德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-11-01から1ヶ月間の記事一覧

倉本一宏著「平安貴族とは何か:三つの日記で読む実像」(NHK出版新書)

藤原道長の御堂関白記。 藤原行成の権記。 藤原実資の小右記。 いずれも来年の大河ドラマ「光る君へ」の時代の様子を現在に伝える貴重な資料である。 平安貴族の日常、特に政務に視点を置いた平安貴族の日々をみなさんはどのように捉えるであろうか? そこで…

ダロン・アセモグル著&ジェイムズ・A・ロビンソン著,鬼澤忍訳「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上・下)」(早川書房)

世の中には豊かな国と貧しい国とがある。その違いはどこから来ているのか? 本書によると、世界に存在する豊かな国と貧しい国の間の差異とは経済的な制度が決定するという。裏を返せば、自発的な努力によって豊かになることが可能であるということだ。 思い…

恒川裕康著「ドラッカーさんに教わったIT技術者のための50の考える力」(秀和システム)

近年、ITエンジニアになりたいという人が増えている。私もITエンジニアの一人として嬉しい話であるが、一方で、ITエンジニアになったあとのキャリア構築という点でまだまだルートの構築ができていないのが現実である。もっとも、ITエンジニアという職業はド…

ウィンストン・ブラック著「中世ヨーロッパ:ファクトとフィクション」(平凡社)

なろう系とか、異世界転生とか、そういった作品が多々溢れている。そうした世界観の作品は近年に始まったことではなく、少なくともルネサンスまで遡ることは可能である。そして、それらの作品の多くは中世ヨーロッパを舞台としている、あるいは、中世ヨーロ…

伊藤宣広著「ケインズ:危機の時代の実践家」(岩波新書 赤1990)

ケインズには一つの批難がつきまとう。変節がそれだ。 ケインズが生涯で発表してきた論文や著作を追いかけると、一貫性がないと感じることがある。 しかし、忘れてはならない点がある。 ケインズは理論を述べていたのではない。現実に起こっている問題を解決…

倉本一宏著「紫式部と藤原道長」(講談社現代新書)

来年の大河ドラマ「光る君へ」入門書として二番目に優れた一冊である。 なお、最も優れているのは、德薙零己著「平安時代叢書」第八集から第十二集である。 来年の大河ドラマ「#光る君へ」の事前予習に最も優れたテキストはこれだ!平安時代叢書 第八集 天暦…

デビッド・ロブソン著,土方奈美訳「The Intelligence Trap:なぜ、賢い人ほど愚かな決断を下すのか」(日本経済新聞出版)

一流とされる大学を卒業したはずなのに、信じられない愚かな失敗をする人がいる。民主党恐慌の3年4ヶ月を経験した日本人は、それなりに優秀とされる人なのにどうしてここまで愚かな失敗だけをわざわざ選んで繰り返したのか全く理解できないことを思い出せる…

ウォルター・アイザックソン著,井口耕二訳「イーロン・マスク 上・下」(文藝春秋)

イーロン・マスク氏については今まさに現在進行形で世界中にニュースとなっている人物である。本書はそのイーロン・マスク氏の半生を描いた伝記なのであるが、本書を読んだところで現時点でニュースを賑わせているイーロン・マスク氏についていけるわけでは…

倉本一宏著「藤原道長「御堂関白記」を読む」(講談社学術文庫)

古今東西、権力者自身が筆を手に取り文章を残すこと、その文章が現在まで伝わることは珍しくない。その意味で、御堂関白記もそうした権力者の文章のうちの一つであるといえる。 しかし、御堂関白記には他と大きな違いが二つある。 一つは私的な文章であると…

リチャード・ホガート著,香内三郎訳「読み書き能力の効用」(ちくま学芸文庫)

読み書き能力の効用 (ちくま学芸文庫 ホ-26-1) 作者:リチャード・ホガート 筑摩書房 Amazon 福沢諭吉が学問のすゝめの初編を上梓したのは明治維新から間もない明治5(1972)年のこと。そのときは明治時代の日本が直面した近代国家への昇華の必要性と、その中で…

古賀太著「美術展の不都合な真実」(新潮新書)

