大学だとそのほとんどが、高校の段階でも多くの人が、文系と理系に分かれる。そして、文系に進むほとんどの人が数学や物理や化学と無縁となり、理系に進む多くの人が歴史や地理と無縁となる。
果たしてそれで正しいのかと言われれば、結論から言うと正しくない。少なくとも、大学で何かしらを学ぶには、高校で学んでおくべき内容を身につけておかなければ話にならない。「自分は文系だから数学はさっぱり」という言い訳も、「理系だから歴史はよくわからない」という言い訳も通用しない。
本書はタイトルからもわかるとおり、歴史に関する書籍である。厳密に言えば奈良時代の寺院の発掘から奈良時代の食文化を再現することを目的とする書籍である。しかし、本書の多くは発掘品の分析であり、その分析に於いては、歴史の知識だけでなく、数学の知識も、化学の知識も求められる。無論、大学で歴史を学ぶ人に大学で化学を学ぶ人と同レベルの化学的素養も求められるわけではないが、少なくとも歴史を学ぶのに理系的素養が求められることを、本書は否応なく教えてくれる。
奈良時代の寺院では何を食べていたのかの答えは、文献史料だけでなく、発掘品に示されている。それも、当時食べていた実物ではなく、発掘品として残ることとなった、容器の残骸や食べ残し、汚い話になるがトイレの跡地に残された未消化物の分析から、当時の寺院の食を再現する。その再現に必要となるのは歴史書の丸暗記や、文献史料の読み込みででは十分ではない。
それらに加えた理系的素養があってはじめて、時代は蘇る。