德薙零己の読書記録

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ピーター・N・スターンズ著,上杉忍訳「人権の世界史」(ミネルヴァ書房)

人権の世界史 (ミネルヴァ世界史〈翻訳〉ライブラリー)

人権。この概念を持たない人はいない。

しかし、その概念の適用範囲は時代とともに変化する。かつては人権が存在するというカテゴリーであると認識されていなかった、それこそ嘲笑の材料であったカテゴリーが、現在では人権が存在するカテゴリーであると認識されるようになったという例は数多く存在する。

本書は、人権の概念とその時代的変遷を包括的に探求したものである。本書は18世紀の西洋における人権の勃興から現在の普遍的な地位までをたどっており、様々な抵抗に応じた概念の拡大と縮小を検証している。

ただし、その概念は西洋諸国に始まって世界中に伝播するという図式になっており、その図式が世界貿易と資本主義の拡大とともに「普遍的人権」を他地域に押し付けるという植民地主義的視点にもなっている。そして、著者はこの構造については批判的に分析している。ただ、批判的ながらも、この概念の到達によって救われた人がいたことも認めねばならないのも事実である。

例を挙げると、子ども、女性、同性愛者、環境保護といった、各時代ごとに発見された新しい人権概念の出現である。著者はこれらの権利の確立、発展、変容をたどり、これらの権利についてのニュアンスに富んだ理解を提供している。その上で、人権の歴史的発展をたどることで、現代の課題に対する潜在的な解決策について貴重な洞察を提供しているのが本書である。

本書は人権の歴史的軌跡を徹底的に理解できる、示唆に富んだ読み物であると言えよう。本書は人権に関する文献への重要な貢献であり、有意義な会話や議論を巻き起こすはずである。