德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

P.F.ドラッカー著,清水敏允訳「明日のための思想」(ダイヤモンド社)

本書はドラッカーが1959年に著した論文集であり、日本語訳の本作は、掲題作である「明日のための思想」の他に、「経済政策と社会」「現代のプロフィール」の計3本の論文が掲載されている。 特筆すべきは、本書の原著がドイツ語、すなわちドラッカーの母語で…

コルナイ・ヤーノシュ著「資本主義の本質について:イノベーションと余剰経済」 (講談社学術文庫)

想像していただきたい。 生まれたときから戦場だった。家族が、友人が、恋人が、知人が、同僚が、その日、そのとき、その場にいたという理由で殺されるのが日常であるという暮らしを強いられていることを。自分の父も侵略者に殺され、自分自身も殺される寸前…

ボリス・ジョンソン著「チャーチル・ファクター:たった一人で歴史と世界を変える力」(プレジデント社)

ボリス・ジョンソンの著書を読むと、この人は平和を求めていることがわかるし、絶対にナチスを復活させてはいけないと考えていることがわかる。わかるからこそ、ブレグジットという道へと進ませたことに複雑な思いをいだく。 本書は、ボリス・ジョンソンが英…

ブランコ・ミラノヴィッチ著「大不平等:エレファントカーブが予測する未来」(みすず書房)

本書は不平等問題の研究で著名な経済学者であるブランコ・ミラノヴィッチ氏が、世界規模での不平等の原因と結果について包括的かつ独創的に分析した一冊である。豊富なデータと革新的な手法を駆使して、不平等が国内および国家間で時間とともにどのように変…

ルチル・シャルマ「シャルマの未来予測:これから成長する国・沈む国」(東洋経済新報社)

素人が思いつくような経済政策、たとえば格差解消とか、失業の削減とか、年金問題の解決とかは、解決しない。理由は簡単で、歴史上に存在するのは失敗例しかないからだ。 格差是正、貧困、年金問題、社会福祉問題といった経済を一気に解決する画期的なアイデ…

永井孝尚著「売れる仕組みをどう作るか トルネード式 仮説検証(PDCA)」(幻冬舎)

本書のテーマは、変化が激しい現代において、売れる仕組みを作るために必要な「トルネード式仮説検証」という方法論である。 PDCAサイクルやOODAループに接してきたビジネスパーソンは多いだろう。本書も基本的にはビジネスパーソンが何度も接してきた、ある…

カール・ローズ著、庭田よう子訳『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』(東洋経済新報社)

原著名 "Woke Capitalism: How a Corporate Cult Captured and Destroyed Democracy"は、企業権力と社会正義、そして民主主義プロセスの交差点について、目を見張るような示唆に富んだ批評を展開している一冊である。シドニー工科大学のカール・ローズ教授に…

スコット・バリー・カウフマン&キャロリン・グレゴワール著、野中香方子訳「FUTURE INTELLIGENCE:これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣」(大和書房)

本書は、創造的精神の内面を掘り下げた、啓発的で示唆に富む本である。心理学者のスコット・バリー・カウフマンとジャーナリストのキャロリン・グレゴワールの共著であり、人間の創造性の複雑さとニュアンスを包括的に探求している一冊である。 本書はまず、…

P.F.ドラッカー「明日を支配するもの:21世紀のマネジメント革命」(ダイヤモンド社)

ドラッカーが1989年に発表した本書は、政府、政治、経済、ビジネス、社会、世界観のダイナミクスの変化を探る画期的なエッセイ集である。東欧革命をはじめとする世界的な変革期を迎えている時期に出版された本書は、著者の洞察に満ちた分析と先見的なアイデ…

P.F.ドラッカー著,現代経営研究会訳「変貌する産業社会」(Drucker Classics)

本書はP. F. ドラッカーが1957年に著した本であり、ダイヤモンド社のドラッカー名著集の中に含まれていない一冊である。ゆえに、紙媒体の入手は難しかったのであるが、2017年に電子書籍化されたことで、現在では容易に入手できるようになっている。 さて本書…

