アジール。それは神聖にして統治権力が及ばない聖域。また、統治権力から一定の距離を置いた自治権を獲得している地域。
中世ヨーロッパでは教会が世俗権力から独立した聖域を形成し、都市が王侯の権力の及ばない自治権を獲得した自由を謳歌していた。
では、同時期の日本では?
本書は日本におけるアジールとして、比叡山や高野山、東大寺などの寺社勢力が国家権力から独立した聖域を形成し、中世日本における世俗の権力の及ばない避難所、そして、神聖なる別天地を構築していたことを書き記した書籍である。白河法皇は比叡山延暦寺を天下三不如意の一つに挙げたが、比叡山からすれば朝廷権力から独立した自由地域を形成することによって、閉ざされた、しかし自由で豊かな集団を形成していたのである。
中世日本の政治と宗教の関係を深く掘り下げ、アジールの概念がどのように形成され、発展してきたかを宗教の側に重心を置いて捉えると、寺社がどのようにして国家権力と対峙し、ときには朝廷権力と協力しながらも独自の地位を築いてきたかという視点になる。徹頭徹尾自己中心的であり多くの反感を生み出したものの、彼ら自身の内部において自由を構築したかを具体的な事例とともに見つめると、これまで見えてこなかった新たな日本史の姿が見えてくる。