本書は、2008年にノーベル経済学賞を受賞した経歴もある著者が、ニューヨーク・タイムズに連載していたコラムをまとめたものであり、その筆致は主にアメリカの保守派、当時の共和党政権に向けられている。政府も、連邦議会も、司法ですらも徹底的にこき下ろすのが本書の著者の筆力だ。
まず、本書のタイトルからして過激だ。「ゾンビ」とは高所得者への減税や気候変動を否定するアメリカ保守派の主張のことであるが、これは邦訳時に設けられたタイトルではない。原著名(”Arguing with Zombies: Economics, Politics, and the Fight for a Better Future")の直訳だ。
もとが新聞の連載コラムという不特定多数に向けられた媒体で公開されたコラムであるため、その矛先は医療、税制改革、社会保障、2007年から2008年にかけての金融危機(リーマンショック)など幅広いトピックに亘っている一方、複雑な経済概念を一般読者にもわかりやすく伝えている。「ゾンビ」はそのわかりやすさの象徴とすべき語でもある。
なお、私は原著ではなく邦訳版しか読んでいないが、原著と邦訳版の双方ともに読んだ人が言うには、「さすが、安心の山形訳」とのことで、単なる翻訳ではなく、原著を書き記したときの著者の心情をそのまま日本語に訳した文章になっているという。その点からも本書は読者を魅了するものとなっているとのことである。邦訳版しか読んでいない私にもその魅了は理解できることであった。
過激な筆致でお馴染みのポール・クルーグマンと、安心の山形訳のコンビネーションを味わえるのもまた、本書の魅力の一つである。