イアン・ゲートリー著,黒川由美訳「通勤の社会史:毎日5億人が通勤する理由」(太田出版)

19世紀のイギリスで鉄道ができたばかりの頃、乗客が車輌の中で本を読んでいるのが不気味だと言っていたのだし、現代人がスマートフォンに目をやっているのをどうこう言われるのも歴史を繰り返しているだけで気にするようなことではない。 本書は、通勤という…

佐伯智弘著「中世前期の政治構造と王家」(東京大学出版会)

本書は著者である佐伯智広氏の博士論文をもとにまとめた一冊であり、日本中世前期の王家という概念を批判的に再検討し、鳥羽院政期から鎌倉中期に至る王家の家長権と王家領荘園の伝領を具体的に分析した研究書である。 私は平安時代叢書において、可能な限り…

パスカル・ブルュックネール著「お金の叡智」(かんき出版)

本書は、哲学の観点から、現代社会におけるお金の役割と意味について探求した一冊である。 フランスのエッセイストであり知識人でもある著者は、お金や富にまつわる一般的な偏見や神話に挑戦し、自由と幸福の源であるお金について、よりニュアンスのあるポジ…

ジャン・ティロール著「良き社会のための経済学」(日本経済新聞出版社)

ノーベル経済学賞受賞をしたジャン・ティロールによると 公務員の数を減らし、必要になったら非正規を雇うべき。 労働時間の短縮は間違いだ。 生産性の向上を遙かに上回る賃金の上昇は控えるべき。 とのことだが、気のせいか、その理論を実現させて失敗した…

美川圭著「公卿会議―論戦する宮廷貴族たち」(中公新書)

平安時代は奈良時代の後継としてはじまり鎌倉時代へと継承する。 何を今さらと思うかもしれないが、律令制が崩壊して摂関政治となり、院政を経て武家政権へと移行するという流れは、完全な移行ではない。前時代に構築されたシステムを土台とした新時代のシス…

ニーアル・ファーガソン「大英帝国の歴史・上:膨張への軌跡」「大英帝国の歴史・下:絶頂から凋落へ」(中央公論新社)

本書は、イギリスの歴史家が大英帝国の成立と展開、そして衰退と解体を描いた歴史書である。もともとは著者が案内役を務めたドキュメンタリー番組の書籍版として出版されたという経緯があるためか、本書を読むのはテレビでドキュメンタリー番組を観るかのよ…

リディア・ケイン(著), ネイト・ピーダーセン(著)「世にも危険な医療の世界史」(文藝春秋)

医療に対する正しい知識がないと、トンデモに走る。これはCOVID-19で顕在化した現象ではなく、それより前に子宮頸がんワクチンに対する反科学ヒステリーがやらかした惨劇は忘れてはならない。もっとも、絶対に忘れてはならないメディアが早々に忘れ去って今…

飯倉章(著)「第一次世界大戦と日本参戦: 揺らぐ日英同盟と日独の攻防」(吉川弘文館)

日本史における第一次世界大戦の扱いは微妙である。 第二次世界大戦は無論、日清戦争や日露戦争も日本史に於いては重要な役割を占め、歴史の教科書でも多くのページが取り上げられている。歴史の教科書だけでなく小説などの文学作品や、映画などの映像作品で…

小黒一正編著「2025年、高齢者が難民になる日:ケア・コンパクトシティという選択」(日本経済新聞出版社)

高齢者の運転するクルマが事故を起こす。 この一行を読んだだけで池袋のあの事件を思い浮かべる人も多いであろうし、あの事件は決して忘れてはならない事件であるが、同時に考えなければならないのは、池袋のあの事件だけが高齢者のクルマの運転ミスで起こる…

ジョン・スチュアート・ミル「代議制統治論」(関口正司訳)(岩波書店)

