日本は海に囲まれた島国である。何を今更と思うかも知れないが、高校までの歴史の教科書で習う日本の歴史において海を扱うページというのは、そこまで多くはない。中国大陸からのコメや金属の伝来、遣唐使の航海の困難さ、日宋貿易や勘合貿易、江戸時代の廻船、そして元寇や倭寇といった戦いと、海に関連するページを挙げろと言われればそれなりに列挙できるが、無理して絞り出すといった感じでもある。そして、そこに一貫性はない。
しかし、この国の歴史学には網野善彦という偉人がいた。この人の手に掛かると、それまで歴史のスポットライトの当たることの無かった人達や地域、そして、歴史に於いて見逃されることの多かったが現在でも存在する共同体に光が当たる。
本書は、網野善彦という歴史学における圧倒的存在がそれまで世に送り出してきた小論のうち、海という括りでピックアップした小論をまとめた一冊である。そのような小論かは添付画像の目次を御覧いただければ御理解いただけるであろう。
日本の歴史と文化に於いて、海とは、人々を結びつけ、文化を融合させる「柔らかい交通路」としての役割を果たしていた存在である。そのことを本書は教えてくれる。