日本のテレビアニメは手塚治虫氏の鉄腕アトムに始まる。それはそれで間違いないのだが、あくまでもテレビ番組としてのテレビアニメの開始であり、アニメーションそのものがテレビに登場していなかったわけでもない。何しろ鉄腕アトム放送開始時点でアニメーション製作会社が、あるいは映像製作会社のアニメーション作成部門が存在していたのであり、手塚治虫氏は既存のリソースをフル活用し、30分番組を毎週放送するという前代未聞の偉業を確立させたわけで、アニメーション製作技術そのものをゼロから構築していたわけではない。
では、鉄腕アトム放送開始前、アニメーション製作は何を作っていたのか?
答えは二つあり、一つは映画、そしてもう一つはテレビCMである。
つまり、鉄腕アトムよりも前に、CMという形でアニメーションはテレビに頻繁に登場していたのだ。
どうしても映像の鮮明さという点で限界のあるテレビ黎明期、実写よりも画像が明瞭に示されるアニメーションはCMにおいて重宝されていた。また、長くても15秒、短いと5秒というのも、当時のアニメーション製作技術では適切な規模であった。30分場組を毎週作成してテレビで放送することを考えて実行する方が常識を越えた話であり、まずは映画を前提とし、その一方でテレビCMを創り出すというのがこの鉄腕アトム以前のアニメーション製作の常識だったのである。
本書はこうした、昭和30年代のCMと、CM作成事情についてまとめた書籍であり、その中には、多くの人が知らない、あるいは存在は知っていても実物は見たことないというCMについてもふんだんに解説されている書籍である。それはこの国の放送文化、戦後経済の興隆、そして、この国のメディア構造についても詳しく解説しており、この一冊で昭和30年代という時代を深く知ることができるほどである。
ちなみに、本書にはもう一つ留意すべき記述がある。
それは、文化に対するテレビ局のスタンス。
テレビ局にモノを貸すと返ってこないというのはよく知られている話であるが、それは昔から変わっていないのである。