德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョン・K・ガルブレイス著,村井章子訳「大暴落1929」(日経BPクラシックス)

世界恐慌の始まりがどのようなもので、世界恐慌前史から恐慌の推移について記した著作はたくさんある。本書も1955年に刊行された同種の書籍のうちの一つである。 しかし、本書は同種の書籍の中で類を見ないペースで再販が繰り返され、邦訳も何度も繰り返し刊…

ロレッタ・ナポリオーニ著,村井章子訳「イスラム国:テロリストが国家をつくる時」

2015年、一つのネットミームが世間を騒がせた。 日本のネットユーザーがTwitter(現𝕏)でハッシュタグを付けてISISを揶揄する画像投稿を繰り返したのである。 ISISが二人の日本人を誘拐して身代金を要求し、人質を脅迫する画像を投稿する。ここまではISISの…

ピーター・ティール著,関美和訳「ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか」(NHK出版)

本書について記すに当たり、前もって記しておきたいことがある。 変化を嫌う人 現状維持のままでいいと考える人 自分は革新的だと考えていながら、実際にやっていることは誰かの批判だけであるという人 そうした人は本書を読まない方がいい。 なぜか? 本書…

おしおしお画集「青の日々」(一迅社ブックス)

2024年6月現在、一つのネットミームが流行っている。7月放送開始のテレビアニメ「しかのこのこのここしたんたん」のオープニングテーマ「シカ色デイズ」のイントロ部を1時間に亘って繰り返している動画である。 漫画「しかのこのこのここしたんたん」は、漫…

ヨリス・ライエンダイク著,関美和訳「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」(英治出版)

日付が変わるまで残業し、休日出勤も当たり前。会社に泊まることも珍しくなく、社員はことごとく疲れきっている。日本の労働環境か? 否、ロンドンの金融街、通称「シティ」の人たちである。 拘束具合だけ見ると日本の労働環境と同じように見えるが、日本と…

赤坂恒明著/日本史資料研究会監修『「王」と呼ばれた皇族:古代・中世皇統の末流』(吉川弘文館)

長屋王、以仁王、忠成王など、歴史上何人も「親王」ではなく「王」と資料上に名が残されている皇族がいる。なぜ親王とならなかったのか、なぜ王と呼ばれ皇室とどのような関わりを持ち、社会においてどのような役割を背負ってきたのかを記す一冊である。 あま…

ジェイムズ・ブラホス著,野中香方子訳「アレクサ vs シリ:ボイスコンピューティングの未来」(日経BP)

去年からOpenAIが話題になっている。しかし、AI自体が話題になったのはもっと前からで、少なくとも1950年代にはAIの概念が誕生している。東西冷戦の渦中にあって機密文書に記されたロシア語を英語に自動翻訳する需要が誕生し、言語の分析が進んだ。この時点…

ハイケ・ブルック&スマントラ・ゴシャール著,野田智義訳「アクション・バイアス:自分を変え、組織を動かすためになすべきこと」(東洋経済新報社)

優秀な人を集めれば優秀な組織ができあがる。 多くの人はこのように考えるが、世の中を見渡すと実に多くの組織で優秀な人を集めているはずなのに組織として機能していない情景を目にすることができる。 なぜか? マネジメントに失敗しているのだ。 一人のプ…

ジェームズ・K・セベニウス&R・ニコラス・バーンズ&ロバート・H・ムヌーキン著,野中香方子訳「キッシンジャー超交渉術」(日経BP)

想像してしまうことがある。もし、キッシンジャーがまだ外交の第一戦で健在であったならば、と。 中東戦争でカイロからスエズまでの高速道路をイスラエルが占領したために、エジプトはスエズまでの補給路が断たれ、日用品などの非軍事物資をスエズまで送るこ…

スティーヴン・グリーンブラット著,河野純治訳「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」

中世ヨーロッパを暗黒時代と捉えるのは必ずしも正しいとはいえない。 しかし、古代ギリシャや古代ローマの文化や芸術が一度断絶し、現在の我々が目にすることのできる記録のいくつかを、その時代は知ることのなかった、忘れ去られてしまっていた、そういう時…

ゲオルク・フリードリヒ・クナップ著,小林純&中山智香子訳「貨幣の国家理論」(日本経済新聞出版)

現代貨幣理論(MMT)に対する是非はともかく、MMTという概念が誕生したかを問うと、多くの人は近年になって提唱された概念であると考えるであろう。 しかし、少なくとも1905年には貨幣の価値が物々交換のための自発的な商品貨幣という意味合いよりも、国家によ…

セス・ゴーディン著,神田昌典監訳「セス・ゴーディンの出し抜く力:先がわかる人は、何を見ているか」(三笠書房)

マーケティングに関する著作を数多く残しているセス・ゴーディンは、なかなか毒舌な人である。たとえば弊作「SE山城京一のドラッカー講座」でも引用したセス・ゴーディンの「『紫の牛』を売れ!」のこのフレーズは多くの人が知るところであろう。 マネジメン…

マイケル・マンキンス&エリック・ガートン著,斎藤栄一郎訳「TIME TALENT ENERGY:組織の生産性を最大化するマネジメント」(プレジデント社)

本書は2017年に刊行された "Time, Talent, Energy: Overcome Organizational Drag and Unleash Your Team's Productive Power" の邦訳版である。ただし、邦訳時にショッキングな現実も付加している。日本企業の組織生産力が世界平均の80%でしかないという現…

ウェイン・アリン・ルート著,弓場隆訳「ユダヤ人億万長者に学ぶ「不屈」の成功法則」(サンマーク出版)

