德薙零己の読書記録

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ジリアン・テット著,土方奈美訳「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」(文藝春秋社)

1999年のラスベガスでのソニー出井伸之CEOは新しいウォークマンを披露した。それも、複数。さらに言えば相互にウォークマンを発表した。どうしてこのようなことが起きたのか?
本書の作者ジリアン・テット氏はこれを「サイロ化(the Silo Effect)」と呼んでいる。企業や自治体が分業を進めた結果、それぞれの持つ情報や技術を部署の中だけでとどめてしまい、隣の部署とのあいだに壁を作ってしまう現象のことである。

本書の著者であるジリアン・テット氏はフィナンシャル・タイムズのジャーナリストであると同時に文化人類学者でもある。サイロ化」いう罠に陥りがちな現代社会における分析も、経済にかかわるジャーナリストとしてだけでなく文化人類学の側面から、企業や自治体がどのように分業化を進め、同時に、サイロ化していくかを論じている。また、単にサイロ化する過程を分析するだけでなくサイロ化してしまった環境に対してどのように対応すべきかについて論じている。

冒頭に述べたソニーはまさにサイロ化の典型である。組織内の部署やチームが互いに孤立し、コミュニケーション、コラボレーション、情報共有が不足してしまったために、貴重な見識やアイデアが組織全体で共有・活用されることなく、特定の部門にとどまってしまう可能性があるため、組織全体の有効性や効率性を阻害して、同じブランドでありながら全く別の製品やサービスを世に送り出してしまう。

ならばどのようにすればサイロ化を回避できるのか? 部門を超えたコラボレーションを促進し、問題解決へのより全体的で統合的なアプローチを奨励することが著者の述べている対処法だ。異なる部門やチーム間で、オープンで、コミュニケーションを図り、理解を共有する文化を醸成することで、組織はサイロ化を克服できると提案している。

部門やチームの分断が、いかに孤立した思考を、限られたコミュニケーションを、機会の逸失を生じさせているか。金融、医療、政府など幅広い業界にわたるケーススタディを通じて、テットはサイロ思考が現実にもたらす結果を効果的に示している。逸話とデータを織り交ぜた著者の手腕は、専門家だけでなく一般読者の心にも響く説得力のある物語を生み出している。専門性が過度に狭くなることの危険性は、専門化が進む現代社会では特に重要である。全体的な視野を受け入れ、組織内の多様な専門知識を活用することの重要性を強調している。著者は異質な部門間の相乗効果の可能性を示すことで、複雑な問題を解決する手段としてのコラボレーションに説得力を持たせている。

サイロ化を防ぐためなら民主集中制として一人の独裁者のもとに誰もが傅かせることで派閥を生み出さずに組織を一本化させるのも有用に思えるが、それはサイロ化を防ぐこととつながらないばかりか、組織を硬直させ、停滞させ、堕落させ墜落させることとなる。それはサイロ化の隠蔽には役立ってもサイロ化の解決には役立たない。