德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ランジェイ・グラティ著,山形浩生訳「DEEP PURPOSE:傑出する企業、その心と魂」(東洋館出版社)

Purpose、日本語に訳すと「目的」。 ビジネスシーンに於いては「企業の存在意義」。 単に金儲けをすることだけが企業の存在意義なわけではなく、企業がこの世に存在することによって社会に貢献することが求められる。環境問題や人権問題といった社会問題に目…

ヴィクトール・E・フランクル著,池田香代子訳「夜と霧」(みすず書房)

X(旧Twitter)を見ると危険な言説が見えてくる。コミュニティノートでの是正は存在するものの、コミュニティノートが付くことも無くエコーチェンバーでより過激な意見が広まるのは今も止まらない。 その結末がどのようなものか。歴史は答えを示している。数…

リード・ブラックマン著,小林啓倫訳「AIの倫理リスクをどうとらえるか:実装のための考え方」(白揚社)

本書「AIの倫理リスクをどうとらえるか:実装のための考え方」(原著名 "Ethical Machines: Your Concise Guide to Totally Unbiased, Transparent, and Respectful AI" (倫理的な機械: 完全に公平で透明性があり、尊敬に値するAIへの簡潔なガイド))は原…

トマ・ピケティ著,山形浩生&森本正史訳「資本とイデオロギー」(みすず書房)

紙書籍版8月24日店頭販売開始 Kindle版12月1日配信開始 日本に生まれ、日本に育ち、日本で暮らしていると、自分が特異な環境に生きていることに気づかないのかもしれない。 昭和生まれの人間であれば、過去に二度、日本に政権交代が会ったことを覚えているは…

ピーター・シムズ著,滑川海彦&高橋信夫訳「小さく賭けろ!」(日経BP)

2023年8月17日、PLOS ONEに1本の論文が掲載された。The effectiveness of Japanese public funding to generate emerging topics in life science and medicine(生命科学と医学における新たなトピックを生み出すための日本の公的資金の有効性)という論文で…

ハリー・G.・フランクファート著,山形浩生訳「不平等論:格差は悪なのか?」(筑摩書房)

人類が文明を手に入れてから1万年。人類は様々な社会体制、政治体制、経済体制を生み出してきたが、ついぞ、不平等を無くした社会体制、政治体制、経済体制を作り上げることは無かった。後の子孫が不平等無き時代を創り出す可能性は否定しないが、その可能性…

ティモシー・スナイダー著,池田年穂訳「ブラックアース:ホロコーストの歴史と警告」(慶應義塾大学出版会)

遠く離れた極東の島国で、このように言う人がいる。「ウクライナは抵抗を諦めロシアの侵略を受け入れるべきだ」と。正気かと思ってしまう言葉であるが、この言葉を話している本人は正気である。それこそが戦争を回避できる方法だと真剣に思っているからこそ…

タイラー・コーエン著,渡辺靖解説,池村千秋訳「大分断:格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像」(NTT出版)

本書「大分断:格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像」の原著名は "The Complacent Class: The Self-Defeating Quest for the American Dream"、直訳すると「満足する階級:アメリカン・ドリームへの自滅的探求」である。原著名のタイトルから想像でき…

タイラー・コーエン著,若田部昌澄解説,池村千秋訳「大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか」(NTT出版)

今年になって急に話題になった感のある Open AI 。システムエンジニアとして実際に触ってみたが、少なくともJavaScriptのコーディングをさせる場合、人間にコーディングさせるよりも素早くできることは確認できた。 さて、本書「大格差:機械の知能は仕事と…

タイラー・コーエン著, 若田部昌澄解説,池村千秋訳「大停滞:経済成長の源泉は失われたのか?」(NTT出版)

「大停滞:経済成長の源泉は失われたのか?(原著名 "The Great Stagnation: How America Ate All the Low-Hanging Fruit of Modern History, Got Sick, and Will (Eventually) Feel Better")」は、経済学者タイラー・コーエンが2011年に著した著作である。…

