いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ナサニエル・ポッパー著,土方奈美訳「デジタル・ゴールド~ビットコイン、その知られざる物語~」(日本経済新聞出版社)

ビットコインがどのように誕生し、どのようなセキュリティを構えているのか、そして、Mt.Goxの問題についてまとめた一冊である。なお、本書刊行は2016年であり、現在から見ると必ずしも合致する分析とならないところはあるが、本書は2016年時点において最上…

フィリップ・E・ テトロック&ダン・ ガードナー著,土方奈美訳「超予測力:不確実な時代の先を読む10カ条」(早川書房)

現時点で手にできる情報から未来をパーセンテージで予測するため解説の書であり、その解説は自分の考えに固執する人が陥る罠への警鐘でもある。 「自分がAさんならこの決断をするか?」という考えは危険である。 なぜなら、あなたはAさんではない。 現時点…

アンジェラ・ダックワース著,神崎朗子訳「GRIT(グリット):やり抜く力 ――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」(ダイヤモンド社)

才能ではなく努力によって、それも効率的な努力によって、その人の能力を伸ばすことが可能であると説いている本である。それは先天性のものではなく、生まれ育った環境で、そして、努力で能力を伸ばせると行くのが本書の主張だ。 そして、耳の痛いことも書い…

リンダ・グラットン&アンドリュー・スコット著,池村千秋訳「LIFE SHIFT:100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社)

「未来企業」「WORK SHIFT」の著者リンダ・グラットン氏が、 アンドリュー・スコット氏と共に著した書であり、2016年に話題になったことで覚えている方も多いであろう一冊である。 平均寿命を考えたとき、いま40代である人は人生まだ半分と考えているだろう…

中室牧子著「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

さいたま市緑区にはヘビークレーマーがいる。いや、いたと言うべきか。さいたま市議会議員であった加川義光である。こいつはさいたま市政に留まらず、埼玉県政、そして国政に関しても例外なく難癖を付け続け、選挙カーを乗り回してスピーカーで騒音を叫き散…

ウルリケ・ヘルマン著,猪股和夫訳「資本の世界史:資本主義はなぜ危機に陥ってばかりいるのか」(太田出版)

本書は資本主義の歴史とその本質についての洞察的な探求の一冊である。ただし、本書では資本主義というものがイングランドの片田舎で偶然生まれ、その後幾度もの危機に直面してきたにもかかわらず、現代ではわれわれの世界を規定しているように見えるととし…

ダニエル・ディアマイアー著,斉藤裕一訳「「評判」はマネジメントせよ:企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略」(CCCメディアハウス)

評判とは恐ろしいものだ。特に悪評は。 気をつけていれば悪評なんて気にしないでいいなんて思っていようと、思わぬところから波風が立つ。それも、法に従えば無罪であろうと、いや、だからこそ、悪評は広まる。 労働条件が厳しいという悪評が立ち上ったとき…

ピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラー著,土方奈美訳「ボールド:突き抜ける力 超ド級の成長と富を手に入れ、世界を変える方法 」(日経BP)

何かを成し遂げて欲しいときは、自分で計画するのもありだが、ものすごい賞金を用意して挑戦者を募るのも一つの手。不可能とされてた大西洋無着陸横断飛行をリンドバーグが成功した理由はそれである。 リンドバーグが手にした賞金は2万5000ドル。現在の日本…

トリスタン・ブルネ著「水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす」(誠文堂新光社)

トマ・ピケティの「21世紀の資本」を読む前に、社会党支持者の立場でフランスの現代社会史を捉えた「トマ・ピケティの新・資本論」を読んでおくべきというのがこれまでの私の主張だったが、そのさらに前に読むべき本を挙げるとすれば、本書である。 フランス…

リチャード・フロリダ著,井口典夫訳「クリエイティブ都市論:創造性は居心地のよい場所を求める」(ダイヤモンド社)

