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網野善彦著「日本中世の民衆像:平民と職人」(岩波新書)

日本中世の民衆像 平民と職人 (岩波新書)

我が国の庶民についての一般的なイメージとしては、「弥生時代に稲作が伝来してから近年までのおよそ2000年間、日本人の多くは稲作農民であった」というものであろう。

しかし、このイメージは覆されつつある。

まず、稲作の伝来は弥生時代ではなく紀元前4000年まで遡ることができ、稲作の歴史は6000年を数える。なお、この点は本書の主題ではない。

本書は昭和54(1979)年に開催された岩波市民講座の講演記録を整理して発表した論文を再編成した書籍である。岩波新書の黄版であることから想像つく方も多いであろうが、40年以上前に刊行された書籍であり、必ずしも令和6(2024)年限時点からすると最新の研究成果がまとめられた書籍であるとは言えない。しかし、それだけの年月を経ていても本書の魅力は失われることが無い。

本書の主題は、ほとんどが農民であったというイメージを刷新することである。稲作農民が多かったのは事実であるにしても、職人もいるし、漁師もいる。船乗りもいるし、大工もいる。稲作に従事する以外の職業の人は現在に生きる我々が抱くイメージよりも多く、それらの人達もまた、我が国のこれまでの歴史を作りあげてきた人達である。

律令の求める租税はコメの納税であることや、班田収受による田畑の配布を念頭に置くと、稲作に従事しなかった人は存在せず、稲作に従事すると同時に職人をはじめとする職業に従事していたように感じるが、実際にはそうではない。実はコメ以外の方法の納税が求められていたのだ。また、コメの輸送についても、米俵を背負って都(みやこ)まで延々と歩いて運んでいたというイメージがあるが、実際には船に乗せて運ぶことも普通だったのだ。それも、航路が整備されている瀬戸内海だけでなく、太平洋岸でもあたりに前に存在したのだ。

この点を踏まえて日本史を見直すと、新たな視点が見えてくると同時に、欠けていた視点が埋まってくる。現在に生きる我々が想像する以上に、バラエティに富み、他の地域や国外とのやりとりも想像以上に活発であった我が国の祖先達の足跡が見えてくる。