アンガス・ディートン著,松本裕訳「大脱出:健康、お金、格差の起原」(みすず書房)

「大脱出:健康、お金、格差の起原(原著名 "The Great Escape: Health, Wealth, and the Origins of Inequality")」は2013年に出版された、経済発展と貧困の関係について深く掘り下げた一冊である。 著者のアンガス・ディートン氏は「消費、貧困、福祉」に…

ダニ・ロドリック著,柴山桂太&大川良文訳「グローバリゼーション・パラドクス:世界経済の未来を決める三つの道」(白水社)

民主主義を犠牲にしてでもグローバル化を進める グローバル化を進めるとともに政治統合を推進させ、グローバル民主主義を実現させる 各国の政策的自律性を保証し、国家レベルでも民主主義を維持する代わりに、グローバル化に一定の制限を加える 上記の3つの…

エドワード・グレイザー著,山形浩生訳「都市は人類最高の発明である」(NTT出版)

都市がいかに人的資本、アイデア、経済活動を集中させ、生産性の向上と繁栄につながっているかを論じているのが本書である。 自給自足は経済の無駄遣いである。食糧生産も、衣服の生産も、住まいの建設も、自分一人、ないしは集落の内部で完結させるような経…

後藤文康著「誤報:新聞報道の死角」(岩波新書)

2023年8月2日に名古屋市のCSアセット港サッカー場で発生した浦和レッズサポーターの件で、誤報による騒動が起こっている。 本格スポーツ議論ニュースサイト「RONSPO」によると、浦和レッズサポーターの起こした暴力行為を浦和レッズの本部長が否定していたと…

ジョージ・A・アカロフ&ロバート・J・シラー著,山形浩生訳「不道徳な見えざる手」(東洋経済新報社)

本書は昨日公開した「アニマルスピリット:人間の心理がマクロ経済を動かす」の続編である。 t.co 前作はケインズの言葉から発展させた行動経済学によるマクロ経済の分析と経済問題に対する対処法を提言しているのに対し、本書はアダム・スミスの「見えざる…

ジョージ・A・アカロフ&ロバート・J・シラー著,山形浩生訳「アニマルスピリット:人間の心理がマクロ経済を動かす」(東洋経済新報社)

日本で2009年と言えば悪夢の入り口の年であるが、世界では金融危機(リーマンショック)の最悪期である。その最悪期に著された著作が "Animal Spirits: How Human Psychology Drives the Economy, and Why It Matters for Global Capitalism" であり、本書は…

ジリアン・テット著,土方奈美訳「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」(文藝春秋社)

1999年のラスベガスでのソニーの出井伸之CEOは新しいウォークマンを披露した。それも、複数。さらに言えば相互にウォークマンを発表した。どうしてこのようなことが起きたのか?本書の作者ジリアン・テット氏はこれを「サイロ化(the Silo Effect)」と呼んで…

クリスティーン・ポラス著,夏目大訳「Think CIVILITY:「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」(東洋経済新報社)

この世には無礼な人がいる。人前で怒鳴り散らす人、部下に暴言をぶつける人、怒りのまま言葉をぶちまける人がいる。 そうした人が顧客なら、また、そうした人が同僚なら、職場はどうなるか。 従業員は健康を害し、職場は金銭的損失を計上し、仕事の質を著し…

アダム・トゥーズ著,江口泰子&月沢李歌子訳「暴落:金融危機は世界をどう変えたのか」(みすず書房)

上下巻合わせて890ページの大著であることを感じさせぬ、ページを次また次へとめくらせる躍動感は、翻訳された江口泰子、月沢李歌子両氏の計り知れぬ苦労があったことであろう。何より恐るべきは、これが金融危機(リーマンショック)の始まりから終了までを…

ニーアル・ファーガソン著「キッシンジャー 1923-1968 理想主義者」(日経BP)

ハーバード大学の卒業論文には論文の長さについて規制がある。35,000ワード以内であること、または、140ページ前後であることがそれである。ハーバード大学はなぜそのようなルールを設けたのか? そのルールの生みの親こそ、本書の主人公であるヘンリー・キ…

