当ブログでは何度か、ティモシー・スナイダー氏の著作を挙げている。
中央ヨーロッパや東ヨーロッパの歴史研究に取り組み、特にホロコースト研究で高い実績を残している著者は、2019年、50歳のときに肝疾患による敗血症により生死の淵を彷徨った。
そこで筆者が目の当たりにしたのはアメリカの医療システムが抱える根深い問題であり、病を乗り越え無事に退院を果たした著者はアメリカの医療の諸問題をまとめた警告の書である "Our Malady: Lessons in Liberty from a Hospital Diary" と題した著作を刊行した。すなわち、それが本作であり、邦訳版刊行は2021年のことであるが原著刊行は2020年のことである。
本来であれば、本書は不吉な警告の書として扱われるだけに留まっていたであろう。
だが、2020年がどのような年であったか知らない人はいないであろう。
COVID-19が全世界に猛威を振るった年だ。
本書は不吉な警告の書ではなく、まさに現在進行形で発生している問題をまとめあげた書籍になってしまったのだ。著者が危惧していたようにCOVID-19の猛威の前にアメリカの医療制度はあまりにも無力で、そもそも医療サービスを受けられるわけでは無い人があまりにも多かった。無保険のために医療を受けようとすると冗談では済まない高額医療となり、保険の適用対象であったとしても大きな外科手術の翌日に退院しなければならなかったり、陣痛間隔が数分間隔に至ってようやく入院できたりといった医療制度になってしまっている。隣の芝は青く見えるとはいうが、医療制度については、標準医療をかなりの安値で受診できる日本の医療制度のありがたさを痛感する。極論すると、日本の標準医療をアメリカで受けるためには、莫大な医療費を払うか、その医療費をまかなえるだけの医療保険に入っておかなければならないのである。
日本語に訳された本書を私が読んだのは2021年、その頃と比べてCOVID-19のニュースバリューは少なくなってきてはいるが、鎮静化しているわけではない。と同時に、不吉なニュースが流れている。医薬品不足という不吉なニュースと、医師不足という不吉なニュースである。このまま放置していると、日本の医療制度は現状維持も困難となってしまうであろう。



