德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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カロリーヌ・フレスト著,堀茂樹訳「「傷つきました」戦争:超過敏世代のデスロード」(中央公論新社)

「傷つきました」戦争 超過敏世代のデスロード

社会の正しさ。それはどの時代であろうと追求するものである。ただし、どのようなものを正しいとし、どのようなものが誤りであるかをするのは社会により、そして時代によって異なる。

本書は現代社会の正しさについて深く掘り下げた一冊です。ただし、あくまでも本書刊行時点での「現代社会」である。現在では差別されて当然とされている人達に対し、それは差別では無いかと糾弾する向きが生まれてもおかしくない。そのとき、2023年時点で社会の正しさを訴えている人が後世の人から見ると差別を隠さない人であると糾弾されることもあるだろう。

前述の通り、本書はあくまでも2023年時点の正しさ、すなわち、人種や肌の色によって「正しさ」が決まるという現代社会の問題を鋭く指摘している。人々の立場や出自によって行動が評価され、「傷つきました」という一言で議論が終了する現象について考察しているのが本書である。

その上で本書は、さまざまな事象に対する過敏な抗議が止まらない現状を描いている。それこそ、歌手の髪型、ヨガの流行、日本風パーティーなど、さまざまな事象に対する過敏な抗議が止まらない現状を描いている。著者自身が反差別運動の旗手であり、アメリカの議論に欠けている普遍主義の視点から、世界的なポリティカル・コレクトネスの暴走に対話の活路をもたらすエッセイを提供しているのが本書である。

この本は、読者に対話と理解の重要性を教えてくれます。それは、私たちが他人の視点を理解し、自分たちの視点を他人に伝えるための道具である。