるだろう。スターリンじゃないのかと思う人もいるだろうが、あれはそもそも人間としてカウントする価値もないので、最低の人間とするならばヒト…

湯川秀樹著「旅人: ある物理学者の回想 湯川秀樹自伝」(角川文庫)

足し算や掛け算の順番問題はSNSをいつも賑わせる。 「3人に5こずつリンゴをくばるとき、リンゴは何こひつようでしょうか」で、 5×3=15 → 正解 3×5=15 → 間違い とやる教師についての是非だ。 多くの人は教師の判断を間違いとするが、中には教師を擁…

今井むつみ著「英語独習法」(岩波新書)

タイトルからすると英語教育の専門家が記した独学で英語を学ぶための書籍に感じるが、本書の著者である今井むつみ氏は心理学者であり英語教育の専門家ではない。 ただし、今井むつみ氏は心理言語学の専門家である。つまり、人が言語を身につけるのにいかなる…

小風尚樹・小川潤・纓田宗紀・長野壮一・山中美潮・宮川創・大向一輝・永崎研宣編「欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識」(文学通信)

日本の古文書には「乎古止点(をことてん)」というのがある。 一見すると漢文で記された文書にしか見えない。 もう少し見ると漢字の周囲に黒や朱色の汚れが付いていることはわかるが、それでも汚れにしか見えない。 しかし、それは日本の古文書に於いて極め…

宮島未奈著「成瀬シリーズ」(新潮社)

成瀬は天下を取りにいく 成瀬は信じた道をいく 成瀬は天下を取りにいくコミカライズ版 小説を読むのが苦手な人に小説を読むのを促すとすれば、私は宮島未奈氏の作品を選ぶ。一冊しか選べないというのなら、成瀬シリーズの第1巻という位置づけになる「成瀬は…

赤坂アカ×横槍メンゴ著「【推しの子】」最終巻(集英社ヤングジャンプコミックス)

本日、2024年12月18日水曜日、大ヒット作品【推しの子】の最終巻である第16巻が発売され、さっそく電子書籍で購入し、読み終えた。 一つの作品の終わりに対し、数多くの人が肯定的な、あるいは否定的な意見を投稿している。それは雑誌連載時に既に賛否両論巻…

高坂正堯著「文明が衰亡するとき」(新潮選書)

2021年8月、一つの記事が話題になった。『新聞記者』や『i-新聞記者ドキュメント-』といった作品でお馴染みの河村光庸氏が、自身がプロデューサーとしてかかわった映画『パンケーキを毒見する』についてインタビューに応えた記事である。 www.banger.jp …

ニコラス・シュラディ著,山田和子訳「リスボン大地震:世界を変えた巨大災害」(白水社)

関東地方に住んでいる人は、大正12(1923)年9月1日という日付だけで何の日かわかる。 近畿地方に住んでいる人は、平成7(1995)年1月17日という日付だけで何の日かわかる。 そして、この国に住んでいる人は、平成23(2011)年3月11日という日付だけで何の日かわか…

倉本一宏著「平安貴族の心得:「御遺誡」でみる権力者たちの実像」(朝日新書)

通常、こうした新書は歴史資料を引用する場合、引用するならば現代語訳、しかもその一部であり、原文を引用することは少ない。ところが本書は原文をそのまま掲載し、現代語訳を知るし、その上で解説を書き記している。 さて、本書のメインテーマである御遺誡…

マイケル・ルイス著,中山宥訳「最悪の予感:パンデミックとの戦い」(ハヤカワ文庫)

2019年、アメリカは世界健康安全保障指数で1位となった。 2020年、COVID-19が全世界で猛威を振るいはじめた。 2021年、マイケル・ルイスによる本書刊行。著者は本書においてアメリカをCOVID-19対策における最大の敗戦国と書き記した。 いったい何があったの…

奥窪優木著「転売ヤー:闇の経済学」(新潮新書)

転売を問題と思っている人はたくさんいる。しかし、転売をしようとする人、いわゆる転売ヤーが減ることはあっても消えることはない。どんな時代であろうと、どんな環境とであろうと、転売は必ず存在する。なにしろナチの強制収容所の中ですら転売が存在して…

橘木俊詔著「フランス経済学史教養講義:資本主義と社会主義の葛藤」(明石書店)