現代の日本に住む日本人にとっては、選挙によって議員を選び、あるいは都道府県知事や市区町村長を選ぶことを当たり前と考えている。現在の政治に問題があると考えたとき、クーデターや革命ではなく、選挙によって政権を変更させることを当たり前と考えてい…

タイラー・コーエン 、 ダニエル・グロス著「TALENT:『人材』を見極める科学的なアプローチ」(クロスメディア・パブリッシング)

古代ギリシャの哲学者達を列挙すると、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生していることがわかる。 ルネサンス期の芸術家達を列挙すると、極めて短期間に数多の人物が狭い地域で誕生していることがわかる。 平安時代の女流文学者達を列挙すると、極め…

乃至政彦著「平将門と天慶の乱」(講談社現代新書)

平安時代叢書第七集「貞信公忠平」は、その半分が平将門の乱についての記述である。 rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebaownd.com rtokunagi.amebao…

フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー著「超予測力:不確実な時代の先を読む10ヵ条」(早川書房)

成功して母校に寄付をした人は多々いるだろうが、母校の資金を株式市場で運用し、3万ポンド(現在の日本円にすると15億円ほど)の資金を38万ポンド(同じく190億円ほど)までに増やしたのはジョン・メイナード・ケインズぐらいだろう。 ではなぜ、ケインズに…

大竹文雄、平井啓著「医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者」(東洋経済新報社)

日本国において、子宮頸癌ワクチンがどのような運命を辿ったのかは多くの人の知るところであろう。ではなぜ、子宮頸癌ワクチンの危険性を訴える声が大きく広まり、そして接種が激減する事態になったのか? それは、悪意でも善意でもなく、何も考えていないだ…

ティム・オライリー著「WTF経済:絶望または驚異の未来と我々の選択」(オライリー・ジャパン)

本書は、テクノロジーのトレンドを先取りすることから「シリコンバレーの予言者」と称される著者が、オープンソース・ソフトウェアを中心にしたテクノロジーの歴史と、それが社会に与えてきた大きな影響を振り返り、そこから学んだ経験をもとに次世代ビジネ…

伊藤穰一、ジェフ・ ハウ共著「9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために」(早川書房)

「新しい出会い系サイトを作るぞ」 ↓「他にはない特色を持たせよう」 ↓「他のサイトは写真と文章だけか。動画も載せられたらすごくない?」 ↓『この動画を載せてるサイトおもしれぇな』 ↓『出会いはともかく動画を載せれるってすげえ』 ↓『むしろ動画がメイ…

マーク・ブライス著「緊縮策という病:『危険な思想』の歴史」(NTT出版)

本書刊行当時、世界経済における最大の悪夢とは世界金融危機(リーマンショック)であった。多くの国は危機から脱しようと財政支出を主とする様々な支援策を展開しようとした一方、過剰な財政支出が国家の収支を悪化させ国家財政の破綻に導くという考えも多…

角川総一著「為替が動くと、世の中どうなる?」(すばる舎)

そもそも為替とは何か、為替はどのように動くのか、為替の動きが経済や社会にどのような影響を及ぼすのかを、平易な解説と図解で説明した一冊であり、銀行勤めでもある私が新入社員に対して読んでおくべき本を挙げろと言われたら候補の一冊として挙げる一冊…

ターリ・シャーロット著「事実はなぜ人の意見を変えられないのか:説得力と影響力の科学」(白揚社)

失敗や失態を責めている人が実は同じ失敗や失態をしているのを「ブーメラン」と評すことがあるが、「ブーメラン効果」の意味するところはそうでない。事実をいかに調べても自らの意見と反する場合、事実を受け入れて自らの意見を変えるのではなく、自らの意…

脇田成著「賃上げはなぜ必要か:日本経済の誤謬」(筑摩選書)

本書は昨日公開した「日本経済論15講」(新世社)と同じ著者の作品である。 rtokunagi.hateblo.jp 大正時代の米騒動はどのように鎮静化したか? コメの値段が高まってしまったのでコメを買えなくなったのが問題である。しかも、大正時代のコメの消費量は現在…