德薙零己の読書記録

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原田信男著「豆腐の文化史」(岩波新書)

豆腐の文化史 (岩波新書 新赤版 1999)

2009年時点で働いていた人、および、2009年から4年間の間に新卒での就職活動をしていた人の中に、民主党政権を評価する人は極めて少ない。しかし、ごく一部ではあるが、あの地獄の時代を回顧する人がいる。

もっとも、誰もが同じ感情であるというのは、それはそれで恐ろしい。世の中には、あの地獄の時代を良き時代であったとして回顧する人がいても、それはそれで構わない。

その思いは、本書「豆腐の文化史」を読めば強くなる。本書はタイトルの通り、豆腐の誕生から現在に至るまでの歴史を語る一冊であり、豆腐がどのように誕生し、どのように伝播し、どのように受け入れられ、どのように変化していったかを記している一冊である。しかし、一箇所だけ豆腐の歴史の一部であると同時に、前述の感情を喚起させる箇所がある。

天明の大飢饉を回顧する記録だ。

食べるモノがなく多くの人が餓死に追い込まれた時代であったのに、そのことを何ら気に止めることなく、それどころか餓死者が出るほどの凶作であったことの理解すら抱かず、天明の大飢饉の頃を回顧する者がいたのである。しかも、その時代の東北地方の農民の困窮についても農民の贅沢に原因があるからだとし、贅沢を諫めるためにももう五年から六年は凶作が続いた方がいいとまで放言したのである。あの民主党政権ですら回顧するひとがいるのだから天明の大飢饉ですら回顧する人がいてもおかしくはないとは頭の中では理解できるのだが、実際に目にすると人としての心の無さに絶望する。

以上、どうしても本書で気になってしまった点を記したが、本書のメインはタイトルの通り、豆腐がどのようにして生まれ、どのように受け入れられてきたのかを詳細に探求しした一冊である。その中には、豆腐の料理法や油揚げをはじめとする派生食品、また、風土に根ざした様々な豆腐の魅力を描き出すことも含まれ、本書を読んだ読者は豆腐の世界に引き込まれることとなる。

本書は単なる豆腐に関する情報の提供だけでなく、豆腐が各地の食文化にどのように影響を与えてきたか、そして今後どのように発展していくかについての洞察も提供している。これにより、読者は豆腐を軸にして、過去、現在、未来を一貫して理解することができることとなる。

本書は豆腐について深く知りたいすべての人々にとって非常に価値のある一冊であるのはその通りであるが、それだけの一冊ではない。豆腐という軸を通じて文化史を、そして経済史を知ることとなる一冊である。