ピケティの21世紀の資本が一大ブームとなってからもう10年以上が経過している。ピケティの投じた一石は世界中で懸念となっていた格差問題に対する明瞭な解を与える一石になり、一時はウォール街を占拠する運動まで巻き起こしたほどだ。また、資本とイデオロ…

藤井忠俊著「国防婦人会:日の丸とカッポウ着」(岩波新書 黄版 298)

「××に騙されて」 戦争を知らない世代の上に、生まれたときにはもう戦争をしていたという世代がいて、さらにその上に戦争へと賛成してきた世代が存在する。令和の現在からすると100歳を超えているであろう世代であり、その世代の多くの人はもう鬼籍に入って…

倉山満著「嘘だらけの日本古代史」(扶桑社)

本書の著者である倉山満氏の著作は以前にも紹介した。 rtokunagi.hateblo.jp 刊行の時系列でいうと、本書が先であり、日本中世史のほうが後である。実際、上記の日本中世史の著作を読むにあたっては本書を先に読むべきかもしれない。 さて、本書は平安時代の…

栗本賀世子著「源氏物語の舞台装置:平安朝文学と後宮」(吉川弘文館)

紫式部は源氏物語を記すとき、読者は内裏の構造を知っていることを前提として記したはずである。源氏物語のスタートは桐壺であるが、当時の人は桐壺と聞いただけで桐壺が内裏にどこにあるのか、そこに住まう女性がどのような人であるか容易に想像できたし、…

市大樹著「すべての道は平城京(みやこ)へ:古代国家の〈支配の道〉」(吉川弘文館 歴史文化ライブラリー 321)

現在の新幹線をはじめとする鉄道網、あるいは高速道路網を思い浮かべていただきたい。だいたいどこにどのように走っているか想像していただけるはずである。 このルート、実は今から1300年前にはもう大部分が存在していた。無論、例外はある。群馬県から新潟…

マウンティングポリス著「人生が整うマウンティング大全」(技術評論社)

「マウントをとる」とはあまり上品な言動ではないが、人間の本質として、自らを賛美する言葉を口にして他者より優越に立とうとするものがある。 本書に挙げられている例だと 「申し訳ありません。その日はあいにくのニューヨーク出張でして、同窓会に参加す…

ニコラス・ヤンニ著,楠木建監訳,道本美穂訳「LEADER AS HEALER:最強のリーダーは人を癒すヒーラーである」(かんき出版)

本書は新しい時代のリーダーシップとはどうあるべきかという姿を具体的に叙述し、これからの時代にリーダーとなる人に向けての行動指針をまとめた書籍である。 ただ、本書のトーンとしては、これまでにない新しい形のリーダー像の投影となっているが、歴史を…

関幸彦著「刀伊の入寇:平安時代、最大の対外危機」(中公新書)

令和6(2024)年12月1日放送の大河ドラマ「光る君へ」第46話はちょっとしたセンセーショナルな内容だった。第1話の物騒なシーンはあったものの、これまでの多くの場面では存在しなかった戦闘シーンが存在していたからである。大河ドラマに戦闘シーンが存在しな…

山本孝文著「文房具の考古学:東アジアの文字文化史」(吉川弘文館)

文房具店は多くの街に見られる店舗である。文房具専門店でなくともスーパーマーケットやコンビニエンスストアで文房具を買うことはできる。 では、歴史を遡るとどうなるか? 古今東西、文字が誕生したときというのは、周囲に手に入る素材を用いて文字を書き…

仁藤敦史著「加耶/任那:古代朝鮮に倭の拠点はあったか」(中公新書)

加耶、あるいは任那、日本の歴史を学ぶと必ず出てくる地名であるが、いまいちピンと来ない人も多いであろう。実際、新羅や百済、高句麗といった朝鮮半島の国々と違い、そもそも国家としての歴史を有していない。 余程詳しい教科書でない限り、加耶や任那のこ…

倉田喜弘著「明治大正の民衆娯楽」(岩波新書 黄版 114)

最近はテレビを観る人が少ないという言葉が広まっているが、そもそも、テレビもラジオも無い時代は100年前まで当たり前だった。関東大震災の後にラジオが登場したが、ラジオ番組の質も量も現在と比べかなり少なかった。そもそも戦後になるまでNHKだけがラジ…