德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

塩崎省吾著「ソース焼きそばの謎」 (ハヤカワ新書)

ソース焼きそばは何とも奇妙な料理である。中華料理で多く用いられる麺を炒め、イギリス原産のウスターソース出味付けをした料理であるが、この料理がどこの国の料理家と問われると、日本国の料理と答えることとなる。それでいて、日本国の料理であるこの料…

中川右介「手塚治虫とトキワ荘」(集英社)

「小学一年生」の大ヒットの裏で類似タイトルの雑誌が出るかもしれないと「小学一年生」を商標登録しようとするも、一般名詞なので商標登録はダメ。しかし、小学館はある方法で類似タイトル雑誌の出現を食い止めることに成功した。その方法とは何か? 正解 …

岩田健太郎(著),石川雅之(イラスト)「ワインは毒か、薬か。」(朝日新聞出版)

禁酒した私がアルコールについて書き記すのも何だが、本書は私のように酒をやめた人間でも興味深く読むことのできる一冊である。また、本書のイラストにもやしもんでお馴染みの石川雅之氏が担当されていることもあり、もやしもんを読んできた方には取っつき…

ウォルター・シャイデル著「暴力と不平等の人類史 戦争・革命・崩壊・疫病」(東洋経済新報社)

トマ・ピケティは、大著「21世紀の資本」において、格差問題が解消した時代情勢として 戦争 革命 大規模自然災害 の三つを挙げた。 本書はその捉え方を見直し、以下の四つによる格差解消を記している。 戦争 革命 国家破綻 感染爆発 の四つである。 本書の和…

アン・H・ジャンザー著「サブスクリプション・マーケティング:モノが売れない時代の顧客との関わり方」(英治出版)

「5年以内に私たちは何も買わなくなり、すべてをサブスクリプションという形で利用するだろう」とはティエン・ツォ氏の意言葉である。何とも恐ろしい言葉である。何しろ顧客が商品を買ってくれないのだから。 サブスクリプションビジネスモデルというのは昔…

アレックス・モザド,ニコラス・L・ジョンソン著「プラットフォーム革命:経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか」(英治出版)

著名なIT企業を訊ねられて、どういう企業が思い浮かぶか? Appleか、Googleか、Facebookか、Amazonか、Microsoftか。 これらの企業には一つの特徴がある。 場所を用意しているのだ。iPhone用のアプリをリリースし、YouTubeで動画を公開し、Facebookのグルー…

P. F. ドラッカー「創造する経営者」(ダイヤモンド社)

ドラッカーの名著の一冊としても有名な「創造する経営者」は、現在では否定されている目標管理を打ち出しているなどの過ちがあるものの、基本的にはさまざまな分野のリーダーたちを導き、鼓舞し続ける不朽の名著であることに違いはない。特に、未来に対する…

クリスチャン・ステーディル,リーネ・タンゴー著「世界で最もクリエイティブな国デンマークに学ぶ発想力の鍛え方」(クロスメディア・パブリッシング)

2021年、突如としてデンマーク国旗が売り切れる事態が起こった。 2021年4月にデンマーク人FWのキャスパーユンカー選手がFKボデ/グリムトから浦和レッズへの移籍が発表となり、同年5月にはFCミッティランからデンマーク人DFのアレクサンダー・ショルツ選手が…

ニック・メータ,ダン・スタインマン,リンカーン・マーフィー著「カスタマーサクセス:サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」(英治出版)

本書は、顧客を獲得し顧客をつなぎとどめ続けることに成功する例を掘り下げ、ビジネスにおける顧客獲得の成功例を指し示す有益な書籍であり、現在の競争環境で成功を収めようとする企業に貴重な洞察と実践的な戦略を提供する一冊である。 本書の主な強みのひ…

フリーク・ヴァーミューレン著「ヤバい経営学:世界のビジネスで行われている不都合な真実」(東洋経済新報社)

一昨日、昨日と、ヤバい経済学、超ヤバい経済学と連続で記してきたが、本日はさらにその続きの経営学編である。 rtokunagi.hateblo.jp rtokunagi.hateblo.jp 氷河期世代は就職時に否応なく体感したことがある。どこにも就職できないのだ。企業の側にも言い分…

