德薙零己の読書記録

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ダニ・ロドリック著,柴山桂太&大川良文訳「グローバリゼーション・パラドクス:世界経済の未来を決める三つの道」(白水社)

  1. 民主主義を犠牲にしてでもグローバル化を進める
  2. グローバル化を進めるとともに政治統合を推進させ、グローバル民主主義を実現させる
  3. 各国の政策的自律性を保証し、国家レベルでも民主主義を維持する代わりに、グローバル化に一定の制限を加える

上記の3つの選択肢の全てを満たすことはできない。グローバル市場と国民国家の合体した重商主義。グローバル市場と民主主義を組み合わせた連邦制、たとえばEU。そして、国民国家と民主主義との組み合わせ。これらは存在するが、グローバル市場、かつ、国民国家、かつ、民主主義。この三つは共存しない。それが本書の骨子である。

現在の地球上に存在する全ての国はグローバル化から逃れることはできない。それこそ北朝鮮ですら逃れることはできない。経済も、文化も、政治についても、国際的な交流は増加する一方であり、COVID-19があろうとロシアの侵略戦争があろうと、流れは止まることがない。

一般に、グローバル化は必ずしも豊かさを生み出すとは言い切れないとされる。経済成長を促進し、新たな市場や雇用機会を生み出すことで貧困を軽減することもある。人口の最も貧しい部分の平均所得が毎年着実に成長しているという統計結果もある。その一方で、グローバル化は貧富の格差を拡大する可能性もある。開放性がある国では、グローバル化が早い成長や貧困削減につながる可能性がありますが、それは自由市場改革とともに行われなければならないという指摘もある。

この一般論に対し、著者は本書において、グローバリゼーションは多大な経済的利益をもたらすが、その代償として民主的統制の低下や国家制度の弱体化を招くことが多いとしておる。歴史的な事例、ケーススタディ、経済理論を駆使して彼の主張を支持し、これらの目標を追求する際のトレードオフについて包括的な分析を繰り広げた結果、国際機関が課す政策が、国民の意向を反映した意思決定を行う国家能力をいかに損ない、社会的・政治的反発を招く可能性があるかを強調することになっている。

本書に対する考えは完全同意から完全否定まで幅広くあるだろうが、グローバル化した世界をナビゲートする際に内在する複雑性とトレードオフに対する理解を深めるための一冊であることは間違いない。