德薙零己の読書記録

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エドワード・グレイザー著,山形浩生訳「都市は人類最高の発明である」(NTT出版)

都市がいかに人的資本、アイデア、経済活動を集中させ、生産性の向上と繁栄につながっているかを論じているのが本書である。

自給自足は経済の無駄遣いである。
食糧生産も、衣服の生産も、住まいの建設も、自分一人、ないしは集落の内部で完結させるような経済環境の場合、生きるのに精一杯になりイノベーションは生まれなくなる。また、食糧も、衣服も、日用品も、家屋の質も、最低限の生活がギリギリできればいいという程度に留まる。そこに余裕は無く、生活の発展もない。
都市というものは経済成長とイノベーションの原動力であり、個人や社会全体に数多くの利点をもたらす存在である。なぜか? 多くの人がいて、多くの人に余裕があるかである。都市では、食糧も、衣服も、日用品も、その多くは生み出すのではなく購入する。その代わりに自分のできること、自分が稼ぐことのできることをすることで都市の中で生きていくこととなる。料理が苦手でも衣服の採寸や縫製が得意で衣服を生み出せるなら、衣服を創り出し販売することで都市の中で生きていくことができる。それは衣服に限らず、その人の得意とするところ、その人の職業とすることができるところで生きていくことができ、最大の生産を生み出すこと、引いては多くの人にさらなる豊かさもたらすことを意味する。

都市は人類最大の発明であるというグレイザーの中心的なテーゼは、本書全体を通して説得力を持って立証されている。彼は、都市環境における多様な頭脳、スキル、アイデアの接近が、経済成長を加速させるダイナミックな環境を育むという説得力のある議論を展開している。資源、才能、起業家のエネルギーを集中させることで、都市は発明の坩堝となり、人口密度の低い地域では実現不可能なペースで知識が共有され、積み重ねられていく。

また、都市は郊外や農村部に比べてエネルギー効率が高く、一人当たりの二酸化炭素排出量が少ない傾向にあることから、密集した都市生活の環境面でのメリットについても考察していることも見逃すことはできない。効率的な公共交通機関、コンパクトな住宅、スマートなインフラなど、優れた設計の都市がいかに環境負荷を削減できるかを示している。この持続可能性の強調は、気候変動や資源保護に関する現代の懸念によく合致している。

本書はわれわれの生活を形成する上で都市が果たす極めて重要な役割を包括的に探求している書籍である。歴史的背景と現代の事例に裏打ちされた都市の力学に対するグレイザーの深い洞察は、本書を、都市化が経済、社会、環境に与える影響に関心のある人にとって必読の書にしている。無数の方法で私たちの生活を豊かにする都市の可能性にスポットライトを当てることで、グレイザーは私たちに、都市の中心部を定義する人間の協力と革新の驚くべき力を思い起こさせる。