スティーヴン・D・レヴィット&スティーヴン・J・ダブナー著「超ヤバい経済学」(東洋経済新報社)

昨日の続編である。 テイストは前作と変わらないが、取り上げるエピソードは前作よりより毒気の強い物となっている。 たとえば、現在の日本で問題になっていることの一つに大久保公園の問題がある。それが何かは詳しくは記さないし、そもそも知らないので詳…

スティーヴン・D.レヴィット&スティーヴン・J.ダブナー著「ヤバい経済学:悪ガキ教授が世の裏側を探検する」〔増補改訂版〕(東洋経済新報社)

タイトルを観ておわかりいただけるであろうが、本書は経済学書である。ここまでは誰もが了承する話であろうが、ここから先は、何を言っているかわからないことを書くことになる。 本書は映画の原作本である。 経済学書は一見すると映画と全く咬み合わない分…

クリス・ファッセル&C.W.グッドイヤー著「ワンミッション:米軍発、世界最先端の組織活性化メソッド」(日経BP)

既にTwitterで何度か報告しているが、現在、氷河期世代の採用を絞ったためにゴーイングコンサーンが成立しなくなった企業と、満足いく就職ができずにいる氷河期世代の双方にメリットをもたらす方策についてマンガにしてまとめている。まとまり次第、Amazon K…

ミッチ・プリンスタイン著「POPULAR 「人気」の法則: 人を惹きつける謎の力」(三笠書房)

「何でこの人がモテるの?」 自分がモテない部類に入る人間であり、上記の感情を抱くことはあっても抱かれたことはない。だからこそ、本書にある人気の、いや、モテのための法則を描き出しているのが本書である。 その上で記す。 本書に従うならば、私はもう…

トマ・ピケティ著,村井章子訳「自然、文化、そして不平等:国際比較と歴史の視点から」(文藝春秋)

格差問題を突き詰めていくと不平等の存在に行き着く。 そんなことは誰もが当たり前のことと考えるであろうが、不平等というのは何とも難しい話である。よく言われる「上位1%が国の個人資産のn%を保有している」というのはわかりやすい不平等の形態である…

ロジャー・フィッシャー&ウィリアム・ユーリー著,岩瀬大輔訳「ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!」(三笠書房)

本書は1981年に刊行された"Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In"の新訳版である。 交渉とは自分の意見を相手に呑ませることでも、相手の意見を自分が呑み込むことでもない。相互に妥協できる着地点を見いだすことである。ここで忘れて…

ミシェル・バデリー著,土方奈美訳「エッセンシャル版行動経済学」(早川書房)

2017年のノーベル経済学賞で一気に注目を集めることとなった行動経済学。本書は行動経済学をこれから学ぼうとする方に向けてのガイダンス的一冊である。そのため、行動経済学の主要な概念、理論、応用の明確な概要を読者に提供することを主眼に置かれており…

ポール・R・ドーアティ&H・ジェームズ・ウィルソン(著),保科学世(監),小林啓倫(訳)「HUMAN + MACHINE 人間+マシン:AI時代の8つの融合スキル」(東洋経済新報社)

まず、前もって記しておくことがある。 本書は2018年3月にハーバード・ビジネス・プレスから出版され、同年11月に邦訳版が刊行された書籍である。 ChatGPT をはじめとする Open AI が話題になったのは本書刊行から5年以上経た今年である。しかし、本書は2018…

ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング, アンナ・ロスリング・ロンランド著「FACTFULNESS:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(日経BP社)

古代ギリシャや、3世紀までの古代ローマは多神教の世界であった。神の塑像を神殿に飾ることは珍しくなく、その多くは唯一神ではなく数多くの神々の塑像であった。 そして最後にこのような塑像を飾ることも忘れていなかった。 「未だ知られざる神」と記された…

ロバート・コンクエスト「悲しみの収穫 ウクライナ大飢饉:スターリンの農業集団化と飢餓テロ」(恵雅堂出版)

