德薙零己の読書記録

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ピーター・シムズ著,滑川海彦&高橋信夫訳「小さく賭けろ!」(日経BP)

2023年8月17日、PLOS ONEに1本の論文が掲載された。The effectiveness of Japanese public funding to generate emerging topics in life science and medicine(生命科学と医学における新たなトピックを生み出すための日本の公的資金の有効性)という論文である。

journals.plos.org

500万円以下の研究費を多くの研究者に配る方が、それまで進められてきた選択と集中、すなわち、高額な研究費を選ばれた一部の研究者のみに支給するよりも結果を出すという結果を示したこの論文は、ネット上で一部の騒ぎを生んだものの、さほど大きな騒ぎとなっていない。だが、この論文で示された結果はこれから先の日本の研究環境を改善させる契機となるはずである。

「世界の」ではなく「日本の」である。

どういうことか?

選択と集中」の過ちに気づいているところはとっくに「選択と集中」から脱却しているのである。

選択と集中」の過ち、より正確に言えば、選択し集中する前の大切さを解いたのが本書「小さく賭けろ!」である。実際に成功した人と組織がどのようにアイデアを実践してきたか、どのように成功につなげてきたかが本書で解説しており、本書の中では、グーグル、ピクサースターバックスグラミン銀行といった企業だけでなく、大物コメディアン、有名建築家などの個人がどのように「小さな賭け」を行い、「素早い失敗」から「素早い学習」を経て成功を収めているかを具体的な事例を通じて紹介している。

たとえばスターバックスと言えば現在ではサードスペースとして全世界に展開するシアトル系喫茶店であるが、そのスタートは現在と大きな物であった。メニューはイタリア語で、椅子がなく、BGMは大音量のオペラ、店員は蝶ネクタイという、現在のスターバックスとは似ても似つかぬスタイルであった。そのスターバックスがなぜ現在のような形になったのか? 失敗したからである。不満の声を集め、店内にはソファを入れ、店員はカジュアルな服装に変え、心地よい場所を提供することで全世界に展開できるようになったのである。

本書にはスターバックスのように、

・小さく賭けて

・素早く失敗し

・素早く学習する

という流れで成功へとつなげる方法が詳しく解説されている。

「失敗から学べ」とはよく言われることであり、失敗を恐れるあまり最初から成功を求めて完全な計画を立てようとする動きがあるが、それはきわめて危険である。それよりも、先に失敗することである。様々な小さな失敗を積み重ねることこそ、成功を掴む筋道である。