德薙零己の読書記録

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ヨリス・ライエンダイク著,田口俊樹&高山真由美訳「こうして世界は誤解する:ジャーナリズムの現場で私が考えたこと」(英治出版)

こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと

本書は、ヨリス・ライエンダイク氏が中東特派員としての経験をベースに、メディアと真実について深く掘り下げた一冊であり、原著刊行は2006年、邦訳版刊行は2011年であるから、現在からすると一昔前の書籍ということになる。しかし、2024年の現在から見ても本書の示すメディアと真実との関係性については変わっていない。変わっていることがあるとすれば、一般市民のメディアリテラシが向上して、著者が主張する内容が一般教養へと昇華したことである。

実際に特派員であった著者からの視点から見ると、メディアは視聴者のステレオタイプに合わせて情報を選択し、独裁政権下では真実を伝えることが困難であるという現実が浮き彫りにされている。本書刊行時、このような視点を持つ人は多数派でなかった。現在は多数派になっていることは時代の発展である。

無論、日本に住む我々から必ずしも合致するとは言えない。オランダからの中東特派員であるという視点、すなわち、西欧の視点から見た「他者」の描写への指摘がある。彼らは敵視する存在や被害者ではなく、世界中のどの人達とも同じように生活を楽しみ、悩み、ジョークを言い合い、多様な生活を送っている。普段接する情報が必ずしも真実を反映していないことを示しており、その関連性は痛切に感じる内容である。

本書はメディアリテラシを考えるきっかけを提供してくれる一冊であり、また、複数の視点を持つことの重要性を説く一冊でもある。

本書の価値は、刊行から18年目を数える今年でもなお失われていない。