美術展の不都合な真実(新潮新書) 作者:古賀太 新潮社 Amazon テレビで美術館での美術展を取り上げる場合、その多くはレポーターが一人で、あるいはレポーターと学芸員の二人で、静かな美術館の中を散策して一つ一つの展示物をじっくりと眺めるする情景にな…

リッチ・カールガード著,野津智子訳「グレートカンパニー:優れた経営者が数字よりも大切にしている5つの条件」(ダイヤモンド社)

グレートカンパニー 作者:リッチ・カールガード ダイヤモンド社 Amazon ドラッカーは企業の寿命を30年としている。 東京商工リサーチの調べによると、設立から倒産までの日本の企業の平均寿命は27年ほどである。 しかし、どんな会社も30年で役目を終えること…

リッチ・カールガード著,大野晶子訳「早期の成功者より、遅咲きの成功者は最高の生き方を手に入れる:誰でも変わろうと考えた瞬間から人生に変化を起こせる」(辰巳出版)

早期の成功者より、遅咲きの成功者は最高の生き方を手に入れる 作者:リッチ・カールガード 辰巳出版 Amazon 今は若くして結果を出すことが求められている。結果を出せずに歳を重ねた者は、将来に希望を持てずに生きていかなければならない未来が待っている。…

和田博文著「三越 誕生!:帝国のデパートと近代化の夢」(筑摩選書)

三越 誕生!: 帝国のデパートと近代化の夢 (筑摩選書) 作者:博文, 和田 筑摩書房 Amazon 本書は、日露戦争勝利により東アジアの帝国としての地位を確立していく近代日本と軌を一にするように、三越呉服店がデパートメントストア宣言を掲げ、呉服店からの脱却…

タミー・ジョンズ&リンダ・グラットン著「バーチャル・ワーク:第三の波」(ダイヤモンド社)

バーチャル・ワーク第三の波 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文 作者:タミー・ジョンズ,リンダ・グラットン ダイヤモンド社 Amazon この論文の邦訳は2015年である。 年表を前提に置いた上でこの論文を読むと、COVID-19によって世界的に当たり前と…

山本太郎著「感染症と文明:共生への道」(岩波新書)

感染症と文明――共生への道 (岩波新書) 作者:山本 太郎 岩波書店 Amazon 本書の著者は長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の山本太郎教授である。政治家のほうは同姓同名の赤の他人である。 本書を読んだのはCOVID-19の初年度である令和2(2020)年…

ジョン・ガーズマ&マイケル・ダントニオ著,有賀裕子訳「女神的リーダーシップ:世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である」(プレジデント社)

女神的リーダーシップ ~世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である 作者:ジョン ガーズマ,マイケル ダントニオ プレジデント社 Amazon 男らしい 男気あふれる 女々しい 女の腐ったような とりあえず形容の言葉を挙げてみたが、そして、挙げ…

ドネラ・H・メドウズ著,枝廣淳子訳「世界はシステムで動く:いま起きていることの本質をつかむ考え方」(英治出版)

世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方 作者:ドネラ・H・メドウズ 英治出版 Amazon システムエンジニアという職業は、コンピュータの専門家であるというのは間違いではないのだが、本質を突き詰めると仕事をするための仕組みを作…

ジェイコブ・ソール著,村井章子訳「帳簿の世界史」(文春文庫)

帳簿の世界史 (文春文庫) 作者:ジェイコブ・ソール 文藝春秋 Amazon 人間が複数いれば必ず社会が生まれ、社会が正常に機能するためには経済を機能させなければならない。経済を無視して社会を動かそうとすると必ず社会のほうが破綻する。極論すればいかなる…

田辺旬著「戦死者たちの源平合戦:生への執着、死者への祈り」(吉川弘文館)

治承3(1179)年11月17日。治承三年の政変。平家が日本国の天下を獲得。 元暦2(1185)年3月24日。壇ノ浦の戦い。平家滅亡。 この間、わずか5年半である。令和が始まってから本記事公開までの時間とほぼ同じだけの期間で、権勢を誇った平家は滅び、流人であった…

平雅行編「公武権力の変容と仏教界(中世の人物 京・鎌倉の時代編 第三巻)」(清文堂出版)

