德薙零己の読書記録

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瀧音能之監修「巨大古墳の古代史:新説の真偽を読み解く」(宝島社新書)

巨大古墳の古代史 新説の真偽を読み解く (宝島社新書)

大阪府堺市の住宅地図を眺めると、住宅地の中に当たり前のように古墳が描かれている。古墳を観に行くのが小学校の社会科見学となるような場所に住んでいる人にとっては古墳が特別なものに感じられるが、古墳が日常生活にある生活をしている人にとっては、学校や病院と同レベルで生活の中に当たり前に感じられる建造物である。

ただ、いかに学校や病院と同レベルといっても、最低でも1500年の歴史を数える歴史的建造物であり、また、その多くは宮内庁の管理する遺跡である。基本的には、人間が足を踏み入れるとすれば国が許可を出した上での発掘調査のみであり、その他のときは住宅地の中の存在として眺めるだけである。

一方、先に記した大阪府堺市と対を成すかのように孤高な古墳も存在する。古墳そのものが住宅地から離れた場所にあり、あたかも大きな公園であるかのように、日常ではなく非日常の空間であるかのような佇まいを見せている古墳も珍しくない。関東地方で言うと埼玉県行田市の埼玉(さきたま)古墳群がその例である。

こうした古墳は日本各地に点在している。さらには朝鮮半島にまで広がっている。その一つ一つが今から1500年以上前の日本国を閉じ込めたタイムカプセルであり、その時代の情景を留めている。本書はこうした古墳の一つ一つを分析し、解説を書き記している書籍である。ページをめくる毎に日本の太古の姿が蘇り、古代日本の姿を蘇らせてくれる。残念ながら文字資料が乏しい時代であるため具体的な様子を知るとなると厳しいが、それでもタイムカプセルとなっている古墳によって情景を21世紀の現代に浮かび上がらせてくれる。

そして、本書の196ページ以降に記されている疑問点について、知りうる限り誰も回答を示していないことにも気づかされる。

すなわち、「この古墳を建てた人達の住まいはどこにあったのか?」という疑問が。ピラミッドのように建設労働者の宿舎が残っているわけではなく、古墳は古墳しか残っていないのである。その答えとして、本書は新たな解を示している。