グローバル化した世界において、場所は重要でない。 そのような考えを木っ端微塵に打ち砕くのが本書である。 著者は本書において、住む場所がどれほど重要であるかを強調している。それこそ人生のパートナーやキャリアを選ぶことと同じくらい重要であると説…

リチャード・フロリダ著,井口典夫訳「クリエイティブ・クラスの世紀:新時代の国、都市、人材の条件」(ダイヤモンド社)

日本人が本書を読むと、「創造のための環境を日本国内にいかに用意するか」という感情を抱く。しかし、、補記のスタートでいきなり「日本は創造のための環境世界第二位」と数字で示され、どう応えれば良いかわからない感覚に襲われる。 本書は世界的な人材競…

リチャード・フロリダ著,井口典夫訳「新・クリエイティブ資本論:才能が経済と都市の主役となる」(ダイヤモンド社)

トマ・ピケティの「21世紀の資本」が既存の資産保有者に対する負担を求めるのに対し、こちらは現時点で資産を持たない人が資産を手にするにはどうするかを記している。 持てる者から奪うだけが格差是正の方法ではない。持たざる者が持てる者になる環境を用意…

ロビン・ディアンジェロ著,甘糟智子訳,出口真紀子解説「ナイス・レイシズム:なぜリベラルなあなたが差別するのか?」(明石書店)

本書では「レイシスト」と称しているが、私は敢えて「差別する人」としたい。 本書で何度か登場するフレーズも、「差別する人の反対は、差別しない人ではなく、差別させない人」と置き換えたい。 本書はアメリカの白人男性優位社会の様相を描き出すと同時に…

中野剛志&佐藤健志&施光恒&柴山桂太著「新自由主義と脱成長をもうやめる」(東洋経済新報社)

本書は令和改元直後の令和元(2019)年5月に発足した「令和の新教養」研究会における議論や、および、同研究会のメンバーの論考をまとめた一冊である。 令和改元以降としても、平成から続いていた「失われたn年」の問題は未だ収束せず、さらにその翌年からはC…

オマール・アボッシュ&ポール・ヌーンズ&ラリー・ダウンズ著,小林啓倫訳「ピボット・ストラテジー:未来をつくる経営軸の定め方、動かし方」(東洋経済新報社)

ピボット(pivot)。元々の意味は英語の「回転軸」。 それが現在のビジネスシーンでは「事業転換」や「方向転換」を意味する語となった。特に、これまで取り組んできた事業から他の事業へ転換することをピボットと指すことが多い。 たとえば、日本に生まれ育っ…

小黒一正著「財政危機の深層:増税・年金・赤字国債を問う」(NHK出版新書)

本書は2014年末の、すなわち10年前の我が国の財政を客観的に知るのに有益な一冊である。氏の掲げる改善策については賛否両論が湧き上がるであろうが、否定する場合でも客観的データは信頼置けるといえよう。 その上で痛感する現実がある。 特効薬などないの…

桃崎有一郎著「武士の起源を解きあかす:混血する古代、創発される中世」(ちくま新書)

現在放送中の大河ドラマ「光る君へ」の時代はまだ武士がそこまで強固な存在として確立されているわけではないように見えるが、その50年前には関東地方で平将門が、瀬戸内海で藤原純友が反乱を起こしている。すなわち、武士はもう誕生している。 私は平安時代…

池上俊一著「フィレンツェ:比類なき文化都市の歴史」(岩波新書)

埼玉スタジアムや国立競技場に5万人以上の人が詰めかけた光景を目にしたことがある人は多いであろうし、5万人の1人として体験したことのある人もいるだろう。 その上で、このように考えてみていただきたい。 ルネサンス期のフィレンツェの人口とほぼ同じであ…

網野善彦著「中世荘園の様相」(岩波文庫)

ついにこのときを迎えてしまった。 岩波文庫と言えば教科書に載っているような古今東西の名著を網羅しているレーベルであるが、それは同時に、歴史のテスト、あるいは古典のテストで登場する書名である。つまり、かなりの可能性で著者は歴史上の人物である。…

