德薙零己の読書記録

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志村史夫著「古代日本の超技術〈新装改訂版〉:あっと驚く「古の匠」の智慧」(講談社ブルーバックス)

古代日本の超技術〈新装改訂版〉 あっと驚く「古の匠」の智慧 (ブルーバックス)

日本各地に点在する古墳。これらは一体何のために作られたのか?

人口に膾炙されるところでは、皇族をはじめとする有力者の埋葬地である。その目的も当然あったろう。

しかし、本書が着目すべきポイントはそこではない。

古墳があることで周囲に何が起こっていたのか?

古墳を見上げ、祭祀に列し、有力者への敬意を抱き続けるという精神的な面はもちろんあったろうが、忘れてはならないのが、古墳の周囲に張り巡らされていた堀だ。この堀を、古墳を守るための防御施設とだけ考えていては浅慮に過ぎる。

堀がたたえる水。これが重要なのだ。水不足のときは田畑に水を供給し、水害時には水を引き込んで下流の被害を押しとどめる。極論すれば、古墳を構成する山とは堀を作るときに出てきた土を積み上げた山であり、巨大な古墳を作りあげることそのものよりも、巨大な山になればなるほどより多くの水をたたえる堀になることのほうが重要だったのだ。

これはあくまでも説の一つである。しかし、当時の人達が古墳を作るのに動員された理由を説明できるのだ。巨大な古墳を作れば作るほど自分達の暮らしが安定する可能性が高まるのだから、インセンティブとしては十分に働く。

本書には他にも、日本の木材や瓦の移り変わりと建物の快適性や堅牢性との関係性など、それまでの視点にはなかった理系的視点からの解説がまとめられている。素人からの判断であると訝しがるかもしれないが、一つ一つの視点は数学によって紐付けられた警官結果であり、また、著者自身や関係各者の協力のもと実験によって実証された視点である。

これらを学ぶことで、この国の技術、建造物、製品、そして暮らしは科学に基づいていたのだと知ることになるであろう。