Purpose、日本語に訳すと「目的」。
ビジネスシーンに於いては「企業の存在意義」。
単に金儲けをすることだけが企業の存在意義なわけではなく、企業がこの世に存在することによって社会に貢献することが求められる。環境問題や人権問題といった社会問題に目を向け、株主の利益に応えるだけでなく長期的な企業価値を向上させ、株主に限らず全てのステークホルダーの利害に目配りすることが企業に求められるようになっており、それこそが企業の存在意義となっている。
組織の成功を推進する上での「目的」の役割について、著者は本書において示唆に富んだ考察を具体的に展開している。たとえば以下のような例である。
- 赤字続きのスタディサプリに対して、リクルートはどうして投資し続けた?
- 他者に誇れるパーパスを標榜したはずのFacebookがどうして、世界からバッシングを受ける状況へと陥ったのか?
- 破産寸前にまで追い込まれたはずのレゴが、いかにしてパーパスによって復活したか?
- コーラを売り続けたペプシコは、なぜ、健康を掲げる「大きな物語」を語り出したのか?
- 傑出した企業として再興するために、マイクロソフトはどうして、個人のパーパスを重視したのか?
こうした例を挙げることで、目的は単なる流行語ではなく、企業を内部から変革する強力な力であるという考えを掘り下げている。
本書を読むと身近な企業が達成した成功例と失敗例が見えてくる。目的を追求する上での成功と失敗の両方を紹介していることを目の当たりにした読者は、目的への旅路が必ずしも一筋縄ではいかないこと、そして失敗こそが成長の機会であることを認めることになるであろう。
さらに、目的が多面的な影響を与えることを包括的に分析していることも忘れてはならない。リーダーシップの意思決定、従業員のエンゲージメント、イノベーション、さらには顧客ロイヤルティにどのような影響を与えるかを作者は本書で検証している。
もっとも、本書で記されている内容は真新しいことではない。日本人なら近江商人の三方良しを思い浮かべていただければいい。「儲かれば良い」も「儲からなくても社会貢献できれば良い」も経営のあるべき姿ではなく、自分も、相手も、そして社会にも良い方向に進むのが経営のあるべき姿というのは、世の東西を問わず説かれることと言えるのだ。
なお、本書の記載内容と近江商人との比較については読んでいる途中に脳裏に浮かんでから消えることなく、巻末の解説に書いてあって、「やはり」と考えた次第である。