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ダニエル・ピンク著「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」(三笠書房)

本書の原著である A Whole New Mind には副題がある。Why Right-Brainers Will Rule the Future(なぜ右脳が未来を支配するのか)がそれだ。原著の副題からも想像できるように著者であるダニエル・H・ピンク氏が主張しているのは、これからの人類の未来が創造的で右脳的な思考を受け入れる個人のものであるというものである。

洞察に満ちた分析、説得力のある逸話、実践的なガイダンスによって、創造性、共感性、想像力が最も重要となる、情報時代から概念時代への深遠なシフトを探求するよう著者は読者を誘う。

それにしてもなぜ右脳的思考なのか?

本書の中心的なテーゼとなっているのは、急速に変化するグローバル経済で成功するためには、分析力や論理力だけで十分だという一般的な考え方に挑戦するものだというものだからだ。ルーティンワークの自動化が進むにつれ、問題解決に革新性や共感性、独自の芸術的視点を持ち込める人材への需要が著しく高まると著者は主張し、豊富な研究結果や実例を基準として、デザイン、共感、ストーリーテリング、遊びなど、右脳的な特性を培うことの重要性を説得力たっぷりに説いている。

著者の選択は、複雑な概念を、そのテーマに詳しくない人でも理解しやすくさせるものである。すなわち、科学的知見、歴史的文献、個人的な物語をシームレスに織り交ぜながら、彼の主張を支えているのが本書の特徴である。その中には建築家フランク・ゲーリーの型破りな設計プロセスや、アップルのような革新的な企業の成功などの逸話を用いることからも、著者の意図するところは御理解いただけるであろう。

本書は、コンセプチュアルな時代に成功するために不可欠だと考える、

  • 「機能」だけでなく「デザイン」
  • 「議論」より「物語」
  • 「個別」よりも「全体の調和」
  • 「論理」ではなく「共感」
  • 「まじめ」だけではなく「遊び心」
  • 「モノ」よりも「生きがい」

の6つの必須適性によって思慮深く構成されており、それぞれが本書において一つの節を構成している。各節には示唆に富む洞察と実践的な練習が満載であり、読者は自分自身の強みと成長分野について考えることができる。この体系的なアプローチは、読者が本書の教訓を内面化するだけでなく、創造的で総合的な思考能力を育むための実行可能な一歩を踏み出す力を与えてくれる。

たしかに、右脳的思考が牽引する未来というピンクのビジョンは説得力がある一方で、彼は複雑な雇用市場と左脳的スキルの役割を単純化しすぎているという批判もあるかもしれない。左脳的思考と右脳的思考という二分法は、有用な比喩ではあるが、学際的な世界で成功するために必要なスキルの全容を捉えてはいない。加えて、本書は時折、過度に杓子定規なアドバイスに走り、創造的成長に向けた個人の旅を制限する可能性があることも否めない。

しかし、本書は、現代社会における成功のダイナミクスの変化について新鮮な視点を提供している。これからの時代における教育、仕事、個人の成長へのアプローチ方法を読者に再考させる、示唆に富んだ読み物であることに変わりはない。あなたがアーティストであれ、起業家であれ、教育者であれ、あるいは単に移り変わる未来の潮流に適応しようとしている人であれ、本書はあなたの右脳的適性を育むための貴重な洞察を提供してくれるはずである。