いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2025-01-01から1年間の記事一覧

楠桂著「寿戦記【改訂版】」(大洋図書)

以前、楠桂氏が体験し続けた死産と流産の苦しみ――そう、単数形ではなく複数形で記さざるをえないほどの苦しみ――を描いた作品である「不育症戦記~生きた赤ちゃん抱けるまで~」(大洋図書)を紹介した。 rtokunagi.hateblo.jp 本書はもともと2001年に刊行さ…

鈴木透著「食の実験場アメリカ:ファーストフード帝国のゆくえ」(中公新書)

戦中戦後の日本人にとって最も深刻な問題は食糧の確保であった。満員の列車に身動きできずに乗り、農村から物々交換で食料を分けてもらい、一杯の雑炊を求めて10km以上歩き、いつ来るか分からない配給を待ち望み、闇市で正体の分からないものを探していた。…

倉山満著「ウルトラマンの伝言:日本人の守るべき神話」(PHP新書)

ウルトラマンの放送開始が昭和41(1966)年であるから、ウルトラマンは来年で還暦を迎える。それだけの長期間に亘って世代を超えて愛され続け、最新作が次々と登場し、世代を超えた共通言語としても通用するまでになったウルトラマン。 倉山満氏は本書において…

ジェフリー・フェファー著,村井章子訳「「権力」を握る人の法則」(日本経済新聞出版)

Jリーグクラブの伝統行事というか、そのシーズンのホーム最終戦を終えたあとでGMや社長といったクラブのフロントのトップが出てきてサポーターに一言述べる、そして、納得いく成績を残さなかったならばサポーターからブーイングを浴びるという光景がある。 …

澄川龍一著「アニソン大全:「鉄腕アトム」から「鬼滅の刃」まで」(祥伝社)

今から30年前、日本の産業は様々な分野で世界を席巻していた。家電も、自動車も、そして金融も、日本が世界のトップリーダーであった。 現在、その光景はない。ゼロではないが、乏しい。 しかし、この30年の間にさらなる発展を見せ、世界のトップランナーを…

黒沢哲哉編著(第1巻),有田シュン編著(第2巻)「よみがえるケイブンシャの大百科」(いそっぷ社)

昭和40年代から今世紀初頭にかけて、書店の子供向けのエリアには独自の雰囲気を生み出す書籍群があった。一冊一冊が特撮やアニメ、怪獣、プロ野球、アイドル、ラジコン、恐竜といったテーマごとにそのテーマの内容を網羅した書籍であり、プロ野球やアイドル…

橘木俊詔著「中年格差」(青土社)

団塊ジュニア世代にとっての平等とは、理念であって現実ではない。 家族を持ち、自分が建てた戸建てやマンションに住み、資産を形成して将来の年金の心配も無い。 家族もなく、狭い賃貸や親の残した住まいに住み、資産など夢物語で将来の年金など期待もでき…

玉木俊明著「世界史を「移民」で読み解く」(NHK出版新書)

極論すれば、全てのホモサピエンスはアフリカ大陸で誕生したイヴの子孫であり、イヴの誕生した地を除き、全ての人類は移民とその子孫である。 もっとも、それは極論であって現実的な話ではない。あなたも私も誰もが移民ではないかと言われて納得する人などそ…

ダン・アリエリー&ジェフ・クライスラー著,櫻井祐子訳「無料より安いものもある:お金の行動経済学」(ハヤカワ文庫NF)

最近、アッパーマス層を目指すためのノウハウをあれこれ訴えるコンテンツが増えてきている。 アッパーマス層とは野村総研が発表した純個人金融資産についての概念の一つであり、金融資産から住宅ローン残高などの負債を聞いた金額が3000万円以上5000万円未満…

アミール・D. アクゼル著,吉永良正訳「天才数学者たちが挑んだ最大の難問:フェルマーの最終定理が解けるまで」(ハヤカワ文庫)