佐川英治編「君主号と歴史世界(史学会シンポジウム叢書)」(山川出版社)

現在、世界には200以上の国が存在する。そのうち君主制を採用している国は43ヶ国を数える。その中には、カナダやオーストラリア、ニュージーランドのように、自国に滞在していない人物を君主としている国も含まれる。ちなみに、カナダ、オーストラリア、ニュ…

天野郁夫著「学歴の社会史:教育と日本の近代」(新潮選書)

日本の教育と学歴に焦点を当てた、1992年刊行の書籍である。つまり、30年前の学歴問題をまとめた書籍であり、必ずしも最新の社会問題についての考察を述べている訳では無いことに注意が必要である。 と同時に、現在学歴社会の構造がどうして現状のようになっ…

岩本宣明著「科学者が消える:ノーベル賞が取れなくなる日本」(東洋経済新報社)

まずは本書の目次をここに掲載するので目を通していただきたい。 日本人研究者がノーベル賞を受賞するケースが多かったが、それは過去の話とするしかない。これから先も受賞者が出てくることはあるだろうが、毎年のように何人もの受賞者が登場するような時代…

有富純也&佐藤雄基編「摂関・院政期研究を読みなおす」(思文閣出版)

古代の日本は中央集権国家であった。平安京遷都後もしばらくは古代日本の中央集権国家であろうとし続けていた。 しかし、現実に即さぬ中央集権国家の存続は無謀であった。律令制の200年間に全国的な飢饉が6回発生し、平治の農業生産性も132%、すなわち、100…

新保恵志著「金融サービスの未来:社会的責任を問う」(岩波新書)

銀行がニュースとして取り上げられる場合、そのニュースの内容が喜ばしい内容である可能性は低い。全くのゼロとは言えないが、一〇〇対一ぐらいの割合であろう。 銀行に限らず、金融全般についても同様のことが言える。金融に関するニュースの内容でポジティ…

伊藤毅著「ルールの世界史」(日本経済新聞出版)

Jリーグディビジョン3に所属するFC大坂は、東大阪市にある花園ラグビー場をホームスタジアムとしている。 こう聞くと疑問に感じる人もいるのではないであろうか? 花園ラグビー場は文字通りラグビー場である。そして、FC大阪はサッカーJリーグのクラブである…

マイケル・ヘラー&ジェームズ・ザルツマン著,村井章子訳「Mine! 私たちを支配する「所有」のルール」(早川書房)

以下の場面を思い浮かべていただきたい。 新幹線の指定席を買ったのに、自分が買ったはずの席に他の人が座っている。最初は疑問に感じるだろう。金を払って指定席を買ったのにどうして他の人が座っているのだと。そして話しかける。「席を間違えていませんか…

村瀬信一著「名言・失言の近現代史 上」(吉川弘文館)

明治23(1890)年11月29日、第1回帝国議会が始まった。現在まで続く議会主導による国家統治のスタートである。ただし、現在のように両議員の全議員が選挙によって選ばれたわけではない。選挙によって選ばれるのは衆議院議員のみであり、もう一方の議会である貴…

アルベルト・エジョゴ=ウォノ著,江間慎一郎&山路琢也訳,中町公祐解説「不屈の魂:アフリカとサッカー」(東洋館出版社)

よく使われる接頭辞がある。「アフリカならではの」や「アフリカ人特有の」といった、アフリカ全体をひとまとめにした接頭辞だ。 それはサッカーにおいても例外ではない。CAF(Confederation of African Football:アフリカサッカー連盟)には56の国と地域が…

ロバート・フェルドマン&加藤晃著「盾と矛:2030年大失業時代に備える「学び直し」の新常識」(幻冬舎)

2024年に生きる我々は、ChatGPTをはじめとするAIに直面している。文章も、絵画も、動画もAIが創り出せるようになっていることを知っている。そして、コンピュータプログラムもまた、AIが創り出せるようになっていることを知っている。 そしてこのように言わ…