いささめに読書記録をひとしずく

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

ジェームス・M・バーダマン&里中哲彦著「はじめてのアメリカ音楽史」(ちくま新書)

はじめてのアメリカ音楽史 (ちくま新書)

年末になるとベートーヴェン交響曲第九番、いわゆる「第九」が流れる。第九は今でこそクラシックの名曲となっているが、作品発表当時は斬新な音楽であり、当時の最先端の音楽であった。ナポレオン戦争後の貧困に喘ぐウィーンだからこそ生まれた音楽であり、その音楽が広い地域に広まったからこそ現在も愛される名曲になった。音楽の教科書にも載る音楽になった。第九は学びを伴う音楽という認識がある。

同様の現象はアメリカ音楽についても言える。氷河期世代アメリカ音楽を聴くと、それは同時代の流行曲、もしくは上の世代の流行曲と感じるであろう。多かれ少なかれ20世紀の音楽はアメリカ音楽の影響を受けている。氷河期世代の多くはアメリカ音楽そのものだけでなくその影響を受けた音楽を受けた諸々の音楽に包まれてきた人生を送ってきており、本書に掲載されている音楽のタイトルを目にすると、あるいは本書に掲載されている音楽を実際に聴くと、そこには同時代の音楽を感じる。

一方、今世紀生まれが本書に掲載されているアメリカ音楽を聴いた場合、そこに感じるのは古典の名曲であり、音楽の教科書に載っている音楽という認識である。音楽を楽しむのではなく音楽を学ぶというスタンスになる。

そして、この音楽を学ぶというスタンスをもう一段掘り下げるとどうなるか?

本書になる。

本書はアメリカ音楽の歴史を二名の著者での対談形式で進めている一冊である。そこには音楽に対する評論だけでなく、音楽が生まれた当時のアメリカの社会情勢、すなわち、肌の色による差別、奴隷制廃止のあともなおも続いた冷遇、肌の色による分断は相互に相容れることなく独自の文化となった一方、分断の壁を乗り越えることによって新たな文化が生まれ、そこに差別撤廃、権利の増進、そして、今まで自分達がやってきたことは許されざる差別であり決して繰り返してはならないことであるという認識が醸成される。

音楽は抑圧の中での抵抗の方法であり、また、抑圧の中での数少ない楽しみであった。その意味で、ナポレオン戦争後のベートーヴェン能美出した音楽と同様、社会が生み出した音楽であるがゆえに多くの人の心を掴み、時代を超えることで教科書に載る作品になるという経緯を有する。

本書はたしかにアメリカ音楽の歴史についての対談である。だが、それは同時に、アメリカあの社会の推移、そして、その時代の生み出した社会の中で冷遇されてきた人々の叫びが存在する。音楽を楽しむだけでなく、音楽を学ぶことで、一つの歴史を目の当たりにすることとなる。