成功したビジネスパーソンは何をして成功したのか? 運か、それとも天賦の才か? 著者の答えは違う。著者の答えはただ一つ、「屈しない」だ。 著者は本書に於いて、自らの体験から成功の原則を洞察し、読者に喚起を促しつつ、自らと同じ成功体験、すなわち、…

猪木武徳著「自由の思想史:市場とデモクラシーは擁護できるか」(新潮選書)

日本語の「自由」に相当する英単語は二つある。Liberty と Free である。 たとえば、選挙で投票する自由は Liberty 。つまり、既に存在する権利としての自由である。しかし、80年前は女性であるというだけで、100年前は納める税が少ないからという理由でその…

スリニ・ピレイ著,千葉敏生訳「ハーバード×脳科学でわかった究極の思考法」(ダイヤモンド社)

考える力をより強固に発揮するにはどうすべきか? よく見られる光景は一心不乱に集中することである。他からジャマされることなく集中し、考えて、考えて、考え抜いて、結果を出す。良くある光景である。 ところが、本書はその光景をあっさりと否定する。 過…

エヴァン・I・シュワルツ著,桃井緑美子訳「発明家たちの思考回路:奇抜なアイデアを生み出す技術」(HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)

「人間は、歩く機械をつくろうとして車輪を発明したが、車輪は足に少しも似ていない」とは本書にある言葉である。 よく、必要は発明の母というが、実際の発明は必要に応えて繰り広げられるものではなく、本書は発明の初期段階として すでに利用されているも…

ジョアン・C・トロント著,岡野八代監訳,相馬直子・池田直子・冨岡薫・對馬果莉訳「ケアリング・デモクラシー:市場、平等、正義」(勁草書房)

先日𝕏(旧Twitter)で話題になった投稿があった。「介護は突然やって来る」と題された漫画での実体験であり、本投稿の内容は多くの人が体験しながら、実際に体験するまでは自分の身に降りかかってくると想像だにしないことである。 介護は突然やってくるは本…

ウィリアム・A・コーエン著,フランシスコ・スアレス編,井口耕二訳「ドラッカー全教え:自分の頭で考える技術」(大和書房)

無理な仕事をさせる権利などない。 善人を破滅させる権利などない。 人身御供に出せるほど若者はたくさんいない。 至言である。 本書は、ピーター・ドラッカーがはじめたプログラムの最初のエグゼクティブPhD卒業生であるウィリアム・コーエンによって書かれ…

ロバート・スコーブル&シェル・イスラエル著、滑川海彦&高橋信夫訳「コンテキストの時代:ウェアラブルがもたらす次の10年」(日経BP)

電話架けてくる。メールを送りつける。煩わしい広告を載せる。大多数が迷惑と思っていても、2%が「この商品(orサービス)買ってみるか」と動いてくれれば成功だ。迷惑だと感じる98%の不満なんか、「どうでもいい」。(本書より引用) これは本書にある一節…

イアン・ブレマー,フランシス・フクヤマ,ニーアル・ファーガソン,ジョセフ・ナイ,ダロン・アセモグル,シーナ・アイエンガー,ジェイソン・ブレナン著,大野和基訳「民主主義の危機 AI・戦争・災害・パンデミック:世界の知性が語る地球規模の未来予測」(朝日新書)

民主主義には一つの建前がある。皆が決めたことであるという建前である。 民主主義には一つの欠陥がある。決めたのは赤の他人だという欠陥である。 思い出していただきたい。ウクライナは選挙によって大統領を選ぶ国であり、ロシアも選挙によって大統領を選…

リンダ・グラットン&アンドリュー・スコット著,宮田純也&未来の先生フォーラム監修「16歳からのライフ・シフト」(東洋経済新報社)

本書は LIFE SHIFT を高校生向けに、すなわち、これから社会人となり、人生100年時代の残り80年以上の人生を過ごすことになる方々に向けて解説した書籍である。 これまでの人類は、青年期を迎えるまでは学び、青年期を迎えてから働き、老年期を迎えて老後に…

三宅香帆著「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(集英社新書)

本書の表題から察するに、本書は「働いているとどうして本を読めなくなるのかを解説する本だな」と思わせる。思わせておいて、明治維新から現在に至るまでのこの国における読書状況、読書傾向をまとめた歴史書であり、その結果を踏まえた上で表題の解説をし…

スザンヌ・キシュティ&ヤノシュ・バーベリス著,瀧俊雄監修,小林啓倫訳「FinTech大全:今、世界で起きている金融革命」(日経BP)

まず記しておくべきことは、本書が2015年に刊行され、2017年に邦訳された一冊であるという点である。ゆえに、最新では無い。何なら10年前とまで言ってもいい。 だが、最新で無いことと、読む価値の有無とは何ら連動しない。もっと言えば、本書に記されている…

井上寿一著「戦争と嘘:満州事変から日本の敗戦まで」(ワニブックスPLUS新書)

SNSにはデマが溢れていると嘆く人がいる。 それは完全に間違いというわけではないが、正しい描写ではない。 SNSがあろうが無かろうがデマは日常に存在している。SNSはそのデマを可視化したに過ぎないし、もっと言えば、デマを訂正する機能すら有している。デ…

アンドリュー・スコット&リンダ・グラットン著,池村千秋訳「LIFE SHIFT 2:100年時代の行動戦略」(東洋経済新報社)

前著 LIFE SHIFT が話題になったのは2016年。それから5年後の2021年にその続編の邦訳版が刊行された。 ちなみに、前著の書評は以下のリンク先を参照。 rtokunagi.hateblo.jp 前著刊行から本書刊行までの間に、世界は大きなうねりに呑み込まれた。COVID-19に…