德薙零己の読書記録

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リード・ブラックマン著,小林啓倫訳「AIの倫理リスクをどうとらえるか:実装のための考え方」(白揚社)

本書「AIの倫理リスクをどうとらえるか:実装のための考え方」(原著名 "Ethical Machines: Your Concise Guide to Totally Unbiased, Transparent, and Respectful AI" (倫理的な機械: 完全に公平で透明性があり、尊敬に値するAIへの簡潔なガイド))は原著が2022年7月に刊行され、それから一年を経た本年7月に邦訳が刊行された書籍である。

ここで一つ、あまり知られていないことを記しておかなければならない。クレジットカードを利用したら利用履歴がクレジット会社に、デビットカードを利用したら利用履歴が銀行に送られる。クレジット会社や銀行は、その人が、いつ、どこで、いくらの買い物したのかを情報として保持することとなる。しかし、極めて重要な情報は持たない。

それは、「何を買ったのか?」

クレジットカードやデビットカードは、誰がいつどこでいくら使ったのかまでは知ることができても、何のために支払ったのかを知ることができないのである。そのため、その人の購入履歴からその人の個人的属性を知ることはできない。知ってはならないという倫理的な抑制が利いているのである。

さて、本書のメインテーマであるAIについての倫理リスクであるが、AIという後を取り除いてもビジネスパーソンが意識せざるを得ないビジネス上の倫理について考えさせられるないようである。特に、差別問題、プライバシー侵害問題、さらにはゴーイングコンサーンを破壊する致命的な問題を実例を列挙して記している。問題を起こしたのはAIであるが、AIでなくても誰もがしてしまう可能性のあるリスクでもある。

AIを命題として掲げている以上、AI倫理は技術的かつ学問的な好奇心と捉えられる可能性の高いことである。しかし、本書の作者はそのような主張に荷担しない。ビジネス上必要なものであると作者は主張する。AIに関連する3つの主要な倫理的リスクである、バイアス、説明可能性、プライバシーを軽減するための実践的なアプローチを提供し、倫理的であるだけでなく、組織の評判、規制遵守、法的地位の観点からも安全な方法でAIを構築、調達、導入する方法について指針を示しているのが本書である。

倫理を主題として扱ってはいるが、本書は哲学的な内容ではなく、実践的な内容となっている。AI倫理の原則をしっかりと明記することや、倫理的リスクを効果的に評価するチームを作ることなど、実践的なアドバイスが盛り込まれている。その目的は、AIが企業の目標を損なうのではなく、確実に前進させることである。