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鷲田清一著「京都の平熱:哲学者の都市案内」(講談社学術文庫)

京都の平熱 哲学者の都市案内 (講談社学術文庫)

京都とは何とも奇妙な都市である。徹底した人工的な都市でありながら、雄大な歴史が都市全体に重なって日本随一の歴史都市となっている。ゆえに、観光客や修学旅行の学生の多くは京都の歴史を巡ろうとする。

しかし、京都は現在進行形で日本有数の大都市である。百万都市の一つであり、世界的な知名度を持つ企業が本社を置く産業都市である。実際、四条通を東西に歩くときに感じるのは大都市の様相であって、歴史の様相ではない。地名にこそ歴史が宿るが、歩いて感じるのは大都市の中心というインパクトである。

本書の著者である鷲田清一氏は京都生まれ京都育ちの哲学者であり、著者の人生は終戦直後の京都から昭和~平成へと移り変わる京都と重なる。すなわち、観光都市ではない京都のあるがままの姿を見てきた人物であり、その人物が京都市バス206系統という日常の路線バスを軸に、京都の街並み、人、文化、記憶、京都の当たり前の日常を描いたのが本書である。

もっとも、時代のせいと考えておくべきか、学生運動を肯定して回顧している部分は納得できない。このページは読んでいてつらく、一刻も早くこのページが終わらないかと考えながら読んでいた。正直言って学生運動肯定の部分で本書を投げ出したくなった。喩えていうなら、このところネットを賑わせているイジメ告発動画で、犯罪者が被害者を痛めつけているところを見なければならず、しかもそれを見てゲラゲラ笑っている動画内の土人どもと同レベルまで落ちぶれろと強要される感情だった。あの時代に学生運動に走ったことを恥じるなだまだしも、あの頃の犯罪を肯定している人はいったいどういう神経をしているのかと疑問を感じたが、その疑問はなおも深まった。

その点以外は、京都愛が溢れすぎている部分、そして、観光ガイドとして役立たないほどに京都の当たり前の光景を紹介しているという点も含めて、価値のある一冊と言える。