德薙零己の読書記録

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ジョオン・サースク著,三好洋子訳「消費社会の誕生:近世イギリスの新規プロジェクト」(ちくま学芸文庫)

消費社会の誕生 ――近世イギリスの新規プロジェクト (ちくま学芸文庫)

本書は16~17世紀のイギリスを舞台に、当時の起業と社会の状況を分析した一冊である。この時代のイギリスでは、現代と同じく多くの起業家が現れ、新規プロジェクトを立ち上げてイノベーションを起こし、世の中を変えていった。大英帝国の萌芽の時期であり、その時期を迎えたからこそイギリスは世界帝国として君臨することになったと言える。

この時代のイギリスは高価な外国製品への依存度を下げるために輸入代替政策がとられ、これが各種の起業を生んだとされている。その結果、産業は多様化し、雇用が創出され、増加傾向にある人口は労働市場に取り込まれ、経済が拡大していった。その一方で、現代と同様に、富は人々を腐敗させ、産業活性化のための特許制度は歪められていったことも否めない。

本書は経済史に興味がある読者にとって、洞察に富んだ一冊と言える。それは、過去の経済状況を理解することで、現代の経済問題に対する理解を深めるための鍵を提供するだけでなく、人類普遍の流れを見いだすことで今後起こるであろう問題に率先して対応するヒントを与えてくれている。

我々がどのようにして今日の消費社会に至ったか、その過程で何が失われ、何が得られたかを理解するのに役立つ一冊ある。