アダム・トゥーズ著,山形浩生&森本正史訳「ナチス 破壊の経済:1923-1945」(上・下)(みすず書房)

小野寺拓也氏と田野大輔氏が上梓された「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」がかなりの売れ行きを見せている。ネットや一部の書籍で観られるナチスの行動や政策について擁護する意見を、論拠をもとに否定する書籍であり、見事なまでにナチスが良いこと…

ブライアン・カプラン著,月谷真紀訳「大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学」(みすず書房)

今から100年前、大卒は100人に1人いるかいないかであった。100年前の大卒はこの国を戦争に導いた。 今から50年前、大卒は100人に10人ほどであった。50年前の大卒はヘルメットをかぶって棒っきれ持って暴れた。 今から25年前、大卒は100人に30人ほどであった…

ダニエル・ピンク著「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」(三笠書房)

本書の原著である A Whole New Mind には副題がある。Why Right-Brainers Will Rule the Future(なぜ右脳が未来を支配するのか)がそれだ。原著の副題からも想像できるように著者であるダニエル・H・ピンク氏が主張しているのは、これからの人類の未来が創…

ティモシー・スナイダー「ブラッド・ランド:ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実(上・下)」(筑摩書房)

ウクライナはなぜロシアの侵略にここまで抵抗し続けるのか。占領と言えば昭和20年からのGHQしか知らない日本人には、占領を受け入れることがどういう意味を持つのか理解できないかもしれないが、この本にはまさに地獄としか形容できない侵略の描写が続いてい…

ローレンス・フリードマン著,貫井佳子訳「戦略の世界史(上・下)」(日本経済新聞出版社)

戦術と戦略とはどう違うか? 戦術とは個々の局面で勝利を掴む方法であり、戦略とは最終的に勝利を手にする方法である。ゆえに、一つの場面を切り出すと勝利をしている、すなわち戦術では勝利をしているが、全体を俯瞰してみると負けている、すなわち戦略で負…

小野寺拓也&田野大輔著「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」 (岩波ブックレットNo.1080)

本書のタイトル「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?」という問いに対する回答であるが、「していない」が答えである。 ナチスが誕生してから100年を迎え、ナチス政権が誕生してから90年を迎え、ナチスが滅んでから78年を迎えている。当時の人は誰もがそ…

ギュスターヴ・ル・ボン著,桜井成夫訳「群衆心理」(講談社学術文庫)

2023年8月2日(水)21時過ぎ、名古屋市のCSアセット港サッカー場で、この日開催されたサッカー天皇杯4回戦の試合終了後に暴動が起こった。翌日の発表によると、暴動に加わった者は最低でも77名。ただし77名の中には暴動を食い止めようとして行動した者もいる。…

宮崎正勝著「生きものにあやつられた日本と世界の歴史」(実業之日本社)

人類は人類だけで文明を構築し、維持してきたのではない。食糧としてだけではなく、羊や蚕は衣服を生み出し、馬や牛は農耕の補助や輸送を担い、さらには海鳥のフンの蓄積がリン鉱石となることで、人類の歴史に絡んできた。ライト兄弟が飛行機を作り上げたと…

長尾宗典著「帝国図書館:近代日本の「知」の物語」(中公新書)

帝国図書館。それは、昭和24(1949)年まで上野に存在していた日本最大級の図書館であり、現在の国会図書館の前身にあたる図書館である。当時の一等国には必ず国営の図書館があることから、日本国最大の図書館、東洋一の図書館を築き上げようとしただけでなく…

P.F.ドラッカー「状況への挑戦」(ダイヤモンド社)

このような社長をどう思うか? ・誰であれ「さん」付けで呼ぶ。重役であろうと、新入社員であろうと、社外から派遣で来てもらっている人であろうと。 ・プライベートは絶対に会社の人間と会わない。休日のアウトドアで一緒に過ごす友人に仕事関係者はいない…