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中川右介著「1968年」(朝日新書)

1968年 (朝日新書)

1968年、昭和で記すと昭和43年。この一年を日本国の歴史で捉えると文化的に大きな変革を迎えた一年であった。その一年を当時は8歳であった著者がまとめている著作である。

ただ、本書に対する評判はあまりにも高いものとは言えない。特に、この一年を10代後半から20代前半で迎えた人達にとっては、当時子どもであった著者が自分達の大切な一年を論評したということでかなりの不満が渦巻いている一冊である。

本書が主眼を置いているのは、あしたのジョー巨人の星といったコンテンツの勃興や、高倉健石原裕次郎といったスーパースター達の起こした反乱、日本中を震撼させた三億円事件といった面であり、この頃に社会問題となっていた学生運動についてはさほど重要視しておらず、何ならその記載も細部では間違っている。ゆえに、その時代に学生運動に身を投じていた人達からすると、自分達がやってきたことが全否定されているということで、激しい怒りとともに本書に対する悪評をぶつけることとなる。

ただ、それは悪評をぶつける方が間違っている。後世からの視点では、学生運動などどうでもいいことなのだ。あるいは、学生運動をするレベルまで落ちぶれたくはないといった感情といったところか。重要なのはコンテンツであり、スターであり、世を騒がせた事件であって、話し合いの通用しない愚人どものやらかした蛮行などどうでもいいのだ。

本書は、その一年を後世の視点から記したリアルな1968年の記録なのである。