平安時代叢書は現在、第十九集の公開を開始している一方、筆者は第二十集の執筆を始めたところである。時代としては鎌倉幕府成立以後の鎌倉と京都の関係であり、文字通り平安時代が終わって鎌倉時代が始まる頃である。 承久の乱と朝廷 後鳥羽院~万能の君の…

野口実編「治承~文治の内乱と鎌倉幕府の成立(中世の人物 京・鎌倉の時代編 第二巻)」(清文堂出版)清文堂出版

平安時代叢書でも最大のボリューム数となっている「平安時代叢書 第十七集 平家物語の時代 ~驕ル平家ハ久シカラズ~」、「平安時代叢書 第十八集 覇者の啓蟄 ~鎌倉幕府草創前夜~」にもかなり引用した論文集である。 本書掲載の論文の構成は以下のとおりと…

元木泰雄編「保元・平治の乱と平氏の栄華(中世の人物 京・鎌倉の時代編 第一巻)」(清文堂出版)

平安時代叢書がそれまでの藤原摂関家の描写から院政期の描写に移る、「平安時代叢書 第十五集 鳥羽院の時代」と「平安時代叢書 第十六集 平家起つ ~平家ニ非ズンバ人ニ非ズ~」を執筆中に大いに参照した論文集である。 以下に本書に取り上げられた論文を記…

高島正憲著「賃金の日本史:仕事と暮らしの一五〇〇年」(吉川弘文館)

正倉院は奈良時代の物品を残すタイムカプセルなだけではなく、奈良時代の記録も伝えてくれている。その中には、奈良時代の官僚の給与も存在する。貨幣経済を試みた律令制の日本は貨幣による賃金も試み、結果としてどの職の人がどれだけの賃金を得てきたのか…

森達也著「虐殺のスイッチ:人すら殺せない人が、なぜ多くの人を殺せるのか?」(ちくま文庫)

本書は2018年に同書名で出版芸術社より刊行された書籍の文庫版であるが、単なる文庫化ではなく、文庫化されるにあたって大幅な加筆修正が加えられている。5年を迎えた2023年までの間に世界が対面したこと、そして、本記事を書いているまさにこの段階で起こっ…

ダニー・ドーリング著,遠藤真美訳「Slowdown:減速する素晴らしき世界」(東洋経済新報社)

団塊ジュニアの氷河期世代は良い思いを全くしていない。我慢して厳しい競争を勝ち抜いて、さあ、これから学歴に見合った職について人生を謳歌しようというタイミングで就職先がなくなり、就職先を探しても無視され、一人の事務職の募集に百人以上の大卒が履…

村井康彦著「藤原定家:『明月記』の世界」(岩波新書新赤版)

藤原定家。日本の古典文学に多少なりとも触れた者であれば絶対にかかわる人物である。歌人としての実績、新古今和歌集の撰集者としての実績、小倉百人一首の撰者としての実績、そして、源氏物語をはじめとする平安文学の写本を現在まで残すこととなる写本の…

青柳いづみこ著「パリの音楽サロン:ベルエポックから狂乱の時代まで」(岩波新書 新赤版)

ネットの普及がもたらしたものの一つとして、表現者に表現の舞台を用意したという点が挙げられる。ネットが普及する前、表現者は出版社に持ち込むか、あるいは自ら作品を物理的に作り出して公表するしかなかった。現在は自らの作品をネットに載せることによ…

エリック・ウォール著,住友進訳「UNThink:眠れる創造力を生かす、考えない働き方」(講談社)

創造性が天賦の才能ではないというのはアダム・グラント氏も述べていることであるが、本書の著者であるエリック・ウォール氏もまた、天賦の才能では無く、既成概念から解き放たれ、創造的天才の無限の可能性を受け入れるよう促しながら、人間の心の魅惑的な…

アダム・グラント著,楠木建監訳「GIVE & TAKE:『与える人』こそ成功する時代」(三笠書房)

本書の著者は人間のタイプを以下の三つに分けている。 ギバー:人に惜しみなく与える人 テイカー:真っ先に自分の利益を優先させる人 マッチャー:損得のバランスを考える人 さて、上記の三つのタイプのうち最も成功するのは誰であろうか? 一見すると攻撃的…