著者であるエマニュエル・サエズとガブリエル・ズックマンの両名はともにカリフォルニア大学バークレー校の経済学者である。二人の著者は、超富裕層がどのように租税を回避しているのか、その行動の意味するもの、そして潜在的な解決策を詳細に分析しており、その成果をまとめたのが本書である。
結論から言えば、拡大する貧富の格差と、世界の富裕層が抜け穴を悪用し、制度を操作して正当な税負担を逃れる方法を痛烈な告発である。長年に亘る綿密な調査とデータ分析をもとに、富裕層がどのようにこの制度を利用しているのか、その実態を明らかにする。統計、歴史的比較、ケーススタディを駆使し、富の蓄積と租税回避の裏に隠されたメカニズムを暴いている。
かつて、所得税の累進課税は最高税率が80%を超えることも珍しくなかった。それが28%にまで下がっている。これにより格差が拡大した。単純にまとめるとこうなる。そして、結論としてグローバルな富の登録から累進的な富裕税へと至る提案が示され、不平等に取り組もうとする政策立案者や活動家にロードマップを提供している。その解決策は急進的と思われるかもしれない。グローバル資産税など、提案されている政策のいくつかは、読者によっては急進的あるいは非現実的と思われるかもしれない。しかし、著者は正当な理由と歴史的な事例を示し、その実現可能性を示している。
もっとも、かつては累進課税の高さが経済停滞の原因として追及されていた。本書のメインフィールドであるアメリカの話ではなくイギリスの話であるが、累進課税の高さによる経済停滞はイギリス病と呼ばれ諸悪の根源とされてきた。そして、マーガレット・サッチャーの登場により累進課税の抑制をはじめとする税制の立て直しでイギリス経済が復活したという例もある。
本書の述べるとおり、格差の拡大は問題である。その解消方法として格差の勝ち組に対しさらなる負担を求めて格差を解消していくことはよくある話である。ただ、こうも考えるべきではないかと考えてしまうのだ。上を下げるのではなく、下を上げるべきなのではないか、と。たとえば年収1000万円と400万円とでは2.5倍の差だが、2000万円と1400万円とでは1.4倍、3000万円と2400万円となれば1.25倍にまで差を詰めることができるのだから。