本書の原著刊行は1940年、すなわち、ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発し、ファシズムが世界を席巻していた頃である。ファシズムの繰り広げているレイシズムの過ちをまとめることで、ルース・ベネディクトは第二次大戦での連合国の論理的支柱を作るべくこの一冊を著した。
ただし、それは諸刃の剣でもあった。連合国の側にもレイシズムは存在していたのだ。黒人をどう扱っているか、日系人をどう扱っているか、味方という扱いになっているはずの中国人ですらどう扱っているのか。その点を突かれたときレイシズムはむしろ連合国の側になってしまう。
その結果が保守政治家からの弾劾につながった。
それでも、本書に記されている差別の構図の分析については間違っていなかった。そして、現在でも通用する話であった。特に、第八章の冒頭の「科学の滑稽画」は単なるレイシズムに限らず、現在の反ワクチン運動や執拗なクレーマーなど他者への執拗な攻撃を繰り返す人達の様相にも通じる分析であった。
自己、ないしは、自己の存在する集団に根拠なき優越感をいだくことで現実逃避をする。それはレイシズムだけの話ではない。根拠なき優越感を根拠ある優越感とするべく根拠を一つまた一つと捏造しては否定されるのを繰り返すも、最終的には優越感を消すことはできないという光景は今も各所で見られる。
その光景のメカニズムは普遍である。時代を変えても、場所を変えても、メカニズムは変わらない。そのことを本書は教えてくれる。
本書は新訳版である。新たに邦訳を担当してくれた阿部大樹氏の訳文の読みやすさにも注目すべき一冊である。



