德薙零己の読書記録

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タイラー・コーエン著,池村千秋&飯田泰之訳「BIG BUSINESS(ビッグビジネス):巨大企業はなぜ嫌われるのか」(NTT出版)

BIG BUSINESS(ビッグビジネス)

大企業とは、そこの正社員になることが羨望されると同時に、不平不満を集める存在である。その構図は現代にはじまることではなく、中世の荘園も現在の企業に相当するし、古代社会の貴族も現在の企業に相当する。

もっとも、本書はそうした歴史的叙述に関する書籍では無く、現在の大企業に関する書籍である。特に、前段の不平不満をはじめとする一般的な誤解を解き明かし、その存在意義を再評価する一冊である。大企業はバランスの取れた、生産的で進歩的な社会の不可欠な構成要素であるというのが本書の骨子である。

社会の不可欠な構成要素であるという根拠を著者は一つ一つ解きほぐしていく。CEOの報酬からイノベーションの促進におけるテクノロジー企業の役割まで、さまざまなトピックを取り上げることで主張の裏付けをしている。

さらに重要なこととして、大企業に関連する問題は大企業特有のものではなく、むしろより広範な人間の問題を反映しているという本書の主張が挙げられる。本日の記事の冒頭で前述の中世荘園制や古代貴族制を現在の企業に類する存在であると記したが、完全に合致するものではない。企業は社会の他のセクターよりも問題をより効果的に解決することが多い。貴族制も荘園制もそう簡単には崩れなかったし問題解決もすすまなかった。現在の企業は問題を内部で解決させる能力を有している。

その上で企業にはもう一つ役割がある。個人が生産的、創造的、協調的になる機会を創出するという役割である。著者はビジネスについて、単に繁栄を生み出すだけでなく、人々がより良い個人になるための機会を提供するものであることを強調している。

無論、多くの人が考えている問題について、大企業が現在進行形で抱えていることを明言している。詐欺や欺瞞の事例がそれである。ただし、そうした問題はビジネスの世界に限ったことではない。

本書は、大企業に関する従来の常識に挑戦する説得力のある一冊である。新鮮な視点を提供し、読者に企業と社会におけるその役割に対する見方を見直すよう促している。