この世に地獄が存在するなら、それはこのような光景だろう。 1929年に始まった世界大恐慌。通説によると、全世界を不景気に追い込んだ大恐慌ではあるが、共産主義革命を実現させたソビエトは恐慌の影響を受けなかったというが、実際には影響を受けなかったど…

ジャン・ティロール著,村井章子訳「良き社会のための経済学」(日本経済新聞出版)

本作はフランス国立社会科学高等研究院のジャン・ティロール教授の著作である。ジャン・ティロール教授は2014年に「市場の力や規制についての分析」をテーマにノーベル経済学賞を受賞したことでも有名であり、その研究業績は本作にも強く反映されている。 本…

小黒一正&菅原琢磨編「薬価の経済学」(日本経済新聞出版)

国民医療費40兆円、そのうちの25%、すなわち10兆円を薬剤費が占めている。日本国内における薬価は2年に一度、診療報酬改定とタイミングを合わせて専門家達の計算と交渉によって決まるようになっている。薬価の決定方法は単なる需給バランスだけでなく、新薬…

マーク・ブライス著「緊縮策という病:『危険な思想』の歴史」(NTT出版)

2023年7月8日の埼玉スタジアムは、浦和レッズとFC東京の試合であった。一見すると普通のJリーグの試合であるが、この日の浦和レッズは少し変わった企画でこの試合を迎えた。 小学生、中学生、高校生が、埼玉スタジアムの指定席を550円で購入できるのである。…

P. F. ドラッカー「見えざる革命:年金が経済を支配する」(ダイヤモンド社)

本書は、1976年に「来たるべき高齢化社会の衝撃」の副題で初版刊行となり、その後、1991年の論文「企業は誰ものか」を終章に加えて1996年に現行の副題で刊行された一冊である。つまり、一応は1996年の書籍の復刊ということになるのだが、基本的には1976年に…

ジェイソン・ヒッケル著,野中香方子訳「資本主義の次に来る世界」(東洋経済新報社)

結論から記すと、やはり脱成長は間違っている。 本書「資本主義の次に来る世界」(原著名"Less is More: How Degrowth Will Save the World")は、経済人類学者のジェイソン・エドワード・ヒッケル博士が地球規模の課題に対する解決策としての脱成長の概念…

菅野誠二著「外資系コンサルのプレゼンテーション術:課題解決のための考え方&伝え方」

本書は経営コンサルタントである菅野誠二氏が著した、プレゼンテーションをする際に活用する知見と技能を解説することに主眼を置いたビジネス書である。 と簡単に記したが、そもそもプレゼンテーションとは何か? 自分の訴えたいことを簡潔に、わかりやすく…

アンジェラ・サイニー著,東郷えりか訳「科学の女性差別とたたかう:脳科学から人類の進化史まで」(作品社)

考えていただきたい。人類の歴史を発展させてきた科学は本来あるべきスピードの半分のスピードであったと。 どういうことか? これまで科学に携わってきた人物の圧倒的多数が男性である。女性が科学に関係してこなかったのではなく、そもそも入り口に立つこ…

ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウェストレイク著,山形浩生訳「無形資産経済:見えてきた5つの壁」(東洋経済新報社)

昨日公開した、ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウェストレイク著,山形浩生訳「無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体」(東洋経済新報社)の続編である。 rtokunagi.hateblo.jp 前作では、知的財産、データ、ブランド価値、人的資本など…

ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウェストレイク著,山形浩生訳「無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体」(東洋経済新報社)

リンク先をクリックして Amazon の本書のページに飛んでみるとおわかりいただけると思うが、本書は、現代経済に対する我々の理解を一変させる、極めて示唆に富んだ洞察に満ちた本としてビル・ゲイツ氏が絶賛したことで著名となった本である。 無形資産の領域…

ニーアル・ファーガソン&ファリード・ザカリア著「リベラル vs. 力の政治―反転する世界秩序」(東洋経済新報社)

リベラリズムについて、ジョークとしか形容できない実話がある。自分のことをリベラリストと自覚し、自分の考えと同意できない人のことを保守として一括りにして批判している人が、自分の理想とするコミュニティを作り上げようと人を探そうとした。学力が高…