知らず知らずのうちに私はThreadsでは算数の問題を出すオッサンという扱いになってしまってるが、自分で言うのも何だが、私は数学に詳しいわけではない。何しろ三流私大の文系出身だ。それでも算数の問題を投稿しているのは、それがパズルを解く感覚になって…

黒木登志夫著「知的文章術入門」(岩波新書)

私事であるが、私は某金融機関でITエンジニアとして働いている。要はシステムエンジニアだ。システムエンジニアというとコンピュータの画面に向かいコンピュータプログラムを作る仕事と思う人もいるだろうし、たしかにそれも仕事としているのであるが、実際…

ロリ・ゴーラー&ジャネル・ゲイル&アダム・グラント著「年度末の人事査定はいまだ有効だ DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文」

今日から12月である。 ブラックフライデーを迎え、さらには12月を迎えると、世間一般ではクリスマスモードに突入するが、サラリーマンはプラスアルファの時期を迎える。 自分への評価、評価に伴うボーナス、そして、12月の給料日に受け取ることになる源泉徴…

加谷珪一著「ポスト新産業革命:「人口減少」×「AI」が変える経済と仕事の教科書」(CEメディアハウス)

今日はもう11月の最終日、明日からはもう12月、もう2025年も終わりである。 本書が上梓された2018年にとっての2025年とはもう少し先の未来というイメージであり、二つのことを除いては既に本書において2025年の経済が予期されていたのである。 その二つとは…

松原隆一郎&荒山正彦&佐藤健二&若林幹夫&安彦一恵著「〈景観〉を再考する」(青弓社)

昨日、𝕏(旧Twitter)で東京の日暮里で建設中のマンションの写真についての投稿がタイムラインを賑わせていた。 建設中のマンションがこんなに大きいとは思わなかった。夕やけはもう見えない。 pic.twitter.com/aBEgqW4NO4 — Ian McEntire (@ikurobiscuits) …

長谷山彰著「罪と罰の古代史:神の裁きと法の支配」(吉川弘文館)

日本国憲法には以下の条文がある。 第三十一條何人も、法律の定める手續によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。 大日本帝国憲法には以下の条文がある。 第二十三條日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮󠄁捕監禁審問處…

小山慶太著「〈どんでん返し〉の科学史:蘇る錬金術、天動説、自然発生説」(中公新書)

科学の歴史を語る書物は数多いが、その多くは一直線の「進歩の物語」として描かれる。すなわち、誤った古くさい旧説が、真新しい新説に取って代わられ続けてきたというのが科学の歴史の描写だ。 しかし、科学とはそんなに単純なものだろうか? 本書はそのよ…

亜月ねね著「みいちゃんと山田さん」(講談社)

「ねえ、みいちゃん。こうして私達は出会って、いろんな事があったよね。私達の日々は確かにあったよね。これは、みいちゃんが殺されるまでの12か月のお話」 山田マミという名でキャバクラで働いていた女性が、10年前に殺害されたキャバクラの元同僚であるみ…

原田勝正著「鉄道の語る日本の近代 読みなおす日本史」(吉川弘文館)

先に記しておくと、吉川弘文館から刊行された本書はたしかに令和7(2025)年の奥付であるが、本書の原本は昭和52(1977)年の刊行であり、平成2(1990)年の改訂版を底本として再刊されたのが本書である。これはどういう時代かというと、JRでなく国鉄であり、新幹…

德薙零己著「ゆるしてと言えない」

舞台は曇天の墓場から始まる。一人の少女が墓参りをしているところを一人の少年が眺め、少年の存在に気づいた少女はその場を少年に譲る。 墓から離れていく少女。 だんだんと降り出す雨。 少女は傘をささずに濡れながら歩き、少年の差し出した傘の中にも入ろ…

武光誠著「世界地図から歴史を読む方法:ナショナリズムと移民編」(河出書房新社)

本書の「はじめに」でいきなり核心が書いてある。 「民族と民族とは、本来は対立し合うものだ」 人間の心の中には、「自分と異なる習慣や文化を持つ者」を拒否しようとする自然な感情がある その上で、こう書いてある。 異なる民族が出会わなければ紛争は起…

アダム・グラント著,楠木建監訳「HIDDEN POTENTIAL 可能性の科学:あなたの限界は、まだ先にある」(三笠書房)

アダム・グラント氏の著作は楠木建氏が翻訳するものであるという図式が成立している。ドラッカーの著作とは上田惇生氏が翻訳するものであり、トマ・ピケティの著作とは山形浩生氏が翻訳するものであるという図式が成立しているように、同じ方の著作を同じ方…

畑中三応子著「体にいい食べ物はなぜコロコロと変わるのか」(ベスト新書)

結論から先に言うと、「栄養学をナメるな」である。 特定の食べ物だけ食べて健康になることもないし、特定の食べ物の効能でダイエットできることもない。 同じ食品でも、時代、研究方法、そして資金提供元によって結論が180度変わることがある。具体的には健…

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2025年12月号 特集「P. F. ドラッカー 『真摯さ』とは何か -経営と人生の指針-」(ダイヤモンド社)

真摯さ。 ドラッカーの提唱するこの単語を知らないビジネスパーソンはそう多くはないであろう。 しかし、今回の特集はその単語そのものにあえて向かい合っている。 Integrity という単語を「真摯さ」と訳した先人の方々は慧眼であったといえる。経営を為す上…

木村尚三郎&渡辺昌美&堀越孝一&堀米庸三著「中世の森の中で」(河出文庫)

自然を守ろう。 このフレーズを生まれてからこれまで何度耳にしてきたことか。 今に生きる全ての人は自然を守るのを当たり前とし、自然環境破壊を悪と捉えて糾弾する。それが正しいと思っている。 しかし、今から1000年前のヨーロッパはそのような悠長なこと…

廣瀬匠著「天文の世界史」(集英社インターナショナル)

地球上に人類が誕生する前から夜空には星が存在していたわけで、夜空を見上げられるならたならば星という概念は必ず理解できる。しかし、その正体はわからない。太陽と月を除いたなら暗闇に浮かぶ点であり、ごく稀に現れる彗星を除けば色とりどりの点でしか…

デイヴィッド・マクレイニー著,安原和見訳「思考のトラップ:脳があなたをダマす48のやり方」(二見書房)

中国の駐大阪総領事である薛剣のSNSへの書き込みの異常さに端を発する中国の暴走は、中国外交部や報道官が高圧的な文章を添付する画像をネットに載せるというわけのわからない事態になっている。 おそらくであるが、高圧的な文章をネットにアップすることで…

雨穴著「変な地図」(双葉社)

「変な家」や「変な絵」の作者である雨穴氏の最新作である。 rtokunagi.hateblo.jp rtokunagi.hateblo.jp rtokunagi.hateblo.jp 図書と言う語の語源を調べると四書五経の一つである易経にたどり着く。 「河出図洛出書聖人則之」が図書と言う語の語源であり、…

ハンナ・アレント著,ジェローム・コーン編,中山元訳「責任と判断」(ちくま学芸文庫)

社会が全体主義と化して人が人を殺すのを厭わなくなるとき、そこには全体主義特有の社会の空気が存在する。ナチスが、ファシズムが、共産主義が人を殺してきたとき、人を殺して良いと考える空気が全体主義の社会を覆い、多くの人の命を奪い去ることを厭わな…

キャシー・オニール著,久保尚子訳「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠」(インターシフト)

私事であるが、私はITエンジニアとして給与を稼いでいる身である。そして、日常においては否応なくAIにもビッグデータにも接しなければならないという立場になっている。といっても、操るというわけではなく、手のひらに載せられているという感じか。どうい…

山本紀夫著「ジャガイモのきた道: 文明・飢饉・戦争」(岩波新書)

本書にも掲載されているが、アイルランドのダブリンにはジャガイモ大飢饉の記念碑が存在する。アイルランド人にとっては絶対に忘れることのできない惨劇の記録であり、飢饉に苦しむ人を描き出している像を目にするだけで、ジャガイモ大飢饉